涼色商會 文化事業部

涼色桔梗(すずいろききょう)が、読んで読んで読まれて読んでみた本たちについての駄文。

『螢』(麻耶雄嵩)

2005-04-03 | は行
【概要】
 十年前の夏、6人が惨殺されたファイアフライ館。大学のオカルト研究会の面々は、因縁ある洋館を買い取ったOB・佐世保の招きを受けるが、二日目、佐世保が、かつての惨劇を再現したかのような死体で発見される。

【感想】
 麻耶作品に関しては、言いたいことがそれほど山のようにあったりする訳ですが……今回の作品は、また、えらい「真っ当な」ミステリですな。真っ当な、に「」が付いてるのは、もちろん、世間レベルでの真っ当さではなくて、あくまで麻耶氏の他の作品と比べて、って話ですし。でもね。その「真っ当」さ故に、かえって、今までの作品と比べて、どうも物足りないなあ、と思っちまうんですわ。要するに「麻耶作品にそんなもん、求めてないっちゅうねん。もっと殴りたくなるような、素敵にすっとんきょうなミステリにしてくれー!」と言いたいんですわー、実際。

 今回の作品は、綾辻行人氏の「館」に、有栖川有栖氏の学生アリスの雰囲気を足して、折原一氏の得意技を掛けてみた上で、最後に我孫子武丸氏の残虐描写入れてみましたー、って感じだしなあ。麻耶さんらしさと言えば、最後の最後で「やっぱやらかしやがったよー」ってくらいで。しかもそのオチ、有栖川氏の学生アリスものの某作品の終盤みたいだしなあ。

 例えば、ファイアフライ館のかつての持ち主、天才音楽家であるところの加賀螢司のナイスな狂いっぷりや、かつてのサークルメンバーで、連続惨殺魔・ジョージの毒牙にかかった対馬つぐみの悲劇性など、かつての麻耶作品において、存分に膨らまされて、作品全体のバランスを崩しかねないくらいの勢いを持たせてきた各種要素が、今回、妙に抑え気味な気がするんですが……「館」自体が呼び起こす「狂気」にしたって、綾辻作品をさんざっぱら読んできた俺には「どうせなら暗黒館くらいの勢いで真っ黒に塗りつぶせやー。ってそれじゃほんとに暗黒館じゃん。もう」と突っ込みましたし。

 問題の核心を避けて話を進めるのって難しいなあ。結局、俺は確かに本格ミステリを求めていながら、真っ当すぎる作品よりは、むしろ一癖も二癖もあるような作品の方が好みであって、この作品は、その点でいまいち不満だと言いたいのです。ついでに言うなら、折原一作品に慣れちゃってたりする場合、この作品で作者が仕込んでるミスリードの大ネタって、かなり初期段階で分かっちゃうんだけど……俺、各場面の登場人物の名前と性別を、常に確認しながら読んじゃうという、非常に厄介なタイプの人間なので。このくらいの表現ならネタバレになってないと思うがどうか。

 つまるところ、麻耶さんも大人になっちゃったのかなあ、と。って大人になるよな、俺と同い年だし。

【DATA】
 媒体    : 書籍
 初版発行日 : 2004/08/25
 価格    : ¥1,600+税
 ページ数  : 350p
 出版社   : 幻冬舎
 ISBN    : 4-344-00644-X
 装丁    : 鈴木成一デザイン室