逝きし世の面影

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『テロリストのかなしき心』暗殺犯安重根追悼と石川啄木

2010年03月29日 | 東アジア共同体

石川啄木の『ココアのひと匙』(啄木詩集)より、


われは知る、テロリストの 

かなしき心を
 
言葉とおこなひとを分ちがたき 

ただひとつの心を、

奪はれたる言葉のかはりに
 
おこなひをもて語らんとする心を、
                        
われとわがからだを敵に擲げつくる心を
            
しかして、そは真面目にして熱心なる人の常に有つかなしみなり
 
   はてしなき議論の後の

   冷めたるココアのひと匙を啜りて、

   そのうすにがき舌触りに

   われは知る、テロリストの

   かなしき、かなしき心を。


『ココアのひと匙』は1911年の作で、1910年(明治42年)に社会主義者幸徳秋水らが処刑された明治天皇暗殺計画(大逆事件)との説が今までの定説であるが、この『テロリスト』とは1909年にハルビンで『伊藤博文』を射殺した『安重根』を指すとする説も有る。

『君死にたまふことなかれ』
私が子供の頃に初めてこの石川啄木の『ココアのひと匙』の詩を読んだころは、まだ安重根説を知らなくて、通説の『大逆事件説』であると思っていたので、読後の感想は実に不愉快で、『駄作だ』、『啄木ともあろうモノが、何たること』
『秋水たちの感じたものは「悲しみ」であるとは事実誤認も甚だしい』、
『言われ無き冤罪に対する苦しみや絶対権力に対する憎悪や怨念、恨みの心以外に悲しみなどあるはずがない』
彼等の感じる『悲しみ』は、あったとしても自分の命が失われようとする刹那だけであり、主要な部分ではない。
大逆事件の明治天皇爆殺計画なんて事実無根、荒唐無稽すぎてでっち上げにしても出来が悪すぎる。
当時の幸徳秋水や社会主義者たちは絶対天皇制に反対していた事自体は事実ですが一般日本人で誰一人顔も見た事も無く声を聞いた事もない明治天皇暗殺など考え付くなど最初から前提がどだい無理なのです。

しかし、初代朝鮮統監伊藤博文暗殺犯の安重根であるなら、時間的にも1909年の事件で、石川啄木の『ココアのひと匙』に使われている言葉の一つ一つと歴史的事実の全てが符号していて納得できます。
初代朝鮮総督伊藤博文は朝鮮の心をもっとも知る日本の政治家で日韓併合にも反対だったが、併合後朝鮮の統治責任者になってしまったおかげで朝鮮人民族主義者の単独犯に殺害される。
石川啄木の描いたテロリストの悲しさ哀れさは、伊藤博文暗殺犯安重根のあわれさ、無念さがピッタリ符号する。
大逆(明治天皇暗殺?)事件ではなく、日本の朝鮮併合にからむ伊藤博文暗殺事件なら、歴史や時代を超えて100年後の今でも、『唯一つの心と、言葉を奪われて』止む無く『我と我が体を敵になげつける』テロリスト(暗殺者)になった男の、『かなしき 悲しき心』は現在の平和な社会に住む我々関係ない一般市民にとっても、立場は違っているが誰でもが素直に感じられ、同時代(1904年)の日露戦争の旅順要塞攻防戦に参加している弟を気遣った、『君死にたまふことなかれ』と同じ様な意味の有る歴史的名作中の名作です。
絶対主義天皇制の世の中で、
与謝野晶子にしても石原啄木にしても、これ程正面から時の政府の行動を批判した文学者は十分に尊敬出来る。彼等に直接接する事の出来た読者達は何とも羨ましい限りです。
それにしても今の名目的には何でも自由に書ける世の中であるにも拘らず、自分から勝手に『自主規制』して、権力を真正面から批判しない文芸界やマスコミなどの有様は『意気地がない』と言われても仕方がないでしょう。

『筆は一本、箸は二本』

当時啄木は貧困にあえいでいた。石川啄木ほどの実力があっても当時の日本では文学一本ではメシは食えなかったのです。
森鴎外や夏目漱石や有島武郎のように実家が裕福でないと文学などにうつつをぬかすと啄木の様に赤貧を我慢せざるをえない。
日本の社会全体が貧しかったのでしょうか。?それとも文学に対する社会の成熟度や文化程度が貧しかったのでしょうか。?

『地図の上 朝鮮半島に 黒々と 墨を塗りつつ 秋風を聴く』
韓国併合のニュースを聞いた石川啄木が詠んだ歌から考えれば、テロリストとは幸徳秋水たち大逆事件ではなく、伊藤博文暗殺犯である安重根であろうと推察出来ます。
日本は朝鮮に色々良い事もしたと公言する自民党要人が今でもいるが、まったく歴史も道理も人間心理も理解出来ない困った人たちですね。
人はパン無しには生きられないが、心の拠り所となる何か(民族としての誇りとか、文学とか)がないと、パンだけでも生けられないのです。

『残酷な同化政策の強制』

人種差別(民族差別)は良くないが、民族の『区別』は大切な事柄で、この二つが往々にして混同されて自民党幹部からの『日本は朝鮮人に対して平等に公平に接して来た』等の勘違い発言が今でも起こっています。
全く顔立ちも生まれた場所も経歴も同じでも、異民族である事に無頓着では、これも広義の『人種差別』(エスニック・ジェノサイド民族絶滅)であると思われます。
今では日本政府が長年行ってきた強力な同化政策の結果、日本国内ではアイヌ語を母語とする人々(民族)は絶滅しています。
日本政府はアイヌ民族に対して旧土人保護法で極端な同化政策を押し進め一つの民族集団(日本人とは異質だが高度に発達していた文化を持っていた)を完全に抹殺してしまったのです。
国内のアイヌ人にした事と同じ事を日本政府は日本よりも長い歴史と独自の文化を持っている外国人である『朝鮮人』に対しても行おうと考えて居ましたが、これがどれ程野蛮で残酷な事であるかは、アメリカ政府がインデアン諸族に対して執った政策を考えてみれば自ずから理解出来ると思います。
朝鮮人の安重根の怒りや悲しみが、明治の日本人として瞬時に理解出来た石川啄木の感性は矢張り素晴らしいですね。

『追悼ではなく顕彰に暴走する民族主義』

韓国では既存のマスメディアが連日この伊藤博文暗殺犯の『悲しさ』『哀れさ』を追悼することはなく、哀れな一テロリストを英雄視する報道が繰り返されている。
近大中支持の新しく作られたリベラルなハンギョレ新聞以外の韓国の既存の三大紙の東亜、朝鮮、中央日報等は全て右寄りで、前ノムヒョン政権に批判的で、ハンナラ党の現李明博(イ・ミョンバク)大統領支持なのです。
歴史的に見れば、現政権党のハンナラ党は旧軍事政権の流れを汲む右翼保守政党なのですが、これが災いしているのでしょうか。?
世界的に見て基本的に右翼は国粋主義的で排外主義の傾向があり日本でも嫌韓、嫌中のネット右翼の例もあるが、歴代の軍事政権が殊更に隣の経済大国である日本に対する反感を煽っていた歴史があるようです。
日本国内とは正反対に、『日帝の35年間の植民地支配の悪行』とか『豊臣秀吉の朝鮮侵攻の被害』』などを繰り返し繰り返し教育しているようですが、昔の歴史としてでなく今に続く『終わる事のない真実』として描かれているのでしょう。

『金嬉老』(単なる刑事犯でも)

韓国では、寸又峡事件の凶悪犯である金嬉老でさえ事件の時に『朝鮮人差別批判』を口にした為に一部では英雄視する人々もいたのですが、奇しくも伊藤博文暗殺犯の処刑日(韓国側の表記では)安重根(アン・ジュングン)義士殉国100年の当日と同じ26日に死んでいる。
まさか金嬉老が義士の一人にはならないと思いますが、反差別の標語の一つ(愛国者の一人)には為り得るほどに極度にナショナリズムが高まっているが何とも危険な兆候です。
日本側マスコミ報道では『借金返済を迫った暴力団幹部ら2人を射殺、ライフル銃やダイナマイトで武装し、同県寸又峡温泉の旅館に客ら13人を人質に籠城した劇場型犯罪』ですが、
韓国メディアの報道では、事件は出発点が違い『在日同胞を侮辱した暴力団員2人を銃殺』となっているし、『約88時間にわたり立てこもった』とか『韓国人差別を告発するために事件を起こしたとして、日本の警察に謝罪を要求した』とかの記述がある。

『ガヴリロ・プリンツィプ』(第一次世界大戦)

世界的なテロ事件の例では96年前の1914年オーストリア帝国の皇太子をサラエボで暗殺して第一次世界大戦の引き金となったセルビア民族主義の一青年ガヴリロ・プリンツィプも、セルビア人の間の一部では英雄視して以前にはサラエボの暗殺現場には彼の足跡が刻まれていたらしいが、今では無くなっているそうです。
トーストリア皇太子フェルディナント大公がサラエボを訪問した当日はセルビアにとり重要な祝日である聖ウィトゥスの日(Vidovdan)の6月28日。
この日は1389年にセルビアがオスマン帝国に敗北して国家が消滅した『コソボの戦い』の記念日でもあったため、同じ日の植民地宗主国であるオーストリア皇太子夫妻のボスニア訪問はセルビア人の怒りを煽る効果があった。

『ミロシュ・オビリッチ』

1389年6月28日、コソボ平原でオスマントルコ帝国軍約4万と、セルビアなどバルカン諸侯軍約3万が激突。
セルビアは『コソボの戦い』の敗北で以後長い間国家を失うのですが、勝ったトルコ側も600年以上のオスマン帝国の歴史で唯一スルタン(皇帝)が戦地で命を落とすという出来事が起こる。
投降者だと偽りオスマン陣地に入り込んだセルビア青年ミロシュ・オビリッチはムラト1世を刺殺するが、オビリッチは今でもセルビアの英雄であり首都ベオグラードのサッカーチームの名前にもなっている。
このセルビア青年による世界帝国オスマントルコのスルタン、ムラト一世暗殺は、セルビアの英雄叙事詩で『ミロシュ・オビリッチ』という名で伝えられ、『ムラト一世と刺し違えて死んだ英雄』として称えられ今でも映画や劇として演じられ続けている。

『津田三蔵』(大津事件)

日本でも119年前の1891年(明治24年)来日中のロシアのニコライ皇太子が警備中の巡査(元陸軍軍曹)に斬殺されそうになった暗殺未遂事件(大津事件)があるが、犯人の津田三蔵の評価では最大限好意的に解釈して国際環境を理解できない偏狭な民族主義者で、普通の評価では精神を病んでいた単なる無分別なテロリスト程度とされている。
因みにロシア皇太子ニコライ(ロマノフ王朝最後の皇帝)暗殺未遂が5月11日、判決で死刑ではなく無期懲役になったのが16日後の5月27日、津田三蔵が獄中で病死するのが判決の4ヵ月後の9月29日。
この大津事件裁判では、死刑を求める日本政府(行政)と法律を遵守しようとした裁判所(司法)の対立の中で、裁判官が三権分立の原則を守った美談として語り継がれているが、当時はそれ以外にも色々な動きがあった。
日本政府は大逆罪で死刑にしようと策動。伊藤博文は『死刑に、戒厳令を発してでも断行すべき』、後藤象二郎などは『津田を拉致し拳銃で射殺することが善後策』などと閣僚が発言しているが、16日後の無期判決4ヵ月後の獄中の『死』とは日本独特の不思議な習慣、制度である『忖度』が働いたものと思われる。
暗殺未遂犯津田三蔵の獄死は処刑する心算の日本政府にとっては『早すぎ』もしなかったが、『遅すぎ』もしなかった絶妙なタイミングなのです。
因みにこのロシア皇太子暗殺未遂事件は日本陸軍の創設者である大村益次郎暗殺の22年後。日本の政治(官僚)機構の創設者である大久保利通暗殺の13年後に起こっている。
日本におけるテロ事件では軍務局長永田鉄山少将殺害など何れも日本刀による斬殺で、安重根の伊藤博文射殺の様に銃器での殺害例は犬養毅や高橋是清などが暗殺された、『軍』関連でも戦闘部隊の絡んだクーデター事件など少数例に限定されている。

『ナショナリズム優先の危険性』

『国の数だけ正義の数もある』と良く言われるが、それにしても日本の偏狭な右翼民族主義も恥ずかしいが、韓国は一部右翼民族主義者だけでなく、長らく自民党政権と親密な関係を持っていたハンナラ党の現政府までが関与しているところが問題点を大きくしているでしょう。
日韓の歴史教科書の関係者による日韓歴史共同研究・第2期報告書についての報道を読むと、日本側の関係者はあの『美しい国』の安倍晋三が人選しているので歴史を歪曲した右翼的な恥ずかしい発言が連発しているのですが、
対する韓国側もナショナリズムの優先がなんともはや。
有権者相手の政治家の演説ではなく子供に教える歴史の教科書なのですから、当然『日本』と表記すべきところを殊更意識的に『日帝』と政治的に表記しているのですよ。
日本が昔は『帝国』だったのは歴史的事実で間違いではないが、それなら大日本帝国か、あるいは日本帝国でしょう。
昔の左翼用語に米帝なる反アメリカの言葉があったが、韓国で常用される『日帝』も同じような政治的な思惑が感じられる。

『以外に冷静な北朝鮮、加熱する韓国』

最も近い隣国である韓国のナショナリズムの高揚は矢張り問題点は大きいでしょうが、面白い事に北朝鮮では南よりもよほど冷静で安重根は義士ではなく一人のテロリストとの評価のようです。
対して韓国では元々ソウル中区南山公園にあった安重根義士記念館が小さいとして市民の募金を募り建設される新しい記念館は地 下2階~地上2階に延面積3799平方メートル(1148坪)規模で安義士のハルビン駅義挙101周 忌の2010年10月26日完工を目標にしているそうですが、英雄視は弱まる動きはなく、日本の自民党に近いハンナラ党李明博(イ・ミョンバク)大統領の政権でますます強まっているのです。困った事ですね。
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2 コメント

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本来なら不掲載なのだが、 (宗純)
2014-02-09 11:56:09
この『逝きし世の面影』ブログでは、良好なブログ環境の維持と、コメント管理の必要性から、名前もタイトルも無いコメント、あっても通りすがりとか日本人の一人など個人を特定していないと判断されるもの、不真面目なNHは、『無記名』と看做して不掲載とするローカルルールを設けています。
次回投稿時には何でも結構ですからタイトルと個人を識別できる名前(HN)の記入を忘れない様にして下さい、お願い致します。
Unknown (ああああ)
2014-02-08 23:38:35
私はネトウヨとも意見が大分違いますが、韓国人は嫌いです。
そもそもネトウヨを産み出し、助長しているのは韓国人と、
「韓国人(中国人でも女性でもなんでも良いのですが)に
肩入れしさえすれば進歩的」などと考えている
退歩的非文化人どもではないでしょうか?

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