平成24年8月22日(水)
今日で三日目のシンガポール滞在、最終日です。同僚県議と2名、県職員2名と「コンテンツ産業振興施策調査研究事業」で訪問中です。
初日は、シンガポールで行われている日本のポップカルチャーの大型イベント(アニメ・フェスティバル・アジア:AFA)を展開する日本人女性と会い、新しい日本の文化が国境を越えて広がっていくお話を伺いました。
また、シンガポールの新進気鋭のアーティストからは、新しいシンガポールの芸術文化づくりに取り組む夢を聞くことができました。そこには、日本の文化が影響していることを知りました。
二日目は、芸術分野の教育にかける、シンガポールの国家プロジェクトに触れました。13歳からの英才教育が受けられる芸術学校と、卒業後にさらに専門性を深め学ぶことができる芸術大学です。先の芸術学校生徒は、今年初めて静岡県を訪問する予定です。また、芸術大学は静岡市クリエーター支援センター(CCC)との関連があります。
シンガポールデザイン協議会(Design Singapore Council)では、デザインの優位性を、ものづくり国家戦略の要とするための方策について聞くことができました。そのなかで、シンガポール版日本のGマーク(Good Design)制度を目標に掲げ、日本の伝統芸能を学ぶことを希望し、改めて日本の先進性を知ることができました。
最終日は、日本の地域における国際化を推進するため、地方自治体の共同組織である(財)自治体国際化協会(CLAIR)のシンガポール事務所と、在シンガポール日本大使館、日本文化発信拠点であるジャパンクリエイティブセンター(JCC)を訪問し、双方が日本の立場でお話を伺いました。
駐シンガポール日本大使館
http://www.sg.emb-japan.go.jp/index-j.html
ジャパンクリエイティブセンター(JCC)
http://www.sg.emb-japan.go.jp/JCC/
いずれの場面でも、この二日間シンガポール国内各地で得た地元情報を元に質問し、日本としての考え方を聞くことができたのは、大きな成果だったと感じます。
日本大使館では、山本公使により1時間近く講義していただき、特に今回の訪問テーマである「コンテンツ産業振興施策」(クールジャパン戦略推進事業)について、他国での外交経験も交えお話をいただき、貴重な経験をさせていただきました。
(駐シンガポール日本大使館の山本公使から1時間講義)
訪問先で得た情報や意見を少し報告させていただきます。
(財)自治体国際化協会では、シンガポール政府が進める国家戦略について伺いました。日本が同様な制度を導入することは困難であり、日本がシンガポールの制度を上手く活用し、海外展開を行うことが望ましい。シンガポールでは日本人であっても企業を立ち上げることは比較的簡単で、この立ち上げた企業については、シンガポール政府としては国内企業と同様の取り扱いになり、様々な支援を受けることが可能である。
((財)自治体国際化協会の入口で、則松所長補佐と中村次長)
(財)自治体国際化協会
http://www.clair.org.sg/j/index.html
シンガポールは、自国内にない技術やものづくり、頭脳など、「世界の一流を輸入し、そのまわりを発展させる」ことを希望しているとされる。したがって、シンガポールには、人と資源が集まってくる国である。日本のコンテンツ等はまさに、シンガポールが新たな産業の種として欲しい分野でもある。
日本の地方がシンガポールで展開している事業は、観光誘致と物産展(農産品などの物品販売)などである。物販は、今あるものを単に売るだけでなく、現地ニーズをしっかり把握し、特色のあるものを作り売ることが大切である。日本の伝統技術を生かした製品(例えば陶器等)は、外国人から大きな関心を集めることができる。その応用製品も然り。
日本大使館とジャパンクリエイティブセンターでは、シンガポール政府の今までの取り組みは、かつて栄えた第二次産業(ものづくり:工業団地運営)のノウハウを、ベトナム等東南アジア諸国に輸出している。同様に、空港運営や水処理システムなどもその流れに沿い、輸出の対象で成果を上げつつある。クリエイティブ産業はシンガポールにとって一番新しい分野である。
(JCCの活動状況を伝えていただいた、大使館勝又参事官:女性、JCC堀川氏)
(JCC内部の会議室)
(JCCの内部の壁には日本のアニメの影響を受けた作品が掲げられる)
(JCC内部に展示されるアニメ本)
(JCCの受付。アニメが主役)
シンガポールは新しく、文化も成熟していない。かつて、若者達が海外に流出し戻らない問題の解決方法として、政府は自国の文化をつくることを国策として取り組み始めた。しかし、シンガポールには文化をクリエイティブできる人材はほとんどいないので、優秀な人材を海外から連れてくること、そのための仕事がしやすい環境づくりが急務となった。
さらに、シンガポールでは、クリエーターよりも他の職業の方が、所得が高いという思い込みもあって、数が増えない。仮に、先進的に取り組もうとする静岡県は、クリエーターの育成を積極的に展開し、シンガポールに派遣することで市場を開拓することも可能ではないか。
日本では、業界の熟成は成熟しているので、不用と感じる。むしろ、あるものを海外に売るという支援の方が得策と考えられる。
日本のアニメの普及は、現地や衛星のテレビ放送ではなく、一般に普及しているスマートフォンなどを通じて、いつでもどこでも視聴できる、「You Tube」の影響が大きい。日本で放送されると、短時間に現地語などの字幕等が加えられ、インターネット上に流れる。これにより、日本の文化や日本語も普及することになった。
シンガポールはこの現象を捕らえ、経済市場として成立すると判断し、ゲームづくりやフィギュア製作のできる企業の誘致を図った。
しかし、日本文化が全て上手く優位に働いているとは限らない。例えば、J-POP(日本のポップス)はK-POP(韓国のポップス)に相当の後れをとった。その理由は、韓国政府としての海外戦略があり、ものづくりの段階で海外を意識して作成されること、相手国で普及させるために無償で一般国民が閲覧できるようにするなど、知名度を一気に上げてしまった。日本はこの点について大きな反省点を残している。
その他、シンガポールが関心を持つ分野は、クリエイト、コンテンツ、日本食などの他に、環境技術、航空宇宙(惑星探査機はやぶさを象徴とする)など科学技術に大きな関心を寄せている。
例えば100兆円の市場がある場合、技術分は10兆円で残りの90兆円はそれらを運営するシステムなどである。日本は市場の90%のビジネスチャンスを逃がしていると言われている。日本でも既に取り組みが始まったが、「パッケージで売る」戦略を進めていかなければならない。
シンガポールは、「ショーケース」(品ぞろいが一覧できる)であり、周辺国に与える影響は大きい。
日本のファンをつくることこそが外交の基礎である。
コンテンツ産業振興施策で切り込んだシンガポールへの視察でしたが、日本の海外戦略を広く考えさせられる機会となりました。訪問先の関係者の皆様に心より感謝すると共に、県政の中で様々な機会を捉え、今回の経験を活かしていきたいと思います。
(帰国直前、シンガポールの夜景を撮影しました)