浅野秀弥の未来創案
【天皇生前退位】
2016年10月27日大阪日日新聞
巧みな逃げ道、有識者会議
いつもご自身のことは二の次にされ、被災地訪問など国民への寄り添いに重きを置かれている今上陛下が相当熟慮の上で心情を吐露されたのが、先の「生前退位に道を拓く」ことを念頭に置いたビデオのお言葉だった。
本来の安倍総理の右寄り思想から考えれば強い抵抗感のある内容だったが、内閣の要である菅官房長官はさっさと有識者会議に丸投げし政権としての判断を避けた。金科玉条のごとく「天皇の一代元号」と「男系天皇」にこだわり続ける安倍総理なら絶対に選ばない有識者会議の中道的顔ぶれをみれば方向性は明らか。政府はこの生前退位問題を来春には特例法を作って「1年後の18年春には生前退位」と定めてしまい、お言葉から丸2年で“一代限りの特異な例”として一気に処理してしまうつもりだ。
一方で、風岡典之宮内庁長官を9月に70歳の誕生日を理由に交代させ、山本信一郎次長(66)を就任させた。安倍政権にとって、風岡長官は「陛下のお言葉を阻止できなかった戦犯」。一方の山本次長は陛下のご意向が一部で明らかになった時点でもガンとして「お気持ち自体存在しない」と平気でマスコミにうそを付き続け、政権の意向を受け火消しに務めた功労者だ。
黒田日銀総裁といい、籾井NHK会長といい、安倍政権人事は官邸の息が掛かった人物を重用し、露骨な政権への露払いを演じさせる。生前退位問題では、宮内庁長官まで官邸が手を突っ込んで替えさせるという事実上の“焼け太り”だ。
宮内庁次長ポストも官邸直結の西村保彦・元警視総監(61)で、警察出身者の起用は22年ぶり。同じ警察出身の杉田和博官房副長官の意向が反映されたとみる。西村氏は有識者会議の事務局に宮内庁側代表で参加し、にらみを効かせる。
安倍首相は菅官房長官のおかげで、陛下のお気持ちをまるでトカゲのシッポでも切るように文字通り粛々と片付けることができ、年明けにも想定される解散総選挙への影響を最小限にとどめた。安倍・菅コンビの判断基準は思想性も公益性もなく「内閣にとってどちらが得か」だけだから何とも空恐ろしい。
あさの・ひでや(フリーマーケット=FM=社社長、関西学生発イノベーション創出協議会=KSIA=理事長)1954年大阪市生まれ。わが国のFM創始者で日本FM協会理事長。関西経済同友会幹事。数々の博覧会等イベントプロデュースを手掛ける。