T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

1239話 [ 「コーヒーが冷めないうちに」を読み終えて 11/? ] 12/28・水曜(晴)

2016-12-28 11:28:06 | 読書

「本作抜粋による粗筋」

第三話「姉妹」家出した姉とよく食べる妹の話 ―2/?ー

[妹・平井久美の死。過去に戻ることを決意する姉]

   カランコロン

「こんにちは」

 入って来たのは高竹である。

 流が、「高竹さん」と言って、あわてて、「房木さんの奥様っ!」と言い直した。

 そんなやり取りを微笑ましく見ていた数が、「休憩してくる」と言って、奥の部屋に姿を消した。流の代わりに、高竹が、「行っていらっしゃい」と言いながら手を振った。

 コーヒーを持ってきた流に、高竹が、「……そう言えば」と言って、

「昨日と今日、平井さん……お店閉めっぱなしだよね? なにか聞いている?」と訊ねた。

 平井は、この喫茶店から10mも離れていない場所でスナックを経営していた。

 流は神妙な面持ちになって、ボソボソと口を開いた。

「妹さんが……交通事故で……それで、ご実家に……」

 高竹も平井の妹・平井久美の事は知っていた。家出をした平井の元を訪れ、月に一度は必ず平井に会うために上京していたと聞いている。

 三日前も、久美は、この喫茶店に来たばかりだった。事故にあったのは、その帰りである。(第二話の冒頭参照)

                               

   カランコロン

「いらっしゃいませ」

 奥の部屋から、計がエプロン姿で現れた。

「マスター! 計ちゃん! 誰か! 塩持ってきて! 」

「平井さん?」

 通夜、葬儀を終えたとしても、こんなに早く戻ってくるとは思わなかったのだろう、計は、大きな目をパチクリさせて流の顔を見た。

 流も流で、高竹と平井の話題でしんみりしていたのに、平井のいつもと変わらぬ高いテンションに戸惑って、しばらく呆然としていた。

「あー疲れたー」と言って、入ってきて、喪服姿の平井は、「お水、一杯貰えるかしら?」と、計に声をかけた。

「このたびはご愁傷さまでした……」

 平井があまりにあっけらんとしているので、流のお悔やみの挨拶は探り探りの言葉となった。

 高竹も迷いながら頭だけは下げている。

(中略)

 平井は、3人の顔を見渡すと、

「私さ、辛気臭いことって苦手なのよ」と、うんざりしたように吐き捨てた。

 計は、それでも、まだ何か言いたそうな顔をしていたので、平井は、

「私、これでもちゃんと悲しんでるの……私には私の悲しみ方があるから……」

 と言うと、すくっと立ち上がり、入り口に向かって歩き出した。

 流は、平井に背を向けたまま、

「まっすぐ家に帰らず、なぜ、ここに?」と、問い詰めた。

「お見通しか……」と、平井は、さっきまで座っていた席に戻った。

 計は、三日前、久美が置いていった手紙を平井に差し出した。

「ありがと……」と言って、平井は封筒から便箋を取り出した。

「あの子の顔も見ないで、こんなことになっちゃて……」

 平井は、涕をすすりながら、

「あの子だけだった……私の事、何度も何度もあきらめずに迎えに来てくれたの……」

 平井の目からは、一筋の涙がこぼれていた。

     

 久美が初めて東京にいる平井を訪ねてきたのは、平井が24歳、久美が18歳のときだった。

 まだその頃は、平井にとって久美は可愛い妹だったので、時々、両親に内緒で、連絡だけは取っていた。

 久美は真面目で素直な妹だった。平井がいなくなった分、両親の期待を一身に受けて、20歳になる前には、老舗旅館の若女将としての顔になっていた。

 久美が平井に、実家に戻るよう説得を始めたのはその頃である。

 若女将としての久美は、多忙の中、二か月に一度、必ず平井に会うために上京してきた。当初は平井も、ちゃんと会って家業の話を聞いていたが、いつの頃からか面倒で、うっとうしく感じるようになった。ここ1,2年は、まともに会ったことはない。平井は久美から逃げるようになった。

 最後は、この喫茶店で隠れて顔も見せず、手紙さえ読まずに捨ててしまおうとする有様だった。

     

 平井は、久美からの手紙を封筒に収めると、

「わかっている。何やったって現実は変わらないって事は……よくわかっているからさ」

「……」

「あの日に戻らせて……お願い!」

 平井は、真剣な表情で深く頭を下げた。

 平井の言う「あの日」とは、久美がこの喫茶店を訪れた三日前、事故に会う直前の「あの日」の事である。

 平井は、死んだ妹に会いに行かせてくれと言っているのだ。

 計も、高竹も、息をするのも忘れて、流の答を待った。ワンピースの女だけだけが、何食わぬ顔で小説を読んでいた。

 流が奥の部屋に向かって歩き出し、姿を消した。

 奥の部屋で、数を呼ぶ流の声が、かすかに聞こえてきた。

 平井が、ワンピースの女の前に歩み寄った。

「あの、そこに座らせてくれる? ねぇ、ひのとおり!」

 手を合わせ、神仏でも拝むように頼む込んだ。

 だが、ワンピースの女はピクリとも動かない。

 奥の部屋から出てきた数は、店内の様子を理解したのだろう、すぐに、

「コーヒーのお代わりはいかがですか?」と、ワンピースの女に声をかけた。

「お願いします」と女は答えた。

 その後、8回、数は、同様に、

「コーヒーのお代わりはいかがですか?」と、繰り返し、ワンピースの女もその都度、

「お願いします」と答えて、休み休み飲みほした。

 数が、9杯目のお代わりを勧めたとき、ワンピースの女は、突然立ち上がって、

「トイレ」と、数の顔を見てつぶやいた。

「ありがと」と、平井は言って、ワンピースの女が座っていた席の前に行った。そして、ゆっくりと座って目を閉じた。

         次の節に続く

 

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