治しやすいところから治す--発達障害への提言

花風社・浅見淳子のブログ
発達障害の人たちが
少しでもラクになる方法を考える場です。

最後の、身も蓋もない一言

2012-08-27 10:21:10 | 日記
講演会が始まる前。控え室で瀧澤久美子さんは「泣いた」とおっしゃっていました。
一晩で「30歳からの社会人デビュー」をお読みになったそうです。
そうでしょそうでしょ。
私も原稿読みながら、何度泣いたかわかりません。

最初のご挨拶のときにも、瀧澤さんは声を詰まらせていらっしゃいました。
皆さんに本を勧めてくださいました。

第一部が始まります。
一応聞き手としてそこにいましたが、ニキさんとの講演会とは違う役回りをしようと思っていました。
何しろ事前にちゅん平さんが送ってきてくれたレジュメが、一万字を越える大作だったのです。
私はプーケットのホテルでそれをちくちく、iPadでA4一枚にまとめて主催者さまに送りました。

久しぶりの講演会だし
本当に色々あって、シューカツも成功したあとだし
しゃべりたいことがたくさんあるだろうから
ニキさんのときのように「掛け合い漫才」ではなく、ときどき背景がわかりにくいところとかに説明に入ったり、質問をしたりする役に徹しようと思いました。
そのとおりの第一部でした。
引きこもり脱出から就労、就労後の小さな挫折と転職。
そして今。
本当に頑張ってよかったと思っていること。
感動の二時間弱だったと思います。
昨日、早速
「涙が出るほど感動しました」というお便りがありました。

そういえば「30歳からの社会人デビュー」の
帯のキャッチコピーを私はこう書きましたよ。

「幸せになりたい。
強い人間になりたい。
たとえ障害があっても。
他人より時間がかかっても」

自分の力が大きかった。でも支援も必要だった。だから障害。
その二つを上手に組み合わせて、本当にこれをちゅん平が、実現するまでの話でした。

第二部は瀧澤久美子さんにジョインしていただきます。
まずは冒頭で、瀧澤さんが以前ちゅん平さんが横浜で味わった挫折について話します。
瀧澤さんはそういうところ、見積もりを誤らない方ですが、本当に錯乱状態だったことが思い出されるほどありありと話されて
私はちゅん平大丈夫かな、と少し心配していました。でも壇上でじろじろ見るわけにもいかず。

でもあとで画伯が教えてくれました。
ずっと見てたけど、大丈夫だったよ、ちゅん平落ち着いてたよ、と。

その後は、休憩時間にフロアからいただいたご質問をまじえて話が進みました。
「世界観の塗り替えについてもっと詳しく説明してください」とありました。
一番手っ取り早いのは「自閉っ子は早期診断がお好き」を読んでいただくことですが
まあ一言で言うと「自分も周囲の人間も、人間だとわかった」っていうことかな、と私が言ったら
ちゅん平が大きくうなずきました。

これはね、「30歳からの社会人デビュー」の巻末インタビューで主治医の先生が「ご本人は人間化が進んでいるとうれしそう」とお話してくださったので
「それはいい言葉だ」と使うようになった言葉です。
自分も周囲の人間も、人間だってわかったから、努力するようにもなったし
周囲を思いやれるようにもなったんですよね。
それにはやっぱり視覚支援も結構効果的だったんですよ、
っていう話もしました。

あと多くの方からのご質問にあったのが
「なぜ藤家さんはそれほど強いのか」ということ。
私は答えました。
特別強くないと思う。ただ適切な○○○を与えられていたと思います。

最後に瀧澤さんがなさったお話が
結局肝だと思います。身も蓋もないけれど。

「藤家さんは、障害があるなしの以前の部分で、きっちりと躾の土台ができていた方です。
だから立ち直りやすかったのでしょう」

ああ、本当にそうだなあ、と思いました。
未診断で育ったのは、つらいことだったけれど
今早期診断され、ゆとりの特別支援教育を与えられている子どもたちのように
診断がついたがゆえに、幼いころから真綿にくるむような扱いをされ
その土台を作ってもらえないのなら、二次障害になったとき立ち直るチャンスも遠のいていく。
おそらく療育に携わる多くの方々が、
そのあたりに漠然とした危機感を共有していると思います。

ちゅん平も、告知についてきっぱりと話してくれました。
告知を受け、必要な修行に乗り出すのは、権利だと。
真綿にくるむことが、誰のためになっているのかわからない、と。

昨日2000円払って集まった300人は、回復の話で元気が出る方たちばかりなのだろうから
遠慮なくやろう、と前日打ち合わせのとき私は言いました。
他人の回復に力を落とすような人は、きっと会場に来ないでしょう、と。

これは奇跡的な回復ではない、ということを私は再三強調しました。
きっとこのように立ち直っている人はいっぱいいるはず。
それでもよくなった話を出したがらないのが、このギョーカイの特徴。

後にスタンプ会のとき、支援者の方がお声がけくださり
「浅見さんの言うとおり。劇的に伸びる子がいる。でもそれに関しては緘口令が敷かれる」とお話しくださり
なんだろう、何を守りたいんだろう、と不思議になりました。

最後は画伯による感動的なセレモニー。画伯ブログをごらんくださいませ。
本当に本当に私たちは遠い関東で
ちゅん平がどうなるか、心配していたのです。

画伯が壇上でダジャレを言うのではないかとにらみつけていましたが、言わなかった。
空気の読める男でよかったです。



終了後、愛甲さんと画伯と一緒にお茶(画伯と私はビール)しながら
「緘口令」の話をして
「なんか間違ってるよね~」という話をしました。

でもね、こんなうれしい出来事も。

親子で参加してくださっていた方。
藤家さんの著作に力を得て立ち上がり
「発達障害は治りますか?」を読んで鹿児島に行き
本当に一回の診察で「引きこもり→就労」にたどりついた方。
新刊をお買い上げの上、スタンプ会へ。
そのときにそういうお話をしてくださいました。

神田橋先生にお会いする前、愛甲さんがこういう話をすると
「嘘つくんじゃない!」と思っていた私ですが
本当にこういうことが、起きるんですよね。しかもこの方だけじゃないですよ。

本を出した喜びを感じるのは、こういうときです。

画伯と愛甲さんと別れ、帰宅。
ちゅん平が去った横浜からは、赤く染まった富士山がきれいに見えました。
暑いけど、秋は近いんだな。

おとといまでタイにいて、アンダマン海に沈む夕日を見ていたのに。世界は広いようで狭い。狭いようで広い。
佐賀にいるちゅん平を、ずっと関東で心配していた。
でもこうやってたまに会える。
SNSでは毎日だって話できる。

十月にはこの組み合わせで、広島行きますよ。

これからも、多くの人たちが
花風社の本を役立ててくださいますように。
ちゅん平の回復から、ヒントと元気をもらってくれますように。
それが版元として、一番うれしいことです。



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6 コメント

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購入方法を教えてください (かものはし)
2012-08-27 11:33:18
はじめまして。成人当事者です。

身体症状も大変で予定の講演会も出られなかった藤家さんが、どうやって一般就労にたどりついたのかとても興味があります。

具体的な支援を期待できる年齢ではなく、目標設定するのも難しい年齢ですが、なにか自分でできるヒントがあればと思っています。

この本は、会場以外では、どうやって購入すれば良いのでしょうか?ネット販売は、
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Unknown (中村まこ)
2012-08-27 13:05:56
>「幸せになりたい。
強い人間になりたい。
たとえ障害があっても。
他人より時間がかかっても」

これすごくいいですね。

>別に強くない

ってのも同意します。

藤家さんの新しい本、きっとまた
勉強になることが沢山あると思います。

講演会には残念ながら行けませんでしたが
新しい本楽しみにしています。



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ありましたねえ (浅見淳子)
2012-08-28 06:20:21
かものはしさん、ようこそ。
ありましたねえ、そういうころ(遠い目)。
もう今は別人のように体力と実行機能が備わっています。
書籍は書店やネット書店には、9月末くらいになるかな、と思っています。
直販はそれより、若干早いかもしれません。このブログでお知らせしますね。
ちゅん平さんはときには怠慢な支援者と戦いながら、自分の目標をぶれずに持ち続けました。きっと参考になると思います。
またお越しくださいませ。
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強くならないと (浅見淳子)
2012-08-28 06:22:48
まこさん、ようこそ。
そう。ちゅん平もまこさんも別に特別強くないよね。ただそういうポジションになれば、みんなも持ってるかもしれない力が出てくるのよね。
私はちゅん平やまこさんが特別強いんじゃなく、支援の世界が当事者を見くびってると思ってますよ。
まこさんよりちゅん平はある意味温室の中にいたから、強さを発揮するのが遅くなりました。でもスモールステップで外の世界に出てみたら、それこそ躾を初めとしてこれまで蓄積されたものが花開いた感じです。
またお越しくださいませ。
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Unknown (賢ママ)
2012-08-28 19:18:44
うちの子どもたちの状態が割といいのは、躾を小さいときからしてきたからだと今思いました。療育機関にはいかなかったけれど、毎日こつこつしつけをしていたことが今の状態につながっていると思います。

病院に行くことや療育機関に行くことも大事ですがやっぱり親ができる一番のことは普通の躾ですね。子どもに負けずに基本を教えてきてよかったと思いました。
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そうですね (浅見淳子)
2012-08-29 06:57:45
賢ママさん、ようこそ。
そうですね。そしていくら療育を積み重ねても根本のところの躾がちゃんとしていないと・・・
という問題をベテランの瀧澤さんはおそらくたくさん目にされてきたのだと思います。
その上での指摘だったと思います。
そして言われて見ればちゅん平さんのおうちはしっかりしていたと思います。
またお越しくださいませ。
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