鹿の庵

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第29話 仕様と魔法

2010年02月04日 19時36分23秒 | オリジナル
 後始末の終わったヒスイさんが隣の席に戻って来た。軽くスカートを押さえながら、ふんわり淑やかに座る所作にも見蕩れてしまう。さっきから俺は魅了されっぱなしの状態だ。

 見るとヒスイさんの頬は僅かに上気していたので、お返しに愛撫でもした方が良いのかなと迷っていると、俺の耳元に口を寄せたヒスイさんは、小声で「今宵のベッドで可愛がって欲しいです」とささやいた。

 防音性能が有るっぽいとはいえ、馬車の中では落ち着かないか。

 ヒスイさんが必死に声を抑えようとする姿は、いじらしくて興奮するだろうけど、万が一にも嬌声を他人に聞かせたくない気持ちの方が強いので、ヒスイさんがそう望むのなら異論は無い。

 ただヒスイさんにも何かお返ししてあげないと、俺としては感謝の気持ちに収まりが付かないので、何でも良いから希望はないか尋ねると、ヒスイさんは可愛らしいお願いしてくれた。

「~~~♪」

 現状を説明すると、ヒスイさんが俺の太腿の上に頭を乗せている。つまりは膝枕だ。男の膝枕なんて嬉しいのかなと思うけど、ヒスイさんが上機嫌なので構わないのだろう。

 しかし、腿に頬擦りされていると気持ち良かったりするので、空になってなかったらヤバかったかも。ある意味で、今の状況でしか出来ないことだから、その辺は流石ヒスイさんって感じだ。

「なんか猫みたいですね。可愛いです」

 自分の膝の上で幸せな雰囲気を醸し出されると、かなり和む。

「トシ様は、猫がお好きなんですか?」
「そうですね。犬と猫なら猫の方が好きです」

 無遠慮かとも思ったけど手持ち無沙汰なので、相変わらず艶のある青髪を手櫛で梳いてみると、ヒスイさんは嬉しそうに目を細めてくれる。そのまま安らかな空気に浸っていたら、凄いことが起こった。

「にゃ~、にゃ~♪」

 ヒスイさん、貴女は俺を萌え殺す気ですか……。

「みぃ~、みぃ~♪」

 俺が悶絶しつつ膝の上を見てみると、ヒスイさんは頬を染めながら猫の泣き声を真似ていた。正直、声に透明感が有り過ぎて似てないけど、俺を楽しませようという気持ちは、痛いほど伝わって来る。

 まったく、どんだけ健気なんだよ。

 吹っ切れた俺が苦笑しながら顎を裏を撫でると、ヒスイさんはくすぐったそうに首を竦めながらも、弾んだ調子で「ごろごろ♪」と喉を鳴らす真似をする。実はヒスイさんも猫が好きなのかもしれない。

 そんな感じでイチャイチャしながら、二人の時を過ごした。




 やがて馬車が止まり合図の鈴が鳴らされたので、俺は《不死王の衣》のフードを、ヒスイさんは仮面を被ってから車外に出ると、楽しい時間は早く過ぎるものなのか、外はすっかり日が暮れていた。

 篝火に照らされた宿営地には、テレビで見たことのある遊牧民が使っていた奴に似た感じの天幕が並んでいて、俺とヒスイさんが今晩宿泊するのは、他の天幕とは距離を置いた中心にある天幕のようだ。

 良く見ると横に小さな天幕がくっ付いていて、そっちは風呂らしい。

 内部の調度品は城と比べればグレードが落ちるが粗末ではなく。寝台にしても天蓋こそ付いていないけど、ダブルベッドくらいのサイズは有る。外に出ないで隣の天幕に移動できる構造なのも嬉しい。

 ヒスイさんは風呂に入るとのことなので、その間に俺はリタのマッサージを受けるよう勧められた。ほぼ揺れない特殊な馬車とはいえ、朝から晩まで座りっぱしで疲れていたから有り難く受ける。

 ちなみに女王付きの女官達も同行していて、俺は心の中でだけ騎馬メイド小隊と呼んでる。見た目以上に居た親衛騎士の例もあるから、裏方も含めれば中隊になるのかもしれないけどね。

 リタに促されるままうつ伏せに寝転がってマッサージを受けると、凝った筋肉を揉み解されるのは気持ち良いし、かなり身体的な接触も多いので、妙な気分になったらマズイなと思ったけど杞憂だった。

 もちろんリタは魅力的な美少女だし、黙々と仕事をこなす姿には好感が持てるし、異世界人に日々の生活で不都合を感じさせない時点で有能だとも思うが、今の俺はヒスイさん以外の女性に意識が向かないようだ。

 その後ヒスイさんが風呂から上がるころに夕食の用意が整う。城での食事と比べても、品数が減ってるぐらいで味自体は落ちていないから、アウトドアに不慣れな俺でも特に不満は感じない。

 風呂上りで、ほのかに色付いた肌のヒスイさんが隣に居るしね。




 そして食後のティータイムには、この世界の魔法全般についてヒスイさんに聞くことにした。まずは魔術から聞くと、俺が《転移》等この世界に存在しない魔術を使える以外は、かなりゲームの設定と似ている。

 二重召喚の対象は、魔法の法則が同じ世界から選ばれたのかな?

 この世界の魔術師に出来て俺に出来ないことを上げると、低威力の攻撃魔法を使うことになる。俺の魔術は拡張なしでも最低限の殺傷力が出てしまうし、仕様的に下方修正する方法を持っていない。

 例えば弱い《爆炎》を火打石代わりの火種に使ったり、弱い《風刃》をハサミやカッターの代わりに使ったり、弱い《氷結》で表面の水分だけを凍らせたりと、俺には器用で細かい魔術行使が不可能だ。

 あとは自分の魔力量を秘匿する技術とかもだから、基本的に技巧面では劣る部分が多いと思う。まあ魔力量は装備でも隠せるし、俺に期待されているのは広域殲滅だろうから問題ないのだけど。

 魔術・精霊術・神術の魔法三種を比較すると、魔術は物理現象を魔力で再現する術式なので、大規模な効果を発現させることに向いているが、微細な制御は苦手分野であり、特に人体へ影響を及ぼす魔術は危険。

 攻撃系が得意で、防御系と補助系も可能だけど、回復系は不可能。

 精霊術は魔力で精霊を使役する術式なので、基本的な制御は精霊に委任できるから、曖昧な操作感覚で細微な制御が可能。術式で肉体に影響を及ぼしても副作用がないけど、周囲の自然環境による制限を受ける。

 補助系が得意で、回復系と防御系と攻撃系が全て可能。

 神術は魔力と信仰心で奇跡を起こす術式なので、術式と言うほどの理屈は存在せず、回復術は断裂部位の接合も可能だし、防御術は個別に防御膜を張ることも出来るが、他者を傷つけることは出来ない。

 回復系と防御系が得意で、補助系も可能だけど、攻撃系が不可能。

 それぞれの術式に対応した儀式魔法もあり、魔術師の扱う《召喚魔術》は様々な制約があるから、対象を特定することが不可能なので、通常は大規模な物理現象を召喚して攻撃に用いるようだ。

 精霊術師の扱う《精霊現界》は、通常の精霊術のように自然現象だけを発現させるに止まらず、精霊自体を現界させる原始儀式であり、《火精サラマンダー》を使役しての製鉄とは、これを用いているとか。

 神術師の扱う《神意降臨》は、強力な回復術や防御術を行使する際の宗教儀式ではあるが、死者蘇生の成功例は存在しない。何れの儀式魔法も莫大な魔力を必要とするので、アーティファクトや頭数が必須だという。

 種別としては、騎士団魔法も儀式魔法に分類されるらしい。

 そして帝国千余年の支配政策により、神聖教以外の宗教が廃絶されているから、事実上神術は神聖教会の独占物になってしまっていて、現存する神術師は必然的に神聖教徒なのだそうだ。

 なので神聖教会の影響力が騎士団に及ぶのを避けたい国では、騎士団に神術師を加えることを避け、回復系と防御系も精霊術師が担当しているという。得意分野ではないので神術師と比較すると魔力効率で劣るが。

「それもトシ様のおかげで、解決の目処が立ちました」

 《魔狼フェンリル》を召喚した副産物なのか、青狼教の神術に目覚めた人間が出て来ているようで、教会を再建して神官教育を施せば、当初の予定より短期間で神術師部隊を創設できそうとか。

 今回の戦争には間に合わないにしても、青狼顕現に続く青狼教会再興の象徴して重要みたいだ。それにしてもフェンリルと青狼って見た目が似ているだけではなく、同一の存在(神格?)だったのね。

 どうやら俺は、偽者を呼ぶつもりで本物を呼んでしまったらしい。

 それは構わないのだけど、俺とこの世界の術師との間に大きな相違点が見つかり、それが原因でヒスイさんを愕然とさせてしまった。この顔を見るのは《召喚の宝珠》に付いて説明した時以来になる。

「1時間なんですかっ!?」
「《魔晶樹の杖》を装備して休息状態なら、12分です……」

 それと言うのも魔力回復速度の話だ。俺の持つ《魔晶樹の杖》は、装備しているだけで魔力回復速度を三倍にしてくれる上に、杖にもたれて休息すれば五倍の速度で回復してくれる。

 VRMMORPGのバランスとして考えれば、魔力回復速度を上昇させる装備が多数存在するとはいえ、魔力ゼロから全快まで回復するのに、休息状態で一時間も掛かるのは、十分に厳しい仕様なのだけど……。

「…………凄すぎます」

 魔法が実在する世界の常識から見れば、早すぎる回復速度だ。

「……取り乱してしまい、申し訳ありませんでした」

 化け物扱いと言えば考え過ぎだが体質的なことなので、優越感と同時に疎外感も感じる。ヒスイさんは暫くして驚愕から立ち直った後、その辺を敏感に察したのか律儀に謝ってくれた。

「無理もありませんし、可愛い表情が見れて得しました」

 驚いた顔も超絶に可愛かったので、気にしないことにした。

「お戯れを……♪」

 くうぅ、照れて俯きつつも、満更でもない顔が可愛すぎる。

「ところで、普通はどのぐらいなんですか?」
「総魔力量の7割程度までなら、一晩も熟睡すれば全快しますが――」

 毎日のように多くの魔力を消費していると、徐々に回復量が落ちてくるようで、それは疲労が蓄積する感覚と同じようなものらしく、魔力使用を控えて静養することでしか復調は出来ないとか。

 連日魔力を消費するのが前提なら出来るだけ、一日辺りの消費量を総魔力量の半分以内に抑えるのがセオリーになるが、戦場で魔力を温存するのは難しいので、長期戦はペース配分が重要みたいだ。

 あとは術師が限界以上の魔力を消費してしまうと、長期間に渡り魔力の回復速度が激減するので、よほどのことがない限り避けるべきだが、そうも言っていられない場面が間々有るようだ。

 ゲームの仕様だと、魔晶石を使えば簡単に魔力を回復させられたけど、この世界では魔晶石の魔力を直接体内に取り込むと、健康に深刻な害が出るらしいので、魔力を回復する手段は時間経過だけらしい。

 この世界の魔晶石は、設置型マジックアイテムの動力源としてか、必要魔力が多い術式――儀式魔法など――の発動時に、魔晶石を補助に用いることで、消費魔力の一部を魔晶石に肩代わりさせる為に使われる。

 そして《神の血潮》は魔力貯蔵型のアーティファクトであり、大部分の消費魔力を肩代わりさせられる特性と、桁違いの魔力貯蔵量を誇っていたようだけど、異世界召喚と二重召喚の併用ともなると……。

「トシ様を召喚する際、限界以上に魔力を使ってしまいました♪」

 一片の後悔も感じられない、清々しい笑顔で言われると、テレる。

 つまり今のヒスイさんは、魔力の保有量も回復量も激減しているのか。女王ともなると自分で魔術を使う機会は少ないと思うけど、《青白のドレス》だけでも、微量とはいえ魔力を消費してるはずだ。

 それに馬車の中でも《氷結》を使わせてしまったし、具体的な総魔力と現在の状態は解らないけど、やっぱり魔力が有る方が安心で便利なのは間違いないから、俺はヒスイさんに《魔晶樹の杖》を貸すことにした。

「それじゃ、シセーに着くまで貸しますね」
「はい、有り難くお借りします」

 ヒスイさんは《魔晶樹の杖》を抱き締めながら微笑んでいる。俺が貸した物を大切そうに扱ってくれるのは嬉しいのだけど、胸の谷間に節くれ立った杖が挟まれている光景に、俺は思わず生唾を飲み込んでしまう。

 そんな俺の様子に気が付いたヒスイさんは恥かしげに俯くも、両腕と杖により胸が強調される姿勢は崩さないようだ。もうこれは馬車の中でした約束を履行するしかないでしょ!

 俺はヒスイさんをベッドに連れ込み愛撫で絶頂に導く。その過程で美しい嬌声を聴き、胸を揉みまくった感触を手の平で味わい、事後にしどけなくもたれ掛かかられ、すっかり佇立していた剛直を口で鎮めて貰った。




 その後は、風呂に交代で入ってからベッドの中で向かい合う。

「ヒスイさんは、本当に綺麗ですね……」

 一つを除いて灯りを消したので薄暗いが、鼻先が触れそうな距離にいるので互いの顔は判別がつく、そして薄闇の中でさえ燦然と輝くヒスイさんの美貌に見蕩れ、当たり前のことをしみじみ呟いてしまった。

「そ、そうでしょうか?」

 芸の無い褒め言葉でも、ちゃんと照れてくれるヒスイさんが愛しい。

「ええ、一日の最初と最後に見るのが、世界一美しい女性の上に、
 それが自分の恋人なんですから、もう最高に幸せですよ」

 以前にも思ったことだけど、今日は思い切って口に出してみた。

「わたくしこそ、大好きなトシ様の目覚める様子を見守るのも、
 大好きなトシ様と共に眠りにつけるのも、この上なく幸せです」

 自分を幸せにしてくれる女性を、自分の手で幸せにする以上の幸せはないと思う。そうして見詰め合っていると、不慣れな旅の疲れからか瞼が重くなって来たので、ヒスイさんに就寝の挨拶をする。

「おやすみなさい」
「おやすみなさいませ♪」

 俺はヒスイさんの体温を感じながら、最高に幸せな眠りについた。



続く

【前話 車中の口淫(後)】 【目次】 【感想掲示板】 【次話 姫様の準備(前)】


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5 コメント

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スゲェ (ミッキー)
2010-02-05 23:25:27
バカップルぶりがもう末期の状態になってきましたね(笑)
周りの人間は砂糖吐きまくりでしょうが、だがそれが良い(笑)

そろそろ戦いも近いっぽいですし、チート魔力による無双が今から楽しみです。
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Unknown (一読者)
2010-02-06 01:26:43
チート無双待ってます!!!
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Unknown (鹿)
2010-02-06 16:53:33
応援ありがとうございます。

頑張りまっす。
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Unknown (IINON)
2010-03-05 00:10:04
ついにチート無双か!次回が楽しみですw
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Unknown (鹿)
2010-03-05 20:14:42
次回はヒスイ視点ですが、戦闘も近いです。
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