『なんちゃって雑記』

好きなことも、そうでないことも全て『なんちゃって』と中途半端に取り組み楽しむ「サンデーさいれんす」の覚え書き。

中日新聞 社説

2018-12-09 10:21:47 | そう思う

 2018.12.09 中日新聞 社説 

 転載

 

不戦の時代を忘れない 週のはじめに考える

 

きのうは七十七年前、太平洋戦争が始まった平成最後の「開戦の日」でした。戦乱の昭和から平成、そして次の時代へ。私たちの歩むべき道を考えます。

 先日、日本新聞協会の論説責任者が集う会合で、石原信雄さんの話を聞く機会がありました。昭和から平成にかけて官僚機構トップの内閣官房副長官だった人です。

 当時担当していた「平成」への改元について話を聞くことが主眼でしたが、心に焼きついたのは、石原さんが平成の三十年間を、昭和とは違って「日本が当事者となる戦争が一度もなかった」と振り返ったことでした。

「トゥキディデスの罠」

 「トゥキディデスの罠(わな)」と呼ばれる現象があります。米国の政治学者、グレアム・アリソン教授の造語で、「新興国が覇権国に取って代わろうとすると、国際関係に構造的ストレスが生じて、暴力的な衝突が起こる」(『米中戦争前夜』ダイヤモンド社)緊張した状態を指します。

 古代ギリシャ時代、新興国アテネの台頭に覇権国スパルタが抱いた不安がペロポネソス戦争(紀元前四三一~四〇四年)を不可避にしたという、アテネの歴史家トゥキディデスの言葉にちなんで名付けられました。

 アリソン氏が分析した過去五百年間の覇権争い十六事例のうち、十二事例は最終的に戦争に発展しましたが、二十世紀初めの英米関係や米ソ冷戦、一九九〇年代以降のドイツの台頭など四事例では新旧大国の譲歩によって戦争が回避されたと分析しています。

 研究対象となった日本に関係する事例も二例あります。日清・日露戦争と太平洋戦争です。

 いずれも明治維新後、新興国として勢力圏を拡大しようとした日本と、既存の覇権国家である清国・ロシア、米国との衝突でした。

平和国家の役割大きく

 日本は日清・日露戦争に勝利しましたが、太平洋戦争に敗れ、日本国民だけで三百十万人という多くの犠牲者を出しました。主要都市は空襲で焦土と化します。

 戦後、日本は焼け跡から立ち上がり、飛躍的な経済発展を遂げました。一時は米国に次ぐ世界第二の経済大国に上り詰めます。アリソン氏の研究事例には含まれていませんが、再び「トゥキディデスの罠」に陥り、軍事的な緊張を生んでも不思議はない状況です。

 しかし、戦後七十三年間、再び日本が戦火を交えることはありませんでした。来年四月に終わりを迎える「平成」の時代は「昭和」前半と異なり、戦争とは縁遠い時代でした。文字通り「地平かに天成る」「内平かに外成る」です。

 それにはいくつかの理由が考えられます。まずは、覇権国である米国主導の強固な国際秩序下に身を委ねたこと、安全保障条約を結んだ米国との間では軍事衝突は起きえないこと、熾烈(しれつ)を極めた日米貿易摩擦を話し合いを通じて解決を図ったこと、などです。

 そして何よりも、先の戦争の反省から、日本は戦争放棄と戦力不保持の日本国憲法を守り、軍事的野心を持たず、他国に脅威を与える軍事大国になりませんでした。

 日本の平和国家としての道のりが国際平和に果たした役割は、私たち自身が考えているより大きいのかもしれません。

 その一方、日本周辺では新たな緊張の影が忍び寄っています。台頭著しく、いまや世界第二の経済大国となった中国と、米国との摩擦です。それは「貿易戦争」とも「新冷戦」とも呼ばれます。

 米中間の緊張に対して、日本は米国との同盟関係の強化と防衛力整備で対応しようとしています。安倍政権は「集団的自衛権の行使」を容認する安全保障関連法を成立させ、トランプ大統領の要請に応じて米国から高額な武器を大量購入しています。

 新しい防衛大綱には射程の長い新型ミサイルの導入や、ヘリコプター搭載型護衛艦を事実上「空母化」し、最新鋭戦闘機を搭載する計画が盛り込まれる見通しです。

 これらは専守防衛に反するとして歴代内閣が禁じてきた敵基地攻撃能力や攻撃型空母の保有に当たるのではないか。安倍内閣は専守防衛に変わりないと言いながら軍事大国化への道を歩んでいます。

戦争回避に知恵を絞る

 アリソン氏は前出の著書で、日中間の対立が米中全面戦争に発展するシナリオも紹介しています。日本が発端にならなくても、米中戦争になれば集団的自衛権を行使する日本も戦争参加を強いられます。もちろんそのようなことが起きていいはずはありません。

 アリソン氏の研究もトゥキディデスの罠から逃れ、米中戦争を回避することが目的です。平成がそうであったように、次の時代も戦争回避に知恵を絞り、叡智(えいち)を集める。それが平和国家・日本に今を生きる私たちの役割です。



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