鹿の庵

鹿の書いた小説の置き場所です。
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第04話 仮面の理由

2009年03月21日 00時41分37秒 | オリジナル
 なんか体がゆらゆらと揺れていて、まどろみの中に耳障りの良い声が聞こえて来る。

「トシ様、朝食のお時間です。
 起きて下さらないと……全て食べてしまいますよ」

「んぁ……ねぇや?」
「…………ふぅっ」

 耳元に暖かい風を感じて目が覚めた。目を開けるとヒスイさんの素顔が目に入る。このまま、まどろみながら見ていたい気もするが、角度が今ひとつなので体を起こす事にする。うん、やはり正面からが一番だ。

「おはようございます。これで顔を洗ってください」
「おふぁようございます」

 ヒスイさんは水の入った底の浅い桶を俺の膝の上に置いた。とりあえずは、ぴしゃぴしゃと顔を洗う。そして差し出されたタオルで顔を拭いて、やっと目が冴えた。

「えっと……これはリタの仕事なのでは?」
「リタは朝食を取りに行ってます。それに桶を運んで来たのはリタです」
「ありがとうございました」
「どういたしまして」

 にこにこされると、お礼しか言えなくなる。当然の事ながらヒスイさんに優しく起こされて嫌なわけもなく。お姫様に朝起こされるって……正直凄く嬉しいですよ。

「では、失礼しますね」
「これは何ですか?」
「保湿液です」
「あぁ。みなさん、肌綺麗ですもんね」
「ありがとうございます」

 こうして話してる間にもヒスイさんがペタペタと保湿液を塗ってくれてる。俺は当然なすがままですが何か? 止めるには手を掴まないといけないんですよ! 無理に決まってるじゃないですか畏れ多い。

 そうこうしてドアがノックされるとヒスイさんは仮面を嵌める。本当に徹底しているな。なんで顔を隠しているのかは完全に謎だ。綺麗過ぎるからかな? と、思いつつノックに返事をした。

 失礼しますと入って来たリタはルームサービスのカートみたいので、朝食を運んできてくれたようだ。この部屋には高そうなテーブルセットも置いてある。

 昨日は余裕がなかったのと部屋の物が全て大きかったので、目測が狂っていたらしく部屋の大きさは二十畳以上ありそうだ。ベットだけで四~五畳ぐらいのサイズだし。

 配膳を終えたリタは部屋から出て行き、今回の椅子は差し向かえになってる。そして料理やマナーについて説明を受けながら朝食を食べているけど、この配置はこの配置で真正面に素顔のヒスイさんがいて破壊力が高い……。食事中にじろじろと顔を見るのも失礼なので、頑張って目を逸らせていたら質問された。

「ねぇや。と言うのは、どなたか聞いてもよろしいですか?」
「実家が旧家だったもので、行儀見習に来ていた使用人達の俗称です」

 そういえば寝ぼけて言ったような気もするな、たぶん他に可能性の候補が浮ばなかっただけで、毎朝起こしてくれる幼馴染とかなんとか、そういった色っぽい話では欠片もない。

「そうでしたか。不躾な質問に答えて頂き、ありがとうございました。
 代わりと言ってはなんですが、わたくしにご質問が有りますれば、
 何なりと仰ってください」

「お言葉に甘えますが、
 たんなる好奇心ですので、無理なら断ってください。
 その仮面を付けている理由を教えて欲しいかなと」

 やっぱり一番気になるのはそこだ。この世界で最初に見た物だしね。

「それは、この蒼眼を隠すためです。
 この世界では古来より髪眼同色の持ち主は、
 英雄(聖女)の素質を持つと言われています。
 ですが、約四百年ほど前に黒髪黒眼のニゲラ王が、
 帝国の支配体制を打破するとして蜂起。
 電撃戦にて帝都を陥落寸前に追い込んで以来、
 帝国は属国の髪眼同色に警戒感を持っているのです」

 さ、流石ファンタジーな異世界だ……。

「そのような歴史的経緯から
 髪眼同色の王族の存在は帝国を刺激し過ぎますので、
 八歳の折に蒼眼が現れて以来、仮面を外さずに過ごしてきました。
 もちろん誰が見ても怪しい事この上ないので、
 仮面を付ける口実は別に用意していますが……」

 ヒスイさんが聖女とか、似合い過ぎるもんな。

「私も瞳が黒いわけですが……」
「帝国支配体制下では、なるべく隠された方がよろしいかと」
「……帝国の支配体制について教えて下さい」

「はい。まずは中央にラナンキュラス神権帝国が座しまして、
 東西南北に属国が配され魔物の支配領域と対峙しています。
 我がローレル王国は帝国の北側に配された属国です。
 そして我が国に侵略して来る可能性が最も高いのが西側の国です。
 また先程の話に登場したニゲラ王国は、帝国の南に位置します」

 つまりあれですか、どこの国に行っても窮屈な思いするんですか、気を取り直して質問を続けよう。

「帝国の属国同士なのに戦争になるんですか?」

「国境紛争は頻繁とは言いませんが起きます。
 ある程度のところで帝国が調停に乗り出して来るでしょうが、
 現状では西側の国に優位な和睦条件になる上に、
 帝国には調停の見返りを要求される事になります」

「なるほど……」

 うーむ、なんか一気に国が滅びそうなのかと思ってたけど、滅びなければ良いというわけでもないのか、国民の生活とか苦しくなりそうだ。と言うか、これって生かさず殺さずって奴なのかな?

 あれこれ悩んでも政治とか手に余るので、とりあえず単純化すると戦争に参加して西側の国の軍を撃退するか、どっかで目を隠しながら暮らすかの二択にならざる得ないだろう。

 まだ決められないけど一応は隠して暮らす方法を探る方向性で行こう。

 しっかし、いざここから去るとなったら盛大に後ろ髪引かれる気分になりそうだ。カラーコンタクトか、サングラスみたいのがあればなぁ。いっそ戦争に参加しちゃおうかな? あぁ~、土壇場で逃げる俺が見える。

 俺が自分の考えに沈みこんでいるのを察してくれたのか。それ以上はヒスイさんも話さず朝食は終了した。そして午前の予定を聞かれたので実験室を使わせて貰う事を話した。

「木製の使い捨て標的を用意して置きました。ご自由にお使い下さい」
「何から何まですいません」

 細やかな気遣いが心地良すぎるんだよなぁ。





 そんなわけで地下の実験室で使える魔術を試してます。

 あのゲームには直接の上位魔法ってのは無くて、威力を上げたり範囲を広げたり持続時間を延ばしたり射程距離を伸ばしたり特殊効果を付けたりと、魔術を拡張する事で効果を上げるシステムだった。

 当然の成り行きとして拡張すれば魔力の消費量は上がるし、何種類も拡張しまくれば魔力の消費量は天井知らずの、魔力ゲーだった。

 ここが結構広いとはいえ攻撃系で拡張を試す気にはならない。そっちは素で一通り使うだけで良いや。もちろん隕石招聘はやらん。補助魔術でいろいろな拡張を一通り試して見たところ問題なく使えた。

 まあ、攻撃系も拡張できるだろう。たぶん。

 うーむ。神術や精霊術と違って戦闘に特化してるな。スキルも魔術強化系と魔術拡張系に極端な振り分けしてる。移動系の魔術が使えたので逃走方法は確保できたけど、方法云々より心理的な問題なんだよな……。

 次にアイテム袋の中身を確認。消費アイテムがってか魔力回復用の魔晶石がアホみたいに入ってる。これがまともな値段で売れるのならば、たぶん金には困らないだろう。

 装備品の類は特定の敵に使ったりするのが少々か。大量にレアな武器防具を死蔵していた銀行の倉庫があれば、そこから武器防具を提供するだけで粗方の問題が解決したかも知れない。

 どうせ装備条件が満たせないかな? どちらにしろ虚しい仮定だ……。



続く

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