パトリシアの祈り

ドラクエ日記。5が一番好き。好きなモンスターはメタルキングなど。ネタバレしてますのでご注意

広告

※このエリアは、60日間投稿が無い場合に表示されます。記事を投稿すると、表示されなくなります。

小説ドラゴンクエスト10 第63回

2016-10-08 20:57:38 | 小説ドラクエ10
→ はじめから読む



   第7章 愛と剣


    6




 ガートラントの西に広がる荒野、オルセコ高地。辺り一面は乾いた土の色が広がっている。動植物の姿はほとんど見えない代わりに、魔物たちの蠢く姿があちこちに見えた。どこを見ても同じような赤茶けた土の色をした山に囲まれ、入り組んだ台地は登り降りする道を探すことさえ難しい。

 出発の間際にアイの母が持たせてくれた地図を見る。ガートラント周辺が描かれていた。この広大な台地はまさに山に抱かれ、わずかな山の谷間からガートラントへと行き来できるだけで、他に道はない。もっとも、こんな所を行き来する者もいないのだが。

 目指すオルセコ闘技場の絵は、地図で言うと台地の南西に描かれている。台地の中心に聳え立つ剣岩と言う巨岩を目指して歩いていた。正面に見える尖った岩がおそらくそれなのだろう。だが、真っ直ぐに向かっても崖に行き当たり、降りられる道を探して遠回りをする羽目になった。焦る気持ちが心の余裕を奪っていき、魔物との戦いも雑になった。

 アイは、預けていたパーティのお金と、ルーラストーンを置いて行った。そのことが、ショコラをさらに焦らせていた。もう戻らない。そう言われている気がした。

 アイの抜けた穴は大きい。いかに前衛で危険な役目を背負ってくれていたのか、改めて思い知る。代わりにチャオが前衛となって戦っているが、重い斧は攻撃力が高い反面素早い動きはできず、群れで襲われると容易にショコラとりなの元に詰め寄ってくる。

 りなはレンドアで買ったグラコスの槍を操り、魔物たちを串刺しにし、薙ぎ払う。ただいかんせん僧侶の力で、プクリポサイズの槍である。一撃で致命傷を与えることは稀であった。特に、大きな体に真紅の鎧を纏った魔獣戦士ライノソルジャーとは相性が悪かった。渾身の技を繰り出しても、鎧と分厚い皮膚に阻まれ、かえって力負けして弾き飛ばされてしまう。

 そのような敵にはやはり呪文攻撃が有効だが、ショコラの魔法は狙いが定まらず、魔力も不安定だった。しかしそれを自分でも感じていたため、チャオやりなの近くでイオを試すことはしなかった。今の状態では無理だとわかっていた。

 夜中から歩き続けて、もう陽は高く昇っている。チャオは回復したばかりのショコラをそれとなく気遣い、こまめに休憩を挟んだ。

 剣岩の麓に野営の跡を見つけた。まだわずかに熱が残っている。目的地はここからまっすぐ南西のはずだ。地図のとおり、南西には大きな二つの岩山がある。その谷間を超えた先に、古代の闘技場はある。

 自分たちは地図を持っているが、アイは迷っていないだろうか。あの山の向こうに闘技場があることを知っているのだろうか。いや、そもそも、アイは本当に闘技場に向かっているのだろうか。

 アイが側にいないことが、こんなにも不安だとは思わなかった。次々に悪い考えが浮かんでは消え、立ち止まったら泣いてしまいそうだった。だからショコラは、チャオが休憩だと声をかけてくるまで休まずに歩いた。

 再び夜がやってきた。

 月の光も届かない谷底から、目の前に現れた闘技場を見上げた。それは周りの岩とは明らかに質の違う、人工物だった。真っ黒に聳え立つその建物に開いた無数の穴のいくつかから、微かに灯りがちらついている。

 メラの光を頼りに暗闇から入り口を見つけると、中に灯りが灯っているのが見えた。耳を澄ますと、通路の奥からうめき声のようなものが響いてくる。

 奥の灯りを目指して真っ暗な通路を進んでいくと、うめき声も徐々にはっきりと、人の声に聞こえるようになってきた。

 ばんざい……ばんざい……と、何人もの男の声だった。

 通路を抜けた先は少し広い空間で、灯りを下げた巨大なオーガの像が何体も立っていた。その奥には、空が見えた。男たちの声はその空の下の方から聞こえる。

 近づいてみると、そこは円形の建物の一角だった。真っ直ぐ正面にも同じような場所があるのが見えた。三百六十度からその中心を見ることができるようだ。建物の中心はすり鉢状に観客席のようなものが何段にも渡って並び、底は平らな地面だった。そこには大勢のオーガの男たちがいた。
ばんざい……ばんざい……マリーンさまばんざい……。

 男たちは口々に唱える。しかしその声に生気はなかった。屈強なオーガの戦士たちが、だらしなく腕を垂れ、腰を曲げてようやく立っているような格好だった。

 そんな男たちの中心にいたのは、まぎれもなく先日ショコラに回復の呪文をかけた賢者マリーンだった。男たちを眺め、巨体を揺らして笑っている。

 ショコラはもちろん、りなもチャオもマリーンが魔物に変化した姿を見ていない。ここに来るまでの間、度々その話をした。ちょっと話しただけだが、気さくでいいヤツだったとチャオは言った。乱暴な口調だけど、回復の呪文を褒め、がんばれと言ってくれた、とりなは思い返す。

 城の者が嘘を言う理由はない。だが、信じたくない気持ちはあった。眼下に見えるマリーンはまだ人の姿で、会った時と同じように、豪快に大笑いしている。

「あ、あれ見て」

 突然りなが裾を引く。覗き込んでいた隙間の先を指さしている。

「あそこ」

 ショコラは膝をついて覗き込む。ほぼ正面、つまりこの場所とは反対側の廊下が見えた。何層か下の階も見え、その柱の陰に誰かがいた。赤い二つの影は、銀色の髪を揺らした。

「アイちゃん!」

 思わず声を上げてしまい、慌てて口に手を当てた。幸いにもマリーンや男たちが気づいた様子はなかった。

「良かった……良かった、アイちゃん……!」

 床に座り込んだショコラに、チャオはそっと手を伸ばし、

「さあ、早く追いつこうぜ」と目を細める。勇気と力が湧いてくる。

 闘技場内部は所々が崩れ落ちて進めず、迷路のようになっていた。メラミを操るホースデビルや騎馬死霊ボーンナイト、飛び上がり、空中から攻撃を仕掛けてくる竜騎兵など、魔物たちも行く手を阻む。

 しかし、それらはショコラを止めることはできなかった。魔法は冴え、わずかな風の流れをも感じ取り、奥へ下へと突き進んでいく。心臓は激しく脈打ち、息も弾んでいる。それでも足が止まることはなかった。

 門番のように立ちふさがるストーンビーストをやり過ごし、最下層の巨大な扉を開けると、月明かりとともに激しい剣戟が飛び込んできた。





 つづく


ジャンル:
小説
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« DQ9ストーリー備忘8 カルバド | トップ | 小説ドラゴンクエスト10 トップ »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

小説ドラクエ10」カテゴリの最新記事