シリコンバレーで綴る弁理士日記

創英特許事務所の米国オフィスに駐在する弁理士が日常の出来事や発見を書き綴ります。

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(152) KSR判決と日米の特許審査

2007年05月10日 | 知財&技術
4月30日に、発明の非自明性(non-obviousness)に関する判断について注目を浴びていたKSR最高裁判決が出ました。その日のうちにワシントンDCの弁護士が判決文を送ってくれたのですが、シカゴ出張の真っ最中でしたので放ったらかしでした。。。

既に多くの方が記事に取り上げているので今さら判決解説っぽいことはしませんが、これに関する話を綴りたいと思います。

私はこの判決によって米国の非自明性の判断基準が日本の進歩性のそれに近付いていくものと考えています。もっとも、今後アメリカでより明確な非自明性の判断基準を打ち出し、且つ、その内容が日本の進歩性の判断基準に近似するものであっても、抽象的な発明が審査対象である以上は非自明性の有無を審査基準に従って機械的に単純に結論付けることは極めて困難ですから、現在の審査スタイルが染み付いた米国特許庁の審査官が依然として現在の審査レベルを引きずる可能性も否定できません。

ところで、米国企業の日本特許出願のサポートをしていて常日頃気になるのは、①今回話題になった進歩性(非自明性)の判断基準、②補正の新規事項追加の判断基準の「日米における相違」です。

例えば進歩性については、経験からして日本では進歩性が認定されないような請求項の補正案を我々のクライアントである米国特許弁護士らは提案してきます。ダメもとでチャレンジするつもりではなく、補正後の発明はアメリカでは特許になる内容なので当然日本でも特許になると彼らが真面目に考えていることが多々あります。補正についても同様で、日本では新規事項追加になる要素(つまり明細書に記載されておらず自明でもない要素)でも平気で請求項に取り込もうとすることがあります。

このように、米国の特許弁護士さん達の多くは、アメリカの審査基準に基づいて、日本特許庁からの拒絶理由通知に応答しようと試みます。自分が日本で米国特許出願業務を扱っていた頃、アメリカでは非自明性の基準が低いし補正の基準も緩くて特許を取得し易いとの感触を得ていましたが、いまシリコンバレーで外内業務に携わっていると、「米国企業のために米国出願実務を行っている特許弁護士」に身に付いている非自明性及び補正の基準というものがよく分かります。

これからしばらく、巷ではKSR最高裁判決を引用する判決を追ったり(もう出ましたね)、今後の対策を練ったりする講演会や勉強会が開催されると思います。これらはもちろん大切ですが、実務家にとっては「目の前にある案件」をどのように上手く処理するかも大切です。

米国企業が日本で特許ポートフォリオを構築するには、米国特許の取得が最優先であることは分かりますが(損害賠償額が高いですから)、日本の進歩性や補正の判断基準を知り、それに則った手続を遂行することが大切と考えます。そのためには、日本の弁理士がそれを伝えていくべきでしょう。米国現地法人を有する日本企業でしたら、知財部員を現地に派遣することも効果的と思います。

一方、日本企業が米国で特許を取得するにあたっては、日本の進歩性や補正の基準を少し忘れて、米国の基準に思考を合わせることが大切と考えます。さもなければ、仮に米国企業と同じ発明をしたとしても、「狭い範囲」で特許を取得することになりかねません。米国出願を数十件扱った経験がある方なら、「あれ?こんな発明で非自明性が認められちゃうの?日本では特許にならないのにラッキー」と思われたことがあるでしょう。広い権利範囲を狙うべきです。但し、先行技術調査を怠ってはマズイです。しっかり調査をしておけば不要であったかもしれない限縮補正が審査中に必要となり、その結果として権利行使時に均等の範囲が制限されるおそれがあります(懐かしのフェスト判決)。

それから最後にKSR判決へ話を戻しますが、この判決を踏まえた日本企業の米国出願戦略としては、非自明性(進歩性)が認定されやすくするために、明細書の実施形態の欄に「発明の効果(実施形態の効果)」を軽く書いておけば良いと思っています。ここでいう「軽く」とは、何度も繰り返さないという意味です。効果を書くのは日本の実務家は慣れていますから、きっと抵抗は無いでしょう。ただ、明細書中に発明の効果が何度も繰り返して記述されていた米国特許の訴訟で、その効果を奏さない他社製品が侵害を構成しないと判示された例もありましたから注意が必要です。

一方、同判決を踏まえた米国企業の米国出願戦略がどうなるかは分かりませんが(米国の弁護士は明細書中に発明の効果を記述するのをとても嫌いますし・・・)、彼らにとってのKSR判決のメリットは、非自明性の審査基準が日本のものに近づき、この基準に慣れることで海外での特許取得がスムーズになることでしょうか。

以上、私見をあれこれと綴りましたが、現状に即したベストな出願戦略、及び、今後を見据えたベストな出願戦略を見つけ出し、それを遂行した出願人が業界で優位に立てるのだと思います。

May 9, 2007

(写真はツインピークスから眺めたサンフランシスコの町並み)
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