T.NのDIARY

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1239話 [ 小説「コンビニ人間」の粗筋 -5/? ] 9/21・水曜(曇・晴)

2016-09-21 12:29:21 | 読書

[文章抜粋の粗筋-5]

◆ 白羽さんを叱りに来た私の妹も、反対に彼に翻弄される。

 妹が私の家に来たのは、私が電話してから一か月経った頃だった。

 妹は温和で優しい子なのだが、「お姉ちゃんのために一言言ってあげたい」とやって来た。

 白羽さんに挨拶したいという妹に、その必要はないよと言って、私は、白羽さんの餌のご飯と茹でたジャガイモとキャベツを台所の洗面器に入れて、白羽さんがいる風呂場に持って行った。

 白羽さんは、バスタブの中に敷き詰めた座布団に座ってスマホをもてあそんでおり、私が餌を渡すと黙って受け取った。

「お風呂場に入っているの?」

「一緒の部屋だと狭いので、そこに住まわせてるの。ちょっと面倒だけれど、でも、あれを家の中に入れておくと便利なの。皆が喜んでくれて、祝福してくれるんだ。勝手に納得して、あんまり干渉してこなくなるの」

「こんなことだと思わなかった……」[風呂場に住まわせ、洗面器で餌を]

 妹が震える声を出したので、驚いて顔を見ると泣いているようだった。

「お姉ちゃんは、いつになったら治るの……? お姉ちゃんは、コンビニ始めてからますますおかしかったよ。喋り方も、表情も変だよ」

「じゃあ、私は店員を辞めれば治るの? 白羽さんを家から追い出したほうが治るの? ちゃんと的確に教えてよ」

 妹は泣きじゃくり、返事をくれることはなかった。

 その時、風呂場から白羽さんが出てきてた。

「すみません、今、実はちょっと古倉さんとケンカをしていたんです。びっくりしましたよね」

 突然に風呂場から出てきて喋りはじめた白羽さんを、私は茫然と見上げた。

「実は僕、元カノとフェイスブックで連絡を取り合ってしまって。二人で飲みに行ったんです。そうしたら恵子が怒り狂って、一緒に寝られないと言って、僕を浴室に閉じ込めてしまったんです」

 妹は、白羽さんの言っている意味を反芻するようにしばらく彼の顔を見つめ続けて、「そうだったんですか……そうですよね」と言ってから、

姉から聞いてたんですけど、仕事もしないで転がり込んできて、私、姉が変な男性に騙されてるじゃないかって心配で……、そのうえ浮気なんて! 妹として、許しませんよ」

 妹は白羽さんを叱りながら、この上なくうれしそうだった。

 そうか。叱るのは、『こちら側』[普通の世界]の人間だと思っているからなんだ。だから何も問題は起きていないのに『あちら側』[普通でない思考の世界]にいる姉より、問題だらけでも『こちら側』に姉がいるほうが、妹はずっと嬉しいのだ。そのほうがずっと妹にとって理解可能な正常な世界なのだ。

わかっています。ゆっくりですけど仕事は探しますし、もちろん、籍だって早めに入れようって思ってますから」

「このままじゃ、私、両親に報告できないですよー!」

 きっともう限界なのだろう。店員としての私を継続することを誰も望んでいない。

 店員になることをあんなに喜んでいた妹が、店員ではなくなることこそ、正常だと言う。 

◆ 白羽さんの義妹の言葉をうまく利用した白羽に、

  コンビニ人間としての私が壊されて、

  体も許してしまう。

 翌日、アルバイトから帰ると、玄関に赤い靴がおいてあった。

「どちら様ですか?」と声をかけると、

「私、この人の弟の妻です。この人が滞納していた家賃を肩代わりしているので、返してもらおうと思って来たのです」と言って借用書をテーブルの上に置いた。

「本当に……あの、お金は絶対に返します……」と言って白羽さんはうな垂れている。

 義妹は私に視線をよこした。

「当然です。それで、この人とはどういう関係なんですか? 無職なのに同棲してるんですか? そんなことしている暇があったら、いい大人なんだからちゃんと就職してください」

「結婚を前提にお付き合いしています。僕は家のことをやって、彼女が働くことになっています。彼女の就職先が決まったら、お金はそこからお返しします」

「貴女は、今はどんなお仕事されているんですか?」

「コンビニのアルバイトをしています」

 義妹が唖然とした様子で叫んだ。

「はあ……!? え、それで二人で暮らしてるんですか!? この男は無職なのに! やってけるわけないじゃないですか! 行き倒れになりますよ! 何でアルバイト?」

「……」

ある意味お似合いって感じですけど……あの、赤の他人の私が言うのもなんですけど、就職か結婚、どちらかしたほうがいいですよ、と言うか、両方しないと、いつか餓死しますよ」

「二人で話し合ったんだ。子供ができるまでは、彼女にはバイトを辞めてもらって就職する。そのため毎日職探しする。子供ができたら、僕も仕事を探して一家の大黒柱になります」

 義妹は、「まあ、相手がいる分、前よりかましになってる気がしますけど……」と言い、立ち上がった。

 白羽さんは、「やった、うまく逃げれたぞ!」と興奮した様子で、私の両肩を掴んだ。

「古倉さん、あなたは運がいいですよ。処女で独身のコンビニアルバイトだなんて、三重苦のあなたが、僕のおかげで既婚者の社会人になれるし、誰でもが非処女だと思うだろうし、周りから見てまともな人間になることができるんだ。それが、一番みんなが喜ぶ形のあなたなんですよ。よかったですね! そのかわり、ずっと僕を隠し続けてください」[?]

 帰って早々、白羽さんの家族の事情に巻き込まれた私は、ぐったりと疲れて白羽さんの話を聞く気にもなれず、

「あの、今日は家のシャワーを使っていいですか?」と言った。

 白羽さんがバスタブから布団を出し、私は久しぶりに家のシャワーを浴びた。

 水の音しかしない。耳の中に残っていたコンビニの音が少しずつ掻き消されていく。

 蛇口をひねると、久しぶりに耳が静寂を聴いた。

 久しぶりの静寂が、聞いたことのない音楽のように感じられて、浴室に立ち尽くしていると、その静けさを引っ掻くように、みしりと、白羽さんの重みが床を鳴らす音が響いた。

 「白羽と別れて、いったん止めたコンビニ店員を続ける」の項

 に続く

  

 

 

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