逝きし世の面影

政治、経済、社会、宗教などを脈絡無く語る

ダブル・フリーズ(核ミサイルと演習の相互凍結)と米朝対話

2017年08月25日 | 東アジア共同体
永田町の裏を読む 『得意なはずの北朝鮮問題が安倍首相の命取りになる可能性』2017年8月24日ジャーナリスト高野孟 日刊ゲンダイ

米韓軍事演習が予定通り始まって、これに北朝鮮がどういう反応を見せるか、片時も目が離せない緊迫が続いている。
が、旧知の米外交専門家によると、「それは表面だけで、米朝双方とも軍事衝突を回避することで基本的な認識は一致している。
そればかりか、水面下での接触を通じて、軍事演習の内容やプレス発表の仕方などについて米韓側が一定の抑制をすれば、北もいきなりミサイルをぶっ放したりしないということで、すり合わせが行われているという。危機には至らないだろう」と言う。
しかし、トランプ大統領は「怒りと炎」とわめいているし、米軍トップも軍事行使の可能性を否定していないではないか。

軍幹部が軍事力の発動を否定するわけがない から、そう言い続けるのは当然だ。
しかし、93年にクリントン政権が北の核施設破壊作戦を検討した時は、北の報復能力をすべて封じることは不可能なので、『大規模戦闘が3カ月に及び、死傷者が米軍5万人、韓国軍50万人、韓国民間人の死者100万人以上』との予測が出て、軍部が反対した。
それから24年経って、今の北は、最大で60発の核弾頭と短中長のミサイルを山ほど持っているんだぜ。北だけでなく、韓国も日本も全滅する
北の問題の『軍事的解決』なんてあり得ないんだ」と米専門家は断言する。
もちろん経済制裁は続けるし、軍事圧力も緩めるわけにはいかないけれども、それで不測の戦闘に転がり込まないために双方とも細心の注意を払っているということだ。それで“落としどころ”はどうなるのか。

「それは最初から見えていて、北が核・ミサイル開発を凍結することを条件に、朝鮮戦争の休戦協定を平和協定に置き換える交渉を開始し、追っかけて米朝国交交渉も開始することだ。朝鮮戦争が公式に終了すれば、北が核武装しなければならない理由が消滅する」
さらに米専門家は言葉を継いだ。
時間はかかっても、米国はそういう方向に動く。そうなると一番困るのは日本の安倍晋三首相だろう。彼の発想はいまだに、米国を盟主に日本と韓国が左右を固めて軍事・経済圧力を強めれば北は屈服するだろうという、冷戦時代の反共軍事同盟スタイルだ。それだと“落としどころ”がない。
ある日突然、米朝が交渉に入って、呆然と立ち尽くす ということにならないか」と。得意なはずの北朝鮮問題が安倍の命取りになる可能性があるということである。
8月24日 日刊ゲンダイ

★注、
トランプ大統領の「怒りと炎」発言とか北朝鮮の新型中距離弾道ミサイルをグアム島の米軍基地40キロの海上への4発同時発射など、米朝双方が危機感を目いっぱい煽った影響で、さしものトランプ相場も嫌気がさしたのか、日本も米国も同じで大きく株価を下げていた。
最近の北朝鮮(金正恩委員長)の『もう少し様子を見る』発言に対応して、米国のレックス・ティラーソン国務長官とか狂犬マティス国防長官、トランプ大統領などが相次いで北朝鮮との対話の可能性に言及している。
戦争を煽るのも鎮めるのも、双方阿吽の呼吸なのである。(1週間も下げ続けていた株価が敏感に反応して下げ止まる)



永田町の裏を読む 『米本土に向かうミサイルを日本が打ち落とすという錯誤』2017年8月17日 日刊ゲンダイ

今週日曜日のTBS系「サンデーモーニング」を見ていてちょっと驚いたことがあった。
北朝鮮のミサイルの問題を論じている時に、準レギュラーのコメンテーターである外交評論家の岡本行夫氏が「北のミサイルが日本の上空を飛び越えて米本土に向かうというのに、日本が(何もしないで)行ってらっしゃいと手を振って見送るわけにはいきませんから」と、同盟国としての日本がそれをはたき落とすよう努めるのは当然という趣旨のことを語っていた。
ところが残念なことに、北朝鮮から米本土に向かう大陸間弾道弾は、日本列島はもちろん日本海の上空すら通らない
ミサイルは最短距離を飛ぶので、北朝鮮からほぼ真北に向かって中国ハルビンの東、露ウラジオストクの西の辺りを通り、北極海、カナダ・ハドソン湾の上空を通ってワシントンに到達する。これを日本海に浮かべたイージス艦で横から撃ち落とすというのは全く不可能なのである。グアムに向かうというのであれば、日本の中国・四国地方の上空を通るし、またハワイに向かうというのであれば東北地方の上空を通る。しかし今の日本の感知システムでは、発射から数分後に通過したことを後になって分かるのが精いっぱいで、せいぜいが誤って部品の一部が落ちてきた場合にそれを空中粉砕できるかどうかである。
私は岡本さんとは3分の1世紀ほど前、彼が外務省北米局安全保障課長の時からの知り合いで、今もあちこちでご一緒することが多いので、こんなことを言うのはイヤなのだが、北朝鮮や中国の“脅威”を強調する安倍政権の立場に寄り添おうとすると、こんな初歩的な間違いを犯すことになるのだろう。



『なぜそこまで北朝鮮の体制が強靭なのか』2017年08月24日新潮社フォーサイト 【特別対談】「韓国」「北朝鮮」との「向き合い方」(2)--小此木政夫、平井久志

なぜそこまで北朝鮮の体制が強靭なのかの理由①は、北朝鮮という国家は、東ドイツや南ベトナムとは違う正統性原理を持った国家であったからだ。
アメリカが支えた南ベトナムは国家の正統性が薄弱だったが、北ベトナムは抗仏戦争の歴史や「ホー・チ・ミン」という独立の父を持っていた。
南ベトナムは旧皇帝バオダイ、その後はカトリックのゴ・ジン・ジェム政権でこれではダメです。東ドイツも同じでウルブリヒトやホーネッカーはモスクワで養成された人たちでドイツ人にとって正統性がない。

戦前の天皇制をモデルにした北朝鮮の「正統性原理」
韓国憲法では1919年の3.1独立運動、金九(キム・グ)の上海の臨時政府が起源で1948年李承晩(イ・スンマン)大統領の歴史があるが北朝鮮には劣る。
正統性原理の最も重要な部分が金日成(キム・イルソン)による、1930年代後半に満州で展開された抗日武装(パルチザン)闘争『建国神話』では、金日成はゲリラ戦でまず東満州に解放区を作ろうとしたが失敗、1940年10月シベリアに逃れたが、対日戦争で金日成率いる朝鮮人民革命軍がソ連軍と共に祖国に凱旋した。(シベリアで極東ソ連軍として訓練され60人ぐらいの部下と1945年9月に元山に帰る)

非常に驚異的なシステムの北朝鮮
1つは、スターリニズムというか、体制が非常にしっかりしている。加えて日本の天皇制と似た建国神話(金日成神話)で精神的な結合性を国民に作っている。
たとえば日本人にとって一番理解しやすいと例えは、もし無条件降伏がなかったら戦前の天皇制は崩壊しただろうか、というイフです。
天皇制イデオロギーを転覆するような力量は、そもそも日本の中には無かった。日本の天皇制に近い北朝鮮という強固な支配構造の国が、内部崩壊などで簡単に壊れることは無い。
日本人は嫌がるだろうが、それが本当に一番わかるのは、日本人だけじゃないのか。

もう一つの『戦前の天皇制』だから北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)は白馬にまたがっていた
日本人は間違いは、建国神話の革命家金日成の「正統性」の過小評価。
建国神話では、追撃する日本軍中隊を待ち伏せ全滅させるなど銃を持って日本軍と勇敢に戦った指導者は誰もいない、匹敵するのは伊藤博文を暗殺した安重根(アン・ジュングン)くらい。政権の正統性で韓国人には『北の方が正統なんだ』というコンプレックスがある。
だから朴槿恵(パク・クネ)前大統領は「安重根は韓国の英雄だ」といってハルビンに記念碑を建てようとしたが、日本人は南北の「愛国競争」に関心がないので中韓の『反日運動』だと勘違いした。

朝鮮戦争休戦で中国軍撤収
休戦協定の『外国軍は撤収』に違反して南に在韓米軍がずっと居続ける。
北は建国時にソ連に大きく依拠し、朝鮮戦争では中国軍のおかげで勝てたにもかかわらず、休戦したら中国軍を撤収させる経緯の中で、事大主義にならず、自身の権力のコアな部分を維持し続けて、影響力を作り上げていくシステムが強まった。
北朝鮮の場合、王朝政治の伝統や文化、大国に囲まれる地政学的な条件、植民地支配と戦争の経験、個人独裁などに注目することなしに、政治の現状を分析できません。
朝鮮半島も、北朝鮮も、金正恩(キム・ジョンウン)党委員長も相当に個性的で、外部の人間が外部の価値観で北朝鮮を見てしまうと間違いを犯す。

できればそれだけは認めたくない 朝鮮半島の「不都合な真実」
その代表例が「戦争という手段に訴えない限り、もはや北朝鮮に核兵器やミサイルを放棄させることはできない」。
ところが「戦争になれば、韓国だけでなく日本も大きな犠牲を被る」という「不都合」がある。
戦争できないなら、交渉するしか無い。

「リビアの教訓」
日本は、交渉のための前提条件としているのが、北朝鮮非核化である。
安倍政権は、圧力を最大限強めれば体制崩壊を回避するために、北朝鮮が非核化措置をとるから、そのときに交渉に応じればよいと考えている。
しかし、核やミサイルを放棄すればリビアのカダフィ政権のように政権が転覆される。「生き残り」手段の核兵器やミサイルを放棄することは無い。それが可能だと信じるのは根本的な勘違いである。

安全が確保されるまで、北朝鮮は核を放棄しない
北朝鮮への軍事行動は、全面戦争に発展し韓国はすさまじい被害を受けるし、とばっちりで日本も大損害が出る。
軍事オプションを主張する人たちが、本当にそういうことに対してちゃんと責任を負える立場で主張しているかどうか、きわめて疑問だ。
北朝鮮のような国を相手に『戦争の一歩手前までいかなければだめだ』というチキンゲームでは、失うものが大きすぎる。

「あってもなくても困る国」
北朝鮮は、朝鮮戦争が休戦した1953年以降ずっと制裁下にあり、ある意味で制裁慣れしている。
ずっと『どうやって生き延びていくか』をやってきた国家がちょっと制裁が強まったくらいで倒れることはないし、制裁をかければ北朝鮮が頭を下げることもない。
北朝鮮が崩壊しないいま1つの理由は、中国が、緩衝国家としての北朝鮮の存在を必要としている。とにかく北朝鮮がそこにあってくれないと困るのです。

北朝鮮の核ミサイルの照準が、中国に向いたらどうするのか
不思議なことに、中国人はあまり心配していない。中国が北朝鮮を崩壊させるようなことは考えてない。だから、北朝鮮が怒って核ミサイルを中国に向けることはない。
7月4日に北朝鮮がICBM(大陸間弾道ミサイル)を撃った直後の習近平国家主席が文在寅(ムン・ジェイン)大統領とドイツで最初の首脳会談をしたときに、習主席は「北朝鮮とは血盟関係でやってきた」と発言した。
アメリカが中国に対して、過剰に対北制裁を要求すると、中国はむしろ北朝鮮との関係を再強化するかもしれません。
在韓米軍に高高度ミサイル防衛システム(THAAD)が配備されるのに、なぜ北朝鮮を捨てて韓国を助けなければならないのか、ということになってきます。
(抜粋)

『もしも安倍晋三やネトウヨの「日本は悪くない」が正しいなら、自動的に(昔の日本にそっくりな)北朝鮮も「正しい」ことになる』
★注、
それにしても日本のマスコミも有識者も同じで、まともに新聞で世界情勢を読んでいない大馬鹿者たちばかりで『リビアの教訓』をまったく知らないらしい。(もちろん知っていうが『知らないふり』で押し通す)
読売新聞や産経新聞などに近い保守系の新潮社フォーサイトの今回の記事ですが、『お前たちは間違っている』(今までが間違っていた)とのオルタナティブの左翼護憲派ブログの『逝きし世の面影』が繰り返し何度も主張していた内容とほぼ同じなのですから驚く。今の世の中が確実に大きく変わろうとしているのです。
そもそも今回新潮社フォーサイトが指摘するように、今の北朝鮮と一番似ているのは戦前の日本だったのである。ところが不思議なことに、この昔の日本に瓜二つの北朝鮮との『不都合な事実』は、日本のマスコミも有識者も誰一人指摘しなかったのである。
(石油の全面禁輸などのハルノートを最後通牒と受け取った日本は『座して死を待たず』と山本五十六の連合艦隊が乾坤一擲ハワイ諸島のアメリカ軍真珠湾奇襲攻撃を決行して4年間の全面戦争に自ら突入している)


(四半世紀前に終わっている冷戦当時とまったく同じ思考の日本の安倍晋三首相の時代錯誤 AP通信)

必然的に米朝対話から朝鮮戦争の終結に向かう世界の動き『韓国のパク・クネ失脚後、日本の安倍晋三が一番邪魔になる』

日刊ゲンダイでジャーナリスト高野孟が主張するように、全てを犠牲にしてまで対米戦争に特化して半世紀も延々と軍事力を強化している北朝鮮(ヤマアラシ)を、たとえ世界最強の米軍であっても軍事攻撃は有り得ない。(1990年代のクリントン時代でも首都ソウルは壊滅するが、今は韓国だけではなく日本も道連れで壊滅する)
今の北朝鮮のミサイルなどの軍事力(技術レベル)ですが(ひいき目に見ると)冷戦真っ盛りの1970年当時の世界最強の超大国(世界帝国)アメリカに対抗したもう一つの超大国ソ連に匹敵するらしいのである。
それなら、良い悪いの話ではなくて、米朝対話(北朝鮮の承認、平和条約の締結)しか道が無いが、その一番の障害とは北朝鮮(金正恩)ではなくて、実は病的に極限まで右傾化した日本(安倍晋三)こそが一番の問題だった。(韓国のパク・クネは一足早く3カ月前に失脚している)
韓国の女シャーマンの国政壟断騒動での大統領の弾劾も、日本の政権トップのお友達による国富の簒奪(モリ・カケ騒動)も今急に始まった訳ではない。
忖度は昔から伝統的に続いていた悪弊だが急に同時期に大問題となった。しかも、日韓双方が内部告発が原因らしいのですから、ロッキード事件の田中角栄首相逮捕のようにアメリカが仕掛けた可能性が高いのである。(密かに計画している米朝和解では、一番邪魔になるのはパク・クネであり安倍晋三だった。)
アメリカの『斬首作戦』で狙われているのは北朝鮮の金正恩委員長ではなくて、実は日本の安倍晋三首相である可能性が高いと見るべきであろう。(東京地検特捜部が動けば、即座に首がとれるし、検察が動かなくとも10月に先送りした獣医学部の文科省の認可が下りなければ同じ結果になる)


(おまけ)

『米MD「イージス・アショア」導入の可能性を正当化する日本の試みは根拠薄弱 露外務省』
2017年08月24日Sputnik

ロシア外務省のザハロワ報道官は、日本が米国のミサイル防衛(MD)システム「イージス・アショア」を導入する可能性について、地域のミサイル戦力の不均衡を生み出す恐れがあるとの見方を示した。

『北朝鮮 米韓演習は「火薬庫の上での火遊び」』2017年08月24日Sputnik

北朝鮮の朝鮮中央テレビは、米韓合同軍事演習を非難し、同演習は「核の火薬庫の上での火遊びだ」と指摘する北朝鮮の平和擁護全国民族委員会の談話を報じた。

『北朝鮮ミサイルプログラムはプレー規則を変えるか?』2017年08月25日 Sputnik

北朝鮮は核ミサイルプログラムでとんでもないブレイクスルーをやってのけた。
これは米国が予期していないことだったのだ。
多くの専門家が頭を悩ませているのは、北朝鮮がこれをやり遂げるのに誰が手助けをしたのか、という点だ。ウクライナのルートではないか、中国、ロシアが手を貸したのではないかと調べられている。
だがどんなにしても事実は変わりない。それは近未来に北朝鮮に、実際、米国に届く大陸間核弾頭弾道ミサイルが出現するということだ。
(抜粋)

(おまけ、2)

『米軍海外展開、過去60年で最低= 国別では日本が最多
-調査機関』2017年08月25日 時事通信

米軍の海外展開兵力が2016年に20万人を割り込み、過去60年間で最低を記録した。国別の駐留規模では、日本が最多だった。米調査機関ピュー・リサーチ・センターが22日に調査結果を公表した。
それによると、16年の米軍の現役兵士数は約130万人。うち15%に当たる19万3442人が海外に展開した。これは統計データが残っている1957年以降で最低の水準だった。
国別では日本が3万8818人でトップ。
次いでドイツ(3万4602人)と韓国(2万4189人)が多く、米軍が約16年間に及ぶ戦争に従事しているアフガニスタンは、イタリアより少ない9023人で5位だった。アジアへの展開兵力は全体の4割弱を占めた。
同センターは「米国と北朝鮮の緊張が高まっているにもかかわらず、韓国を含む複数の国で駐留米軍規模が縮小した」と指摘。韓国では57年に、現在の3倍近くに当たる米兵7万人以上が駐留していたが、16年には最低水準に落ち込んだ。
8月25日 時事通信社


瀬戸際外交はこの言葉が生まれるはるか以前から存在していた

(おまけ、3)

『瀬戸際外交、古代ギリシャと現代の違いは』
「相互確証破壊」という概念の登場はチキンゲームを劇的に変貌させた
2017 年 8 月 25 日 ウォール・ストリート・ジャーナル

1956年、当時のジョン・フォスター・ダレス米国務長官はライフ誌に対し、米国が外交面で核戦争の脅威をどう利用できるかについて語った。いわく「戦争に突入することなく、その瀬戸際まで行く能力は必要な技だ(中略)そこから逃げようとすれば、あるいは瀬戸際まで行くことを恐れたなら負ける」。
ドナルド・トランプ大統領はこのところ、ダレス氏と同じ考えを抱いているようだ。北朝鮮が米国に対してさらなる脅しをかけるなら、「世界が未だ目にしたことのないような炎と怒りに直面するだろう」と警告した。

瀬戸際外交はこの言葉が生まれるはるか以前から存在していたはずだ。しかし、われわれの辞書に登場したのは冷戦時だ。哲学者のバートランド・ラッセル氏と、ハーバード大学教授でノーベル経済学賞を受賞したトーマス・シェリング氏はこれを敵対する2者によるチキンゲーム(度胸試し)と呼んだ。
つまり、双方に暴力と混乱のリスクがあるにもかかわらず、相手が引き下がるまで要求をつり上げ続けるやり方のことだ。

この言葉自体がどれだけ新しかろうと、はるか昔の古代ギリシャ時代にも瀬戸際外交は実際に行われていた。古代ギリシャ人はその達人でもあった。
ギリシャ・ペルシア戦争(紀元前499~449年)の後、アテネには諸都市が結束するデロス同盟ができた。一方のスパルタにはペロポネソス同盟が結成された。双方とも賄賂と武力というアメとムチを通じて、同盟仲間をつなぎとめていた。
両同盟とも、先に屈するのは相手のほうだと踏んで要求をつり上げていったが、この戦略は裏目に出ることになった。
紀元前432年頃にアテネのリーダー、ペリクレスはペロポネソスの同盟都市であるコリントスを孤立させようと試み、コリントスの同盟仲間である都市のひとつに貿易停止を宣言した。だが、両同盟とも面目を失うことを嫌い、ついにペロポネソス戦争に発展、アテネは敗北した。

軍事的な緊張状態を制御不能に陥らせることのリスクのひとつは、それまで中立的な立場にあった関係国までをも挑発してしまうことだ。大英帝国に対して1806年頃から瀬戸際外交を行っていたナポレオンの政策をひっくり返したのは予期せぬ第三者だった。
ナポレオンは当時、欧州の大部分を支配下に収めていたにもかかわらず、大英帝国が自身の縄張りを侵してきていることに不満を覚えて大陸封鎖令を発し、英国と大陸諸国との貿易を禁止した。ナポレオンは同盟国のロシア帝国が大陸封鎖令を守れば、大英帝国は経済的な崩壊に至り、双方の困窮はたちまちのうちに緩和されると踏んだのだ。
ところが、大英帝国は独自の封鎖措置で対抗。困窮したロシア帝国はフランスに逆らい大陸封鎖令を破った。裏切ったロシアに対し、ナポレオンは軍隊を送り込み、「モスクワ遠征」をしかけた。しかし冬将軍が早めに到来したこともあり、ナポレオン軍は壊滅した。

20世紀に入ると、核兵器による「相互確証破壊」という概念の登場によりチキンゲームは劇的な変貌をとげた。双方が互いに一瞬で相手を壊滅させることが明白な場合に、敵にどう立ち向かえというのか。
1962年のキューバ・ミサイル危機の際に米ソ両国が戦争を回避した後、瀬戸際外交の時代は終わったかのように見えた。終わったという希望を持つのは時期尚早だったのか。それは今後の行方次第だ。
8月25日 ウォール・ストリート・ジャーナル







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『第二のキューバ危機』 (ローレライ)
2017-08-24 15:45:36
『第二のキューバ危機』を演出している米朝。トランプは『ケネディ越え』の評価を目指す。

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