逝きし世の面影

政治、経済、社会、宗教などを脈絡無く語る

現在価値革命の暴走と挫折

2008年11月02日 | 経済

『計算を間違った会計学』

投資銀行のビジネスモデル崩壊の教訓は、高レバレッジ(負債によるテコの原理)経営の失敗だけではない。
投資銀行が担った金融文化の特徴は、あらゆる資産を市場取引の対象とするために、価格を時価で評価する会計思想である。
市場価格がないものにまで「時価」を付ける「現在価値革命」の暴走と挫折が、投資銀行を葬り去った。
現在価値革命は、資産価値を過去の費用や利益の積み上げではなく、将来収益の割引現在価値で認識し、すべての金融取引に適用する金融文化をさす。
会計上の資本概念は、払込資本に内部留保を加えたものから、時価評価後の資産から負債を引いたものにコペルニクス的転換を遂げた。

計測できないものも計測し、時価を利用し尽くす欲求は、八〇年代以降の金融資本主義に由来する。

ストックオプション(株式購入権)で賃金を払い、自社株買いで現金配当に代え、株式交換のM&A(合併・買収)を活用すれば、株は通貨の代替手段になる。

株の交換価値は時価、企業の予想収益の割引現在価値であり、高いほど歓迎された。

「株式本位制」は企業を金融商品として扱う極端なM&A文化に発展する。
年金などの機関投資家が短期投資家に変身、企業の切り売りでもうける解体屋的投資家も現れ、取引に商機を求める投資銀行の利害と一致した。

「市場の要請」の名の下で、進行したのが現在価値革命といえる。
 
IT(情報技術)株バブル崩壊で、二〇〇〇年代は証券化商品の時代となる。住宅ローンなどを原資産とする資産担保証券を分解・合成した金融商品の価格(時価)は金融工学がはじき出した理論値にすぎない。

計算の前提が狂い、価格に疑問が生じれば、市場は消滅し価格も消える。
会計、格付け、保険などの現在価値革命を支える近代装備は規律の緩みを促した。
 
米金融安定化法は「時価会計凍結」を盛り込んだ。批判は簡単だが、そもそもの価格(評価)に問題があったのだ。

自己資本規制との相乗効果で実体経済への悪影響を考えれば、やむを得まい。行き過ぎた市場主義の問題の根は深い。
日本経済新聞コラム2008年10月07日付け[一目均衡]





『金融安定化法 時価会計の凍結』

米国で10月3日成立した金融安定化法では、1980年代から猛威を揮った『時価会計』の一部凍結を盛り込んだ。
日本ではホリエモンや村上ファンドが主張していた『会社は株主のものである』『会社の価値は時価総額で決まる』などの、正にアメリカ型資本主義で有る株式資本主義(株主資本主義)の根本を否定するコペルニクス的転換であるが、時価会計主義の根本であるそもそもの時価評価の算定に大きな誤りがあったのだから致し方ない成り行きだろう。

『時価評価とはなんだったのか』

今有る資産の評価を、過去の資産形成に要した経費や其の後の運用実績(工場等の実際に有る設備や其処で働く従業員、技術程度や社会的信用度等)、負債や内部留保の総額で計る従来の会計学の計算方式ではなく、『時価総額』と名づけたあたかも『現在の資産価格』であるかのように装っていた『時価』が本当の意味の現在の時価ではなかったのである。
其れは金融工学を駆使して新しく考えられた(計算された)『将来予想される(期待される)資産評価』に過ぎなかった。
其の計算の元になっていた『金融工学』が永遠のバブルを前提にした架空の楼閣であったとしたら、時価会計思想が崩壊するのは当たり前である。


米国の金融安定化法の時価会計の凍結には当面、株式は含まれないが全てのモノに時価総額を決定して評価する方式の欠陥が露呈した現在、『株式』が架空資本にすぎず実体経済(工場や機械設備其の他)とはかけ離れて乱高下する今の現状では早晩何らかの規制(一部凍結)が必要とならざるを得ないでしょう。

株主が最初に払い込んだ現金は現実資本になるので確かに実体経済を反映している。
しかしその後に株式市場で流通している株価(時価総額)はヘッジファンド等の投機の対象となり乱高下する。
しかし幾等大きく変化したとしても株式価格の変動は、其のまま実体経済の価値の変動を表している訳ではない。
この時点で帳簿上の時価総額と実体経済の間には相関関係が無くなって来て『時価総額』が『本当の意味?の時価総額』ではないという不思議な現象が起こってくる。
その意味では有価証券としての株式は実体資本とは遊離した『架空資本』になってしまっている。




『証券化は愚か者続出が前提』

金融危機を検証する為に米議会下院金融委員会が10月21日開いた公聴会で、ノーベル経済学賞受賞者でもあるスティグリッツ米コロンビア大学教授が世界的な金融危機を引き起こした原因や21世紀における金融市場の監督及び規制の有り方について提言した。
『金融危機の原因となったサブプライムローンの証券化は信用リスクを他人に転嫁する一方で、証券化に係わった金融機関は手数料や利ざやで大儲けする手法』
『証券化は愚か者が毎分生まれてると言う事を前提にしている』
『グローバル化は其の愚か者が(世界中で)探せるようし、愚か者はどこでも見つかった』
『ウォール街は、毒をもった住宅ローンで我々の経済を汚染した』
『毒性を持った住宅ローンを海外に輸出した』と証言した。

米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策に付いては、
『実に酷いものだった。危機を防ぐ為にやるべき事をやらなかっただけではなく、先ず間違いなく危機を助長した』と強調した。

コメント (6)    この記事についてブログを書く
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6 コメント

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お尋ね (uesma01)
2008-11-03 13:19:33
こんにちは。『時代のウェブログ』ウェブマスターです。
さて当方の「国民の良識」http://uesama.antena.ne.jp/archives/article/50008.htmlにここからトラックバックされていましたが、内容を拝見するとほとんど関連性がないと感じられます。
あるいはアメリカの年次改革要望書について取り上げた「フカヨミ?」http://uesama.antena.ne.jp/archives/article/49279.htmlへのトラックバックのURLミスかなと思います。
該当エントリーへのTBは削除しますので、もしもTB誤信であれば正しいエントリーに再度TB下さい。お手数を掛けますが宜しくお願いします。
お手数をおかけしました (ブログ主)
2008-11-03 16:28:51
当方のTBはご指摘のように「国民の良識」と「フカヨミ?」を混同して間違って送ったものです
最近盛んにマスコミで取り上げられている食品の農薬汚染問題とアメリカの年次改革要望書の関連について取り上げた、『時代のウェブログ』さんでとりあげていた「フカヨミ?」の記事は実に興味深い指摘で、以前に私も記事にし様と色々調べたんですが無理でした。
また『時代のウェブログ』さんの記事に対して、何かコメントを書きたかったのですが残念ながらコメントするだけの事実の確証がなかなか得られませんでした。
この「フカヨミ?」の記事は大事に保存しておいて事実を収集して何年後かに記事にしたいと思っています。
国難きたるでしょうか? (kafukanoochan)
2008-11-08 13:58:19
先日はありがとうございました。
>何らかの規制
について書きました。ご参考になれば、、、
http://blog.goo.ne.jp/morimoto0703/
コメント有難う御座います (ブログ主)
2008-11-08 16:43:22
株式に限らず資本主義は何の規制も無ければ暴走する性質が有ることは、産業革命以来200年の経験から皆さん知っているはずなんですがの小泉構造改革とか小さな政府とか規制緩和とか新自由主義とか不思議なモノが昨今大流行。
資本主義の基本は倫理ではなく欲望なんですね。
本来資本には倫理はありません。
「もっと自分(資本)を大きくしたい」という「欲望」のみです。
『これをしたら儲かるが倫理的に良くないのでしてはいけない』にはならないんですよ。
多くの業界で「偽装」が繰り返され、金融会社が「投機」というバクチに狂奔した果てに破綻するのは、いわば市場の本質に由来するのです。
だから規制を緩和すれば暴走するのは自明の理です。
ご指摘の株取引での投機の禁止(規制)ですが、タックスヘイブンに本拠を置くヘッジファンドの規制が急務でしょうね。
1997年のアジア通貨危機のときに大問題になりマレーシアのマハティール等が何とか規制するべきだと主張していますが頑としてアメリカが聞き入れない。
それどころか99年アメリカ国内まで銀行法(グラス=スティーガル法)を廃止して投機が大々的に出来るようにしています。
全ての騒動の元はアメリカです。今回の事で少しは懲りたでしょうか。?
今でもアメリカは世界最大の経済規模で、アメリカが賛成しないことには如何なる規制も成功しません。
しかし今までは規制とは正反対の事を進めていました。
こちらこそ、コメントありがとうございます (kafukanoochan)
2008-11-08 22:33:17
>アメリカが賛成しないことには如何なる規制も成功しません。
その通りだと思います。
>今回の事で少しは懲りたでしょうか。
CDSが瓦解して米経済が崩壊するまで無理でしょうね。
その時では、遅いですが,,,
アメリカの金融崩壊 (ブログ主)
2008-11-09 12:43:53
日本のバブルでも崩壊すると言われ始めてから完全に崩壊するまでには2年近くかかりました。
日本の経済規模より数倍大きいアメリカの金融崩壊には何倍か、あるいはそれ以上かかるでしょうか。?
しかし日本との大きな違いは、流石にアメリカだけあって崩壊が世界規模だということでしょう。
サブプライムローンと言う名の不良債権(贋金?毒薬?)を優良債権に見せかけて世界中に売りまくった悪事の付けは、結局掴まされた被害者が被る事はこの様な金融犯罪の定番ですね。
CDSの破綻は避けれないでしょう。
幾等リスクをヘッジすると言っても『リスク』そのものが無くなる訳ではない。
見えているリスクを、見えないリスクに作り変える事が出来るだけです。
アメリカが誇った最新の金融工学とは、地表に有った危険極まりない対人地雷を、地中に埋めてリスク(危険)を誰にも見えない様にしただけだったんですよ。
見えなくしたお陰で危険度が天文学的に跳ね上がった。
金融の再生には全ての今まで隠蔽されていたリスクの公開とCDSが瓦解以外に無く、アメリカの金融崩壊は避けては通れないがオバマに其れが可能か。甚だ疑問です。

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