内澤旬子「飼い喰い〜三匹の豚とわたし」(岩波書店)を読む。
「世界屠畜紀行」で食肉のために屠られる動物たちと、
屠畜に従事する人たちの営みをルポした内澤さん。
今度は自分で豚を三頭飼い、育て、屠畜して、
食べるまでの一年間を記録するという驚きの一冊だ。
人間っていうのは、動物を殺して食べているという、
いわゆる「原罪」を背負っている。
普段はそんなこと全く気にせず生きているけれど、
あるとき、そういえば今喰ってるトンカツってアレだよな。
誰かが育てて、つぶしたものなんだな、と思い出したりするわけで。
そんな人間の営みを、実際に体験しようとする内澤さんは
何とも凄いというか、覚悟があるというか。
豚って飼うとけっこう可愛いというし、事実、
内澤さんのイラストで描かれる豚たち
(伸、夢、秀、という名前までついている)は、とても愛らしい。
そんな可愛い豚をつぶすなんてできるのか。
実際は屠畜工場でつぶされるのだけど、
その一部始終を克明に書いていく。
内澤さんの淡々とした筆致がいとおしい。
手塩にかけて育てたんだから、美味しくいただきたい。
という決心を貫徹するところの清々しさ。
日本における養豚事情などもきっちり取材していて、
関係者の苦労があって初めて、美味しい豚肉がいただけるんだなと。