SURGERY NOW note
がん治療と外科手術に関する新しい情報や日常診療を通じて感じたことなどを紹介します。
 



 ある本に私の考える名医の条件を書くよう求められました。外科の名医とは、次の3つの条件を満たした医師だと思います。それは、患者さんに対して親身になれること、最先端の医学知識を持つこと、手術が上手いことです。

 その原稿を送った直後に読んだ新聞記事に、武士の三徳「智仁勇」に関する記事が出ていました。まさに智は最先端の知識、仁は親身になること、勇は手術がうまいことに相当するではありませんか。そこで外科医の三徳も「智仁勇」だと思った次第です。

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 2006年8月16日の読売新聞に腹腔鏡胃切除術では翌日から歩行できるから良いという記事がありましたが全くナンセンスです。なぜなら開腹の胃切除を受けた人もほとんどが翌日には歩けるからです。本当に新聞の医学記事はだめですね。

 腹腔鏡胃切除術では創が小さいので創痛が若干軽度となることは確かですが、開腹手術でも腹腔鏡手術でも胃切除を受けた患者さんはほとんどが翌日には歩行可能です。新聞にこのような科学的根拠の乏しい素人的な医学記事が多いことは、いかに医学について勉強不足の新聞記者が多いかを示していると思います。また知識の乏しい新聞記者が、冷静でなく科学的でない医師のコメントを鵜呑みにすることも原因だと思います。すなわち医師側にも問題があることも確かです。ですから、新聞記者は医療サイドから提供された情報を鵜呑みにするのではなく、情報を冷静に判断して科学的根拠(エビデンス)に基づいた記事となるよう細心の注意を払って欲しいと思います。そのためには医師以上に最新の医学について勉強する必要があると思います。

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 最近話題になることの多い胃の用語を集めてみました。

 胃は英語でstomach(スタマック)、ドイツ語でMagen(マーゲン)です。ですから胃癌は英語でstomach cancerまたはgastric cancer (GC)、ドイツ語でMagenkrebs(MK)と言います。胃潰瘍は英語でgastric ulcer (GU)、ドイツ語でMagengeschwur (MG)です。胃癌や胃潰瘍などの存在部位を示す時は、例えば「体上部小弯」・「前庭部前壁」のように上下方向の部位に続けて横方向の部位を示して表現します。

 胃の手術に関連した単語と略語には次のようなものがあります。幽門側胃切除(幽切)は、英語でdistal gastrectomyで、略してdistal (ディスタール)またはDGと言います。distal は遠位の、末梢の、という意味です。幽切はドイツ語ではMagen -Resektion、略してMRと言います。胃全摘は英語でtotal gastrectomyですが、略してtotal またはTGと言います。噴門側胃切除(噴切)は英語でproximal gastrectomyですからproximalまたはPG、ドイツ語ではCardia-Resektion、略してCRと言います。幽門を温存する胃切除を幽門保存胃切除(pylorus-preserving gastrectomy)、略してPPGと言います。

 胃周囲のリンパ節(lymph node,LN)を摘出することをリンパ節郭清と言います。転移リンパ節は、胃癌から最も近い部位の第1群リンパ節 (N1)、少し離れた第2群リンパ節 (N2)、遠く離れた第3群リンパ節 (N3)に分類されます。胃癌の手術では、N2までのリンパ節を全て郭清するD2郭清が一般的に行われます。


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 最近日本で人気のあるタイ料理、韓国料理、インド料理などには唐辛子が多く含まれています。この唐辛子の辛みの主成分であるカプサイシンと胃粘膜との関係が最近わかってきました。

 主に胃体部と前庭部の胃粘膜にはカプサイシン感受性知覚神経があります。カプサイシンによりこの神経が刺激されると神経末端からカルシトニン遺伝子関連ペプチドという物質が遊離され、それにより胃粘膜血流が増加し、胃粘液の分泌が促進され、胃酸の分泌は抑制されます。胃粘膜血流と粘液が増加して胃酸が減少することにより、障害された胃粘膜は修復されて、胃粘膜は保護されます。すなわちカプサイシンは胃粘膜を保護する健胃作用があることが明らかになったのです。

 ですから”辛い”食べ物は、程よく食べれば胃に良いのです。シンガポールでの疫学調査では、シンガポール在住の中国人は、マレーシア人およびインド人よりも胃潰瘍の頻度が3倍高いことがわかりました。マレーシア人およびインド人に胃潰瘍が少ない原因としては辛いものを多く食べる食習慣が関係していると考えられています。しかし、唐辛子を食べ過ぎると血流が良くなり過ぎて傷から出血する可能性もありますので程々に。ちなみに、カプサイシンには育毛効果もあるそうです。

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 2006年8月に抗がん剤S-1が膵癌に対しても保険適応となりました。切除不可能な進行膵癌に対して施行された第2相臨床試験における奏効率は32%(19/59)とかなり良好でした。

 この奏効率32%は、ゲムシタビンの膵癌に対する奏効率約10%よりかなり高い数字です。そして、S-1によって約1/3の膵癌が半分以下に縮小するのですから、当然一定期間の生存延長が認められる可能性は極めて高いと思われます。しかし今後、転移性膵癌および局所進行膵癌に対するS-1の生存延長効果を科学的に証明するためには、大規模な無作為化比較試験で確認することが必要です。

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