滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

プラスエネルギーハウスのシンポジウム

2010-05-05 18:29:21 | 建築

月曜日に、エネルギークラスター財団主催のプラスエネルギーハウスをテーマとしたシンポジウムがベルンで開催されたので、行ってきました。エネルギークラスター財団は、省エネルギーと再生可能エネルギーに関する産業や研究機関が集まって、この分野の革新的技術や産業を促進することを目的に活動しているスイスの組織です。毎年、様々なエネルギー関連のテーマでシンポジウムを開催しますが、今年は「プラスエネルギーハウス」という熱い話題で、200人の建築家や企業関係者が熱心に聴講していました。

シンポジウムは、プラスエネルギーハウスの定義に始まり、これまでの経緯や事例のプレゼン、関連技術や建材、最後にはスイスの主な政党から政治家が4人集まり、各党のエネルギー政策ステートメントとプラスエネルギーハウス促進について語り、それにエネルギー庁副長官で国のエネルギー行動計画「エネルギー・シュバイツ」の代表者が行政の立場から意見するというディスカッション付き、という盛沢山の一日でした。

確認できたことは、スイスの新築の未来は確実にプラスエネルギーの方向に向かっていること。その基本は、ミネルギー・Pレベルの断熱であるというコンセンサス。(再生可能エネルギー利用に偏ったプラスエネルギー化ではないということ)。とはいえ、建築分野の省エネルギー化の中心的課題は省エネ改修、と政治家も行政も口をそろえてのコメントでした。

肝心のプラスエネルギーハウスの定義なのですが、それがスイスではまだオフィシャルに決まっていないのです。スイスの場合、オフィシャルな建物の省エネルギー基準は、規制基準、ミネルギー基準、ミネルギー・P基準(新築はパッシブハウス基準に相当)の三つがあります。さらにミネルギーでエコ建築の条件も満たした建築を認証する基準に、ミネルギー・Ecoとミネルギー・P・Ecoがあります。

そういう状況の中で、「プラスエネルギーハウス」とは、家で消費されるエネルギー量よりも多くのエネルギーを生産する家、を意味しています。ですが、家(住分野)で消費されるエネルギー量をどう定義するのか。それをエネルギークラスターのプラスエネルギーハウス研究会では、三つのカテゴリーに分けています。

プラスエネルギーハウスの三つのカテゴリー
①電気機器・照明・暖房・給湯・換気に使うエネルギー消費量以上のエネルギーを年間収支で生産する家
②さらに建物の生産にかかるグレーエネルギーを加えたエネルギー消費量以上を生産する家
③上記に加えて、交通(電気自動車)に必用なエネルギーを加えたエネルギー消費量以上を生産する家

これまでスイスで呼ばれてきたプラスエネルギーハウスは①を示し、もちろん①→③の順で難易度は高まります。躯体の基本は新築ではミネルギー・Pレベルです。また、外部からガスや木質バイオマスのエネルギーを投入しても、家で生産し、家の外部に供給するエネルギー量の方が大きければプラスエネルギーとなります。一次エネルギーで計算するのか、最終エネルギーで計算するのかは、どの計算モデルを採用するのかによって異なります。

そのため、シンポジウムでは、これから国や州が間もなくプラスエネルギーハウスの計算方法を含めたオフィシャルな定義づけを行なうことが要求されました。また最近では、規模の小さなミネルギー・P建築をプラスエネルギー化する事例数は増えてきましたが、今後はより規模の大きな集合住宅や、地区単位でのプラスエネルギー化といったコンセプトも考えていく必要性も議論されていました。

紹介されていた事例で面白かったのが、若手建築家(38歳!)のアンドレアス・ヴェグミュラーさんが設計し、2009年にインターラーケンに竣工したプラスエネルギーハウスの二世帯住宅です。エコロジカルな建材利用と構造により、ミネルギー・P・エコ認証を受けています。しかも、家を作るのに必要なグレーエネルギーを自給する、プラスエネルギーのグレード2を満たしています。

写真・図提供:Andreas Wegmueller,
http://www.wegmueller-arch.ch/


ヴェグミュラーさんの話によると、この家のエネルギー的な特徴は以下の通り:

標高600mのインターラーケンに建つこの家は、レンガ造りの二階建てで、240㎡の二世帯住宅です。施主夫妻は2階に住み、下は賃貸しています。建物の形はパッシブソーラー利用を最大化するために東西が南北よりも90%長く、南面は大きな窓面となっており、室内には床下や壁に十分な蓄熱容量が与えられています。日除けは庇とバルコニーで行なっています。また、天井や地下にはリサイクリングコンクリートが用いられ、グレーエネルギーを小さく抑えています。

1階平面図、賃貸住宅、左上が機械室です。

2階、施主住い


U値は壁も屋根も地下も0.10。
・地下が40センチの発泡ガラス、床下に10cmのポリスチロール。
・外壁はIsover社の熱橋を作らない新断熱システム「Phoenix」を採用し、28㎝のグラスウールでU値0.10を達成。宇宙船に使われる人口素材を断熱材のディスタンサーとして使うシステムで、ラムダ値がほとんど断熱材と変わらないため、熱橋計算が不要になるのだそうです。
・屋根は46㎝のグラスウールを入れています。
・窓のU値はガラスが0.6、全体が0.70~0.85で、日射透過率は57%。スイスの気候ではU値が小さいと同時に、冬のパッシブな日射獲得を最大化するガラスを選ぶことが重要です。また窓枠の部分を外壁断熱で覆っています。



1部、Phoenixシステムののディスタンサーが見える(かな?)


北ファザード

コンフォート換気は、湿度を回収するタイプの熱回収型換気設備を採用。家電には最高の効率のものを選んでいます。暖房設備はこの家の場合、ソーラー温水器からのお湯で低温床暖房で行っています。暖房・給湯は、基本的に冬でも100%ソーラー温水器で熱需要をまかなえる計算となっています。

ですが、この地方では真冬に1~2週間ほど霧がかかるために、室内には補助暖房として給湯も行なえるWodtke社のペレットストーブが設置されています。熱が足りなくなると自動的に着火する設定で、ストーブの熱の80%がお湯に回され、20%が室内を直接温めます。

しかし、この冬は一度もペレットストーブが使われなかったそうです・・!!しかも、2階の床暖もスイッチを切った状態で、常に室温は22~23度でした。今年の冬は特に寒く、マイナス10~15度の日が続くこともありました。ですが日射は豊富で、パッシブソーラーだけでも室温を高く保てたことにヴェグミュラーさんは驚いていました。

そう考えると床暖を入れる必要は無かったのでは?という話になりますが、それでも床暖を入れたのは、裸足で歩いて気持ちよい家にしたかったから。そして、スイスの不動産市場という視点から、暖房設備のない家を建てることにはまだ抵抗が大きい、とヴェグミュラーさんは語ります。そのため、床暖設備はとても安いこともあって、とりあえず入れて置いたそうです。

エネルギー生産の方は、ソーラーエネルギーで行なっています。バルコニーの手摺は冬の日差しを最大利用するために68度の角度に設計され、真空管式のソーラー温水器を9枚設置し、給湯、洗濯、暖房の熱を100%まかなっています。蓄熱タンクの大きさは1950ℓ。タンク内部に給湯用のボイラー300ℓが内蔵されています。

また、角度15度の南向きの屋根は66.4㎡の光発電パネルで覆われ、昨年度は8369kWhを生産しています。昨年のこの家の電力消費量は1940kWhだったそうですから、電力に関しては自給率431%のプラスエネルギーハウスということになります。これまでの測定によると、この家の一年一㎡あたりのエネルギー需要量は-100kWh/m2年だそうです!!(註:家の建設にかかるグレーエネルギーを含まない計算です。)

お施主さんは2人住まい。1階はパッシブハウスに関心を持って居る市民がテスト居住できる空間として提供しており、予約が殺到しているそうです。そのため家の平均利用人数は3人ということで、4人住いでも十分にプラスエネルギーとなるように計算されています。しかし、一般的な感覚だと、240㎡なら6~8人は住めますよね。その場合はプラスにはならず、ゼロエネルギーくらいなのではないかな、と1人で考えてしまいました。

いづれにしても、プラスエネルギーハウスの定義づけや促進方法の今後の発展が楽しみです。 シンポジウムでは、省エネ改修の面白い事例の話も聞きましたが、そのことはまた後日紹介しましょう。

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