
地球観測衛星による東日本大震災をはじめとした利用事例の紹介」
開催日時:2011年6月20日(月) 18時半〜 約2時間
会場:府大中之島サテライト 2階ホール
主催:Kansai Space Initiative:特定非営利活動法人関西宇宙イニシアティブ
講演者:石館和奈氏((財)リモートセンシング技術センター 利用推進部)
■理念と、現実と
もとより、日本の宇宙開発を取り巻くこうした状況に対して、最も臍を
噛む思いをしているのは。
「だいち」を含む様々な国産衛星の開発に従事してきた当事者たち。
実際に「だいち」のデータを用いて研究を行なってきた人たち。
本講演を行なってくれたRESTECの石館氏のように。
JAXAの衛星データをビジネスに展開しようとして頑張っている、
ディストリビューターの人たち。
そして。
こうした不均衡を是正しようとする意志を持っている政治家や官僚の
方々であろう。
それら、様々な職種、職責に在る方々がこれまでに行なってきた営みに
よって、ようやく2008年(平成20年)には宇宙基本法が制定された。
この法案によって、少なくとも日本は国内外に今後の宇宙開発に対する
自らのスタンスを宣言することは出来た。
あとは、これをどのようにして現実に即した形に実を結ばせていくのか。
宇宙開発に関与するすべての人々にとって、正念場といえる時代である。
では、その宇宙基本法では何がうたわれているのか。
ものすごく平たく言ってしまえば、宇宙基本法の趣意は
「研究開発の重要性は認めつつ、そのビジネスに繋がる裾野を拡大し、
しっかりと収益を(国益を、と言い換えてもよい)挙げられるように
産学官が連携して取り組むこと」
となるであろう。
これについては、2009年(平成21年)3月に開催された、JAXA産学官連携
シンポジウムにて、宇宙開発戦略本部事務局長である豊田正和氏が発表
した「宇宙基本法について 〜産業振興に向けた観点からの解説〜」に
分かりやすく概説されている。
以下に、その中で説明されている宇宙基本法のシノプシスを紹介しよう。
(上記資料のP6より)
● 6つの基本理念
1)平和的利用
2)国民生活の向上等
3)産業の振興
4)人類社会の発展
5)国際協力等の推進
6)環境への配慮
● 11の基本的施策
1)衛星利用
2)安全保障
3)自立的打ち上げ能力
4)民間活動
5)技術の信頼性向上
6)宇宙科学
7)国際協力
8)環境調和・保全
9)人材
10)教育・学習
11)情報管理
● 政策の総合的推進
1)宇宙戦略本部設置
2)JAXA行政組織の在り方等に係る検討
3)宇宙基本計画作成
4)宇宙活動法制整備
もちろん、これらはそれだけではただのお題目に過ぎない。
ここに挙げられた日本の宇宙開発に向けた理念を、具体的な施策に
落とし込み、更にそれを実行に移す、すなわち推進していくことが
求められる。
そのために大きな鍵を握る存在が、この法案により設置された宇宙
戦略本部であろう。
この本部が、日米衛星調達合意に代表されるような諸外圧に対して
適切な対応を行うとともに、国内においては各省庁に存在する宇宙
利権をしっかりと束ねていき、実効的なリーダーシップを発揮する
という、設立の目的をきちんと果たすことができれば。
かつて。
日本の宇宙開発の黎明期であった昭和30年代に。
通産省と文部省(名称は、いずれも当時)が、宇宙に関する権限と
予算を争った結果、NASDA、NALとISASという組織に別れてパワー
ロスが解消されえなかった愚行の歴史から、日本の政治は一つ歩みを
前に進めることが出来るのかもしれない。
もっとも、何事にも表裏はあるもので。
2003年(平成15年)のJAXA存続までは、上述した宇宙関連の3組織の
独立性が保たれていたことによって、ISASの自主新進の気風が今に
至るもきちんとJAXAの中に根付いていることは、慶賀とすべきで
あるが。
#それでも、日本宇宙開発の黎明期を肌で感じた経験をお持ちの
的川先生からすれば、現状の研究開発者の気風は納得が行くもの
ではないらしい。
「おおすみ」打ち上げ40周年を記念したシンポジウムの中で、
的川先生は、
「最近の連中は宇宙をやっていると言いながら
地に足が付き過ぎている」
とコメントされている。
そして、今日。
宇宙空間の持つ意義が、科学技術の進化と共にどんどんと広範囲に
広がっていくに従って。
関与する省庁もまた、どんどんと拡大の一途を辿っている。
その範囲は、ざっと挙げるだけでも文部科学省、経済産業省は言う
におよばず、外務省、総務省、国土交通省、防衛省等の多岐に及ぶ。
だが。
参画する組織数と比例して、その利害関係の(はっきりと利権と書いて
しまってもよい)調整行為の煩雑さも、幾何級数的に増幅していく
であろうことは火を見るよりも明らかである。
その意味では。
宇宙基本法は、現段階ではまだ画餅に過ぎない。
先に「宇宙開発と国際政治」の著者として紹介した北海道大学公共
政策大学院の鈴木一人教授は、宇宙基本法の制定にもアドバイザー
として関与しているが。
その氏の視点から見ても、現状は非常に危惧されるべきものとして
捉えられている。
詳しくは、氏のブログ「社会科学者として」をお読みいただきたい。
その中の10月2日付の記事「Good News and Bad News(その2)」に、
正に本件に関する言及が為されている。
法案の制定時においても、各省庁からの相当な横槍があったという
話はよく聞く。
この辺りは、参議院議員の藤末健三氏がTech-Onに連載されている
一連の記事に詳述されている。
第1話へのリンクはこちらに。
政治が正しく機能することで、これらの障壁が除去され、日本の
宇宙開発がその目指すべき地平に向かって進み出せるように。
今は、野田新政権のお手並を拝見といったところである。
更に。
日本の宇宙開発にとって障壁となる要因が、もう一つ存在する。
それは、敗戦によって日本人の心性に根付いた軍事技術への拒否感が、
宇宙開発に与えている多大なバイアスである。
先にも紹介したが。
戦後のGHQによるWGIP(War Guilt Information Program)は、日本人の
メンタリティにとって劇症的なインパクトをもたらした。
これは、占領軍のWGIP政策が巧妙だったこともあるが、敗北を従容と
受け入れることを潔しとする日本人古来の気質との相乗効果でも
あったであろう。
その結果、日本人は軍事に関するあらゆる物事へのアレルギー体質を
後天的に会得してしまった。
宇宙開発に関連して、もっともわかり易い例を上げるとすれば。
1960年(昭和35年)以降に国会で社会党議員の諸議員が問題視し、
糸川英夫も証人喚問されることにもなったラムダロケット開発に
おける軍事転用可否疑惑論争であろう。
簡単に言えば、ロケット開発はミサイル開発と同義語だ!として
開発の中止を訴えかけた社会党(当時)議員の追求を躱すために、
ロケットへの誘導装置の取り付けを見送ったというものである。
目標に向かって誘導する能力が無いのであれば、ミサイルとして
役には立たない。
だから、その能力を有しない日本のロケットは、断じて軍事用途の
ミサイルとは成り得ない。
そうした苦しい論法を持って、なんとかラムダロケット開発の火を
灯し続けた日本の技術者たち。
まったく、予算や技術上の壁だけでも十分に前門虎後門狼なのに、
更に追い打ちをかけるような疑惑による開発妨害である。
結局、「おおすみ」は誘導装置を持たないラムダによって軌道まで
運ばざるをえなくなったために、重力ターンというウルトラC級の
テクニックでもって打ち上げ〜軌道投入を成功させた。
この辺りの経緯については、言及している資料が存外に少ない。
そんな中で、科学用語の基礎知識 天文学ロケット編にある
ラムダロケットの記述が要領よくまとめられている。
是非、ご一読をお勧めしたい。
勿論、その後に紆余曲折の末、日本のロケットにも誘導装置は
搭載されるわけであるが、それで日本人のロケット=ミサイル
という図式が完全に払拭された訳でもない。
先の宇宙基本法についても。
宇宙の軍事化を懸念するとして、その制定に反対する声もまた
世の中には存在していることも、忘れてはならない。
なお。
この問題は非常に重く、かつ大きなテーマとなるため、今回はこれ
以上の言及はしない。
いずれ、また本腰を入れて論を起こすまでは。
しばしの棚上げとすることを宣言する。
関心の有る方は、先にご紹介した「宇宙開発と国際政治」においても
一部言及されているので、そちらをご一読願いたい。
■だいちよ
景気は長期にわたって低迷し、そこに追い打ちをかけるような先の
震災もある状況下においては。
当面の間、日本の宇宙開発に関する予算は、少なくとも増額させる
ことは困難であろう。
はやぶさ2の予算が承認された(それとても全額ではなく、次年度
に計上される分のみであるが)ことは慶賀ではあるが、その分は
きっちりと他の宇宙開発分野の計画が縮小、または廃止の憂き目を
見ているのである。
つまりは、宇宙関連予算の総量は些かも増額されていないのである。
そのような時代の趨勢の中において。
「だいち」は、その後継機へのバトンを渡すことあたわず、息を
引き取ることとなった。
宇宙基本法の目指す、研究開発と実利追求のバランス最適化という
キーワードにおいて、開発フェーズに入ったとはいえ「だいち2」が
今の仕様と費用でもって、バランスシートにあり続けることは可能
なのだろうか。
むしろ、世界の衛星小型化のトレンドにのって。
衛星バスの小型化を目指す、USEF(財団法人 無人宇宙実験システム
研究開発機構)が提唱する「ASNARO」の方に肩入れすべきなのか。
日本の宇宙開発が取るべき道程を定めることは、これからも容易
ではないだろう。
日本が、果たして正しい道を見出し、あるいは切り開いていく
ことが出来るのかどうか。
その答えは、どこにもない。
既にある答えを探すのではなく。
また、誰かの力を借りるものでもなく。
今を生きる私達が、自ら答えを創り上げていくしか無いのである。
遙か軌道上を、静かに眠りながら今なお周回を続ける「だいち」よ。
願わくば。
その、透徹した目でもって。
祖国日本の宇宙開発の行く末が、正しき方向へと進めるようにと、
見守っていてくれんことを。
(この稿、了)
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あの講演から、日本の宇宙行政まで、よく広げたものだ。
MOLTAさんの知識欲は、無限大。
改めて最初からゆっくり読ませてもらうよ。
なにせ、講演を聞いたのは6月ですから…。
4ヶ月前のレポートは、既にタイムリー性は
皆無ですね。反省します…orz
次は、もっと早く仕上げたいなぁ(遠い目