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JMM [Japan Mail Media]   No.926 Saturday Edition

2016-12-06 06:00:39 | お気に入り
JMM [Japan Mail Media] は私が最も頼りにしているMMの一つです。

最新号から紹介します。

■ 『from 911/USAレポート』第730回

  「トランプ次期政権は支離滅裂に陥るのか?」

    ■ 冷泉彰彦:作家(米国ニュージャージー州在住)

以下引用

 当初はスピーディに進むと思われていた、新政権への「移行作業」ですが、かなり
時間がかかっているようです。それでも、主要な閣僚については名前が固まってきま
した。とりあえず、名前を確認しておくことにしましょう。

 まずホワイトハウスのスタッフですが、次のような顔ぶれが内定しています。これ
らのポジションは、大統領の任命だけで良く、議会の承認は必要ないので事実上決定
ということでいいでしょう。

<ホワイトハウス首席補佐官>ラインス・プリーバス(共和党全国委員長)
<ホワイトハウス首席戦略官>スティーブン・バノン(前ブライトバート会長)
<安全保障補佐官>マイケル・フリン(元軍情報局長官、退役陸軍中将)
<安全保障副補佐官>KT・マクファーランド(軍事外交評論家)

 閣僚人事に関して、発表されているのは以下の通りです。こちらは、閣僚級扱いの
国連大使を含めて議会承認待ちですが、現時点では大きな抵抗が見込まれるケースは
ないようです。

<国防長官>ジェームズ・マティス(元中央軍司令官、退役海兵隊大将)
<財務長官>スティーブン・マニューチン(元ゴールドマンサックス・パートナー)
<司法長官>ジェフ・セッションズ(連邦上院議員、アラバマ州選出)
<商務長官>ウィルバー・ロス(投資家、元ロスチャイルド社)
<保健長官>トム・プライス(連邦下院議員、ジョージア6区選出、予算委員長、医師)
<教育長官>ベッツィ・デボス(教育問題活動家)
<運輸長官>イレーン・チャオ(元労働長官)
<国連大使>ニッキー・ヘイリー(現サウスカロライナ州知事)

 残りの主要閣僚に関しては、本稿の時点では未定ですが、以下のような名前が取り
沙汰されています。

<国務長官>ミット・ロムニー、デビット・ペトレイアス、ルディ・ジュリアーニ、
ジョン・ボルトン、ボブ・コーカー

<USTR(米通商代表)>チャールズ・ボウスタニー、ダン・ディミーコ

 この人事、そして更にこの間のトランプ次期大統領の言動を総合してみますと、次
期政権の概要に関しては、どうも不安感を禁じえません。まず顔ぶれにおいては呉越
同舟・玉石混交という感じがあり、全体的なビジョンとか理念の部分においては、支
離滅裂という感じが否めないのです。問題は3つ指摘できます。

 1つ目は「保守本流中心の人事」になってきたということです。つまり、トランプ
政権というものを担っていく二つの勢力の均衡が崩れてきたのです。トランプ政権の
基盤となりうるのは、具体的には「早期から選挙戦を支えてきたコアの支持層」「共
和党の保守本流」という2つです。この点に関して言えば、上記のリストの中で「コ
ア支持層」に当たる人物は、バノン、セッションズ、ロスの3名だけであり、残りの
ほとんどは共和党の「保守本流」に近い人物になって行っています

 これは、今回の選挙戦の「最終局面」で「共和党が勝ちに行った」ということが大
きく影響していると思われます。つまり、多くの棄権者を出した民主党とは違って、
共和党では本来の支持者の多くがトランプに投票し、同時に上下両院議員も共和党候
補に入れたということです。ですから、予備選とは違って、本選におけるトランプは
「共和党の本来の支持者」によって当選した、従って「保守本流」の影響力が大きく
なるのは当然ということかもしれません。

 もう一つの要素は、「コアの支持層」だけでは「政権担当能力」が十分でないとい
う問題です。能力というよりも、人材の層の厚みということで全く無理な話であるわ
けで、選挙戦で誰が頑張ったのかというような話の以前に、そもそも人がいなかった
わけです。この点に関しては、特に次期大統領の女婿、つまりイヴァンカ氏の夫であ
る、ジャレッド・クシュナー氏が動いているという説もありますが、そもそも、「コ
アの支持者」だけでは無理だったということがあり得ます。

 2つ目の問題は、その結果として選挙戦を通じてトランプが訴え、そして多くの有
権者を引きつけてきたメッセージとは異なる政策が浮上しつつあるということです。
例えば、軍事外交がいい例です。前回のこの欄でもお話しましたが、確かにこの人事、
そしてトランプ次期大統領の言動からは「保守」あるいは「強硬」「タカ派」といっ
た印象が強く出てきています。

 ですが、その中身を見てみると、どうにも良く分からないのです。例えば、この強
硬とか保守という印象はどんな内容を伴っているのかというと、

「オバマが実現したイランとの核合意をひっくり返してイランを敵視する」

「アレッポの空爆対象にはテロリストが混じっているとして、アサド政権による空爆
の継続を放置する」

「『人を殺すのも平気(マティス氏)』といった発言をする人物を評価する」

「タブーとされた台湾の総統との直接の電話会談をサッサとやってしまう」

「オバマが国交正常化したキューバに対して辛口の姿勢で臨む」

「軍備増強を公言する」

 というような内容です。確かに、言葉だけ見ていますと「強硬」に聞こえますし、
保守的と言われれば確かに保守的です。ですが、個々のこうした言動というのは本当
に強硬で、本当に保守的なのでしょうか? どうも、良く分からないのです。

 まず一貫した方針が感じられません。台湾の蔡英文総統との電話会談や、フィデル
・カストロ死去時の冷たいコメントという2つの事象を見れば「反共主義」のような
ニュアンスが見て取れます。ですが、現在は50年代でもなければ70年代でもない
のです。例えば、キューバにしても中国にしても開発独裁ではあっても、経済の実態
は社会主義ですらないわけで、「反共」ということが、そもそも意味を成さないので
す。

 それに、プーチンやアサド、そしてエルドアンなどに対しては強く支持するという
発言を繰り返しています。政策に関して認められるのであれば、他国が民主政体であ
るか独裁的な政体であるかについては、ほとんど関心を払わない中で、たまたま中国
とキューバに対して「冷たい」姿勢が飛び出したからと言って「反共主義」があると
いうことには、どうもなりそうもありません。



中略

 3番目の問題は「言葉と実際のズレ」という問題です。選挙戦を通じてトランプ氏
が発してきたメッセージは、そのほとんどが「情念的な」ものであり、どちらかと言
えば「現実の政策論」というよりも、「感情論をまとめていく比喩=たとえ話」であ
ったわけです。「壁を作る」とか「イスラム教徒の入国禁止」あるいは「日本と韓国
(サウジとドイツも)の核武装容認」にしても、どれも「真に受ける」べきものでは
なく、そのウラにあるメッセージを共有するための「たとえ話」として「現実とは一
線を画して理解」するべきものでした。

 ですが、実際に大統領に就任して行政を動かす(執行する)ということになると、
このように「たとえ話」と「現実」を別々に切り離した一種の「言葉のゲーム」は、
いつまでも続ける訳にはいきません。

 また、独特の「トランプ節」であるから許される、こうした「言葉と現実のズレ」
について、「タダの人」である閣僚は絶対に真似はできないと思います。つまり、閣
僚として執務を開始したら、その人の言動は政権の政策の方向性を決めるという「現
実」に属することになります。ということは、一旦政権が動き出して、新大統領本人
あるいは新閣僚が何かを言い始めたら、以降は「たとえ話」ではなく「現実の世界」
になるわけです。

 そこでは、受けを狙った誇張表現や、できもしない大言壮語は許されないことにな
ります。そして、何よりも「保護主義なのかビジネス優先なのか」「介入して力を誇
示するのか、徹底した不介入なのか」といった根幹の問題に関して、曖昧であったり、
一貫性を欠いていたりということは許されなくなります。

 その意味で、12月の声を聞き、既に当選から1ヶ月を経た現時点で、新政権の陣
容も政策もビシっと決まっていないというのは、少々危機的な状況と言えます。とに
かく、

「保守と言いながらレトロな感情論の塊で現実とは整合しない危険」
「保守本流のビジネスフレンドリーな政策が国内雇用重視の公約と矛盾する危険」

に加えて、

「たとえ話のメッセージと現実の二重性を抱えてきた政治トークは就任後は通用しな
い」

という問題にどう対処していくのか、そろそろトランプ氏本人がキチンと軌道修正を
しないといけないでしょう。その意味で、12月15日の記者会見というのは、大変
に注目されます。


冷泉彰彦氏は、情報通で視点も鋭く読み応えがあります。

『トランプ大統領の衝撃』(幻冬舎新書)という本も書店にならんでいます。
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4344984463/

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