T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

[ 「灰色の北壁→(黒部の羆)」を読み終えて ー2/3ー 3月7日・土(雨)

2015-03-06 14:36:53 | 読書

 ◎ 黒部の羆

<概要・感想> 

 冬の剣岳の寒さや雪の状態などが、文章によってリアルに表現されている。

 しかし、冬山登山の描写は、山のことを全く知らない私には何とも知らないが、遭難者の緊迫感、パートナーとの人間模様には、ぐいぐい引き込まれた。

 救助に向かう山小屋の管理人の主人公が、25年前に、偶然にも、同じ二人のパーティーで、同じ場所、時期に冬の剣岳に登攀し、同じような遭難にあった物語を、同じ時系列のような形で交錯して記述されている。いわゆる叙述トリックが使われている推理小説だ。

 このことが文章の中に、それとなく表現されているので、この章は現在のことか過去のことの記述か、文章をゆっくりと注意して読み進めていかないと物語に騙されてしまい、疑問のの積み重ねで前に進めなくなる。それと、文章の主語が省略され過ぎているのでなおさらである。

 そのために、の章№の後に彩色をつけた短文との文章の中に彩色をつけた主語(遭難者、救助者)を補足してみた。

 ミステリー小説は、読み進む都度、 ? ?と疑問が残るので読みづらくあまり好きでないが、この短編はパートナーとの人間模様の心情が心に響き、再読する価値のある小説だった。

<登場人物> 

 矢上浩太  主人公。

                 大学山岳部員から警察官になり山岳警備隊を退職した警察官OB。

         黒部から剣岳に向かう途中の山小屋の管理人。

         愛称「黒部の羆(2代目)」。

 瀬戸口幸夫 大学山岳部部長。矢上のパートナー。

 樋沼 猛   黒部から剣岳に向かう途中の山小屋の管理人。初代の「黒部の羆」。

 後藤美保  矢上の亡くなった妻。

 伊勢警部補 馬場島派出所の分隊長。「黒部の羆(3代目)」を希望。

 

 第一章 <現在> 山小屋のオヤジの矢上浩太は、緊急無線の呼び出しを受けた。

 剣岳を中心とした特別危険区域は、12月から4月まで入山規制されているが、11月初旬というのに、早くも冬型の気圧配置が強まっていた。客もなく、山小屋の屋根に吹き付ける吹雪が唸っている。

 そのため、登山者は、二日前に、地元大学の山岳部の二人のパーティー一組だけが、黒部に入ったらしいことを聞いた。

 若者は体力に任せて登山しがちだと思いながら、"黒部の2代目羆"こと矢上浩太は、苦い記憶が斑(ハダレ)雪となって胸底に降り積もっていき、25年前の馬鹿な自分が思い出された。

 山小屋の撤収準備もほぼ終了して、朝食を済ませた時に、トランシーバーの信号音が鳴り、緊急無線の呼び出しを受けた。

 第二章 <過去> 矢上浩太と瀬戸口幸夫は、剣岳を目指す源次郎尾根登攀中に

             瀬戸口が滑落した。

 25年前の11月、大学山岳部の矢上浩太と瀬戸口幸夫は、黒部から剣岳を目指していた。

 二人とも、降雪期の剣を二度にわたって経験しているので、降りしきる雪も気にならず、ルートを変えて八ツ峰へのチャレンジも出来たのではないかと、矢上が瀬戸口に話しかけた。瀬戸口も多少の未練はあるが、麓で提出した登山計画書の変更はできないと返事した。

 今回の剣行きを持ちかけたのは矢上で、母親の再々の帰郷催促から、冬の剣は、これを最後にしたいと瀬戸口に提案し、多忙の中をOKをもらったのだ。また、瀬戸口は新人の頃からリーダーとしての素質をそなえていて、部長にも指名され、来年夏のヒマラヤ遠征隊にも抜擢されていた。そんなことから、矢上は瀬戸口の主張を受け入れ、当初のルートを進んだ。

 岩壁を回り込んで尾根へ戻ると、顔に当たる雪が少し強まってきた。矢上は天候の悪化を喜ぶ自分に気づき、冷えた体と心を震わせた。俄然、闘志が湧いてきた。

 ここで自分の本当の実力を瀬戸口に見せつけてやる。遠征隊に選ばれなかったのは実力以外の要素が大きく影響していたのだ。昨年三月の冬合宿で、経験の乏しい後輩の疲れ具合を見落として計画を強行し、後輩たちを沢の中間稜で立ち往生させ、瀬戸口の隊が引き返してきて助けてもらった。そのミスがOBの耳に届いたのに違いないと思っている。

 さらに、好きだった山岳部マネージャーの後藤美保が心変わりしたのか、部から身を引き、しかも、部長の瀬戸口の口から別れの言葉を聞かされた。挙句は父の急死があり、矢上には、もう何も残されていなかった。それに比べて、瀬戸口は順風万歩で、栄光を一人で掴みつつある。

  代わろうと声をかけてきた瀬戸口に先頭を譲った。瀬戸口に先頭を譲ってからは、まるで乱れる矢上の心を写し取ったかのように、雪と風の勢いが増してきた。しかし、いつまでたっても、瀬戸口は弱音を吐かず、彼からの交代の申し出は無かった。矢上はお前の本当の力を見せてもらおうかと、瀬戸口の出方を待った。

 I 峰まで、あと何ピッチでたどり着けるかと、先を案じ始めた時だった、氷を削る音が頭上で鳴った。矢上が見上げた瞬間、白い急斜面を黒い影が滑り落ちてきた。

 第四章 <過去> 瀬戸口が滑落し、一時、意識を失う。

 矢上から10メートルほど下の壁面で、瀬戸口は胸を反らせるような体制で仰向けになって風にさらされていた。矢上は祈るような思いで、瀬戸口の名前を続けさまに呼びかけた。

 二人は互いにライバルとみなしてきた。醜い意地の張り合いが、この結果を惹き起こしたといえそうだ。そのことが分かっていて、矢上は挑発する意図を隠さなかったのだ。敢えて煽ったのだから、滑落の引き金を引いたも同じだ。

 このまま瀬戸口が意識を取り戻さなかったらどうなるだろう。彼を背負って尾根まで登りきる自信はい。

 一瞬、恐ろしい想像が寒さのために痺れかけた脳裏をよぎった。瀬戸口を見捨ててしまえば、この窮地から逃れることができる。

 仲間を切り捨てるのはもちろん最後の手段だと、次の一手を懸命に思案した。登るのが無理なら、下がるしかない。降りていき、小さなテラス状の岩棚を見つけることを考えた。その時、瀬戸口が持っていたトランシーバーで救助を求めなければと思った。

 とても長く感じた10メートルの距離を足探りで、瀬戸口のヤッケのジッパーを引いた。瀬戸口の首からぶら下っている状態のトランシーバーで、遭難場所は源次郎尾根のI 峰手前、パートナーが滑落して意識が無いと救助を願った。山岳警備隊からは一晩ビバークして頑張れとの返事だった。

 瀬戸口が意識を取り戻し、「すまない、矢上」と、紫がかった唇が動いて風に消されがちな細い声が、矢上の耳に届いた。

 第三章 <現在> 2代目黒部の羆の矢上に救急協力の要請があった。

 馬場島派出所の伊勢分隊長から、北峰ロッジの羆(2代目)こと矢上に、遭難者からの救急要請があり、現場が其方に近いとのことで協力要請があった。

 遭難場所は源次郎尾根のI峰付近の氷壁。二人のパーティーで、一人が長治郎谷側へ滑落した模様で、ロープの先で宙吊りとなって意識を失っているとのことであり、春に立山から剣への縦走経験がある成稜大学山岳部員とのことで、とりあえず、現場の状況確認だけをしてくれとのことだった。

 羆(矢上)は手早く準備して出発した。

 第五章 <現在> 矢上は、一人で遭難救助に足を進めた。

 矢上は、遭難者二人のトレールを辿って登りに入った。暫く行ってから、馬場島の本部を呼び出し、「こちら羆、あと2時間もあれば、現場に辿り着ける、現場へ近づいたら遭難者へ直接呼びかけます」と、連絡を入れた。

 ヘリの爆音が後方から聞こえたが、姿を確認せず、矢上は、遭難の場所への距離を稼いで進んだ。

 この尾根へ足を踏み入れるたびに、25年前の記憶が甦ってくる。あの時も、このルートを取ったが、たった二人で、この時期に剣を超えようというのだから、ある程度の技量を持つものだろうが、若さは過信を生みやすいと思った。

 そして、よく似た状況の彼らを救うために、自分はあの時生かされたのだ。天の配剤とはよくしたものだと思った。

 そんな時、トランシーバーが鳴り、伊勢から、ヘリで剣沢に到着したが、上士の命令で明日の朝、駆けつけることになったとの連絡が入った。

                                                           (次章に続く)

 (物語が理解しやすいように、しょうの順序を変更した)

 

 

 

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