テレビのニュースでは全く取り上げられませんでしたが、EUはよくぞここまでやったと思った記事が、今日2010年10月18日の日経新聞の7ページに「ヘッジファンド規制-EU法案再修正で合意」と言うタイトルで載っていました。
最近の過度な為替レートや資源価格等の変動の大きな原因の1つとして、銀行に適用されている種々の規制等がヘッジファンドでは適用されていないことが挙げられています。例えば、2008年にノーベル経済学賞を受賞したポール・グルーグルマンは、その著書『
世界大不況からの脱出-なぜ恐慌型経済は広がったのか』のP269で、
"金融メカニズムにおいて重要な役割を果たすからという理由で金融危機の際に救済された全ての機関は、危機ではないときは、過度のリスクを負わないように規制されるべきだということだ。1930年以降、商業銀行は、十分な自己資本を蓄えること、現金にすぐさま換えられる流動資産を準備預金として保有すること、そして投資の種類を制限することを義務付けられてきた。これらは全て、何か問題が起きた場合に連邦政府から与えられる保障と引き換えに取られた処置だ。今回のように、多種多様なノンバンク機関が銀行危機を発生させたのだから、銀行と同等の規制がそれらの機関に対しても設けられるべきである。"
と述べています。
また、慶応大学経済学部教授の金子勝は、その著書『
新・反グローバリズム――金融資本主義を超えて (岩波現代文庫)』のP67で、
”アメリカの金融機関は、「影の銀行システム」を作り上げて、連結決算の適用も免れてバブルを膨らましていた。.... 「影の銀行システム」とは、資産運用会社であるSIV(ストラクチャード・インベストメント・ビークル:投資ビークル)や投資銀行傘下にあるヘッジファンドなどをさす。.... SIVは銀行の連結決算の対象外なので、FRBの監督も十分に及ばず、ここには銀行が従わなければならない自己資本比率規制が適用されない。またヘッジファンドにはSECの監督規制も及ばない。.... さらに特筆すべきは、ウォール街は膨大な政治献金やロビー活動によって、自らに都合のいい規制緩和を進めてきた点である。.... 2004年4月に、....レバレッジ・ルールは12倍から30倍以上に劇的に規制緩和された。それが、金融危機を大きくしていったのである。”
と述べています。
今回のEUのヘッジファンド規制の法案修正の中身は、EU加盟国の当初案では、EU域内のファンドが1ヵ国の金融当局から認可を得ればEU全域で商品を販売できる「パスポート」と呼ばれる権利を得るが、域外の第三国ファンドにはこの権利を与えない内容だったのを、第三国ファンドへのパスポート付与を条件付で認めたものです。その条件の内容は、”11年1月に設立するEUのあらたな証券監督当局が第三国ファンドの認可を判断する。”というもので、EUのヘッジファンド規制法案の具体的内容は、
① 認可制の導入
② 自己資本率規制の導入
③ 銀行借り入れなどで運用資産を膨らます「レバレッジ」を当局が制限できる--
など、世界で最も厳しいものだそうです。金融業界からの圧力にも屈することなくこの法案を作ったEUに拍手
です。
上のヘッジファンドの規制と関連するもので、興味をそそられたもう1つの記事は、前日の2010年10月17日の日経新聞の15ページに「一目均衡 - 世界のミセス・ワタナベ」と言うタイトルで載っていたものです。その記事の内容は、
”「ミセス・ワタナベの親せきが世界各地にいる」。日本の家計が、円を売り、外貨や外国資産の買いに走る姿を「ミセス・ワタナベ」と市場関係者は呼んだ。それが今、米国や欧州に広がっている。先進国の金融緩和競争は、長期金利を押し下げ、自国通貨安を引き起こす。その余波を受ける家計は、資産が目減りする恐怖と利回り渇望症に陥る。.... 先進国からあふれ出す資金に、新興国や資源国は警戒を強める。もともとの市場規模や価格形成を無視してミセスたちが押し寄せると、相場が実態経済から乖離しかねない。バブルへの懸念だ。”
IT技術の進歩は、グローバルな資産運用を金融機関から一般の家庭でも可能にしましたが、マスコミに簡単に影響を受けやすいだろうと考えられる新しい投資家に対する規制等は、手付かずのままです。まあ、「ミセス・ワタナベ」の取引が、それほど気にする量になっているのか、まだなっていないのか、統計を探しても見つかりませんでしたが。。。
話が大きく替わり、円高に対する今回の日本の為替介入ですが、BIS(国際決済銀行)から3年に1度出される
Triennial Central Bank Survey Foreign exchange and derivatives market activity in April 2010のP10の表4によると、1日の米ドル/円の為替取引額は5,680億ドルで83.5円/ドルのレートで円に換算すると約47.4兆円だそうです。これは日本の2008年のGDP 494兆円の約10分の1で、これから私は、
① ヘッジファンドや年金基金等が実物経済を大きく超えて為替相場を動かしていること(言わずもがなですが)
② 日本単独の今の為替介入は、アメリカの低金利が継続さらに進む限り気休め程度(産業界や国民向けのパフォーマンス)にしか過ぎないであろうこと
が言えると思います。(マシンガンや大砲をもって攻めてくる大群の軍隊に対して、時々ピストルやライフル銃でゲリラ攻撃をかけているようなもの?一旦は引っ込むが、その進行は止められない。)
それにしても日本で出版されている海外の経済関連の本は、なぜそのほとんどが米国で出版されたものなんでしょうか。ヨーロッパ、特にドイツ、フランス人等により書かれた本を読んで見たいと思い、アマゾンで探しましたが見つかりませんでした。おもしろそうな本があったら紹介してください。