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【蝶々 ―psyche―】〈32〉

2017-06-16 14:47:51 | 【バルセロナの紺碧(azul)】
列車に乗っていると、爽やかな陽気と心地よい揺れで彼女がうとうと眠り始めた。無理もない、昨夜はまともに眠れていないのだから。向かいに座っている彼女を見ながら昨日のことを思い出していた。

マリアの口づけを見て気づいたのが、私たち二人にはもう何か月もそういうことがないということだった。いわゆる二人の営みも。それもまた無理はなく、二人とも忙しく、そして別々に寝ているのだから当たり前と言えば当然だった。そんな中で昨夜は彼女が素直にベッドに入ってきた。彼女を抱きしめることこそすれ、一つになれなかったのは明らかに「機」の逸失だった。

すぐに眠りに落ちる自分、しばらく眠れなかった彼女。腕を組んで目を閉じ、「んーーー!」と唸った。
その「んーーー…」は思いのほか深く、そのまま自分も陽気な睡魔に沈んでいった。

目を開けるとそこはトンネルの中、というより地下鉄の路線に入っていた。もう間もなくでザンツ駅に着く。ここからスペイン各線へ繋がる列車が発着する。マドリード!グラナダ!パリ!物語が始まる駅だ。次回は電車に乗る旅をしよう・・そう思った。ザンツから地下鉄5号線に乗り換えアムレイ・サンパウホテルに向かう。バルセロナの地下鉄も身体に馴染み始めていた。ホテルには2時過ぎにチェックイン。例の40代の四角い眼鏡をかけたMGRがフロントに立っていた。預けていた荷物を受け取り部屋に向かう。その部屋も一昨日前に泊まった部屋同様に窓からサンパウ病院のドーム状の屋根が見えた。ほんの一日だけなのに、この部屋が懐かしく「homeーホームー」のように感じられた。

荷物の重さから解放されると、二人で一つのベッドにバタンと寝ころんだ。するとモヒートのミントリーフの香りが漂い、透き通った空気が鼻腔を刺激した。五感が研ぎ澄まされ敏感になった。それは自分だけでなく、彼女もまたそうだった。そして彼女の手を握り、口づけをした。すると二人は青い炎になった。ミントリーフの香りは室温を3℃下げていたが、二人はモヒートのわずかなアルコールで静かな青い炎になった。
満月の夜の潮(うしお)の変わり目の 寄せては返す波のよに 青い炎はゆらゆら揺れた。

一つ、二つ、三つ・・・・・・・
一つ、二つ、三つ・・・・・・・・
一つ、二つ、三つ・・・・・・・・

ぶつかり、溶け、はじけ、結び、青い炎は一つになった。
その青い炎はパチパチと音を鳴らして揺れていた。
その青く一つになった炎に、どこからともなく蜻蛉(かげろう)の群れが一つの団を成し、炎の回りを飛んでいた。
青い炎が強く燃えオレンジの灯になったとき、群れから一羽の蜻蛉が、その灯に入っていった。
オレンジの灯はほんの少し驚いて、また一回りその灯を大きくした。

それを合図に84本の鐘が上下左右、劈(つんざく)くほどに鳴り響いた。
その余りの大きさに、音と音は重なり合い、悠音(ゆうおん)の中で無音になった。
その祝福の鐘の音に包まれて、オレンジ色の灯は丸くなり、球になりなり、くるくるくるくる廻り始めた。
そして最後は黄金色のハチミツの海になった。
それは永遠のハチミツだった。

しばらくすると私たちはその永遠のハチミツから帰還した。二人でそのハチミツを瓶詰にして、いつかホットケーキに使おうと笑って話した。

二人でシャワーを浴び、また旅に戻った。もう3時30分を過ぎ、時間は刻々と時を刻んでいた。でもまだ日は高い。ランブラスへ行こう。ダリに会いに行こう。

私たち二人はいそいそと再びアムレイ・サンパウを飛び出した。そこはまだバルセロナで、カタルーニャの風が吹いていた。それは夢のような現実で、信じられないような真実の中を生きていた。今の中に過去と未来が凝縮されていた。全てがそこにあった。

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