第3 当裁判所の判断
1 証拠(甲1,2,4ないし12,21ないし30,31の1・2,32,33,34の1・2,35の1・2,36の1・2,37ないし43,44の1・2,乙8ないし13,17ないし21,23,被告A)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 被告Aは, 昭和56年12月13日, 京都市f区で出生し, 平成18年4月,C大学大学院法務研究科に法学未修者として入学した。
本件賃貸借契約締結当時,被告Aは,法学部卒業程度の法的知識を有していた。
(2) 本件建物は,専有面積25.75平方メートル,間取り1Kである。
(3) 本件賃貸借契約証書には, 「月次科目」 「月次金額 」として, それぞれ「 家賃」 「53,000円」 ,「共益費」 「5,000円」との記載があり,その下欄に 「合計」 「58,000円」 との記載がある。 なお,「 月次科目」 「月次金額」 の右欄には 「一時科目」「 一時金額」 として「 保証金 300,000円」との記載がある。
合計欄の下欄には 「更新料」 賃料の2ヶ月分」 「更新手続料 15,000円(別途消費税750円) 」との記載がある。更新料欄の下欄には, 「敷金控除(明渡し引)」 「保証金引き(150,000円)を差し引く」との記載がある。
これらの記載の更に下部に賃料等支払方法の記載がある。
これらの賃借人の経済的出捐については,本件賃貸借契約証書の1ページ目にすべて記載されており,一覧性のあるものとなっている。
同3ページ目には,本件賃貸借契約の約定が記載されているが,その3条1項では,「賃貸借期間は契約期間欄記載の通りとします。 期間満了の6カ月前迄に甲(貸主)より更新拒絶の通知がない場合は,契約期間欄記載の期間と同期間継続します。」, 同2項では,法定更新・合意更新を問わず,乙(借主)は頭書規定の期間毎に,甲(貸主)に対し頭書規定の更新料及び管理会社に所定の更新手続料を期間満了の2カ月前迄に支払わなければなりません。」,同3項では,「乙( 借主) の契約期間内の解約であったとしても ,甲 (貸主) は更新料の日割り・月割り計算による返金は一切行いません。」 となっている。
原告,被告A及び被告Bは, 本件賃貸借契約証書に記名・押印をしている。
(4) 本件賃貸借契約の重要事項説明書では,「2.賃貸借期間及び更新に関する事項」の中に,「更新に関する事項」として,「2年更新とし,契約期間満了の2ケ月前迄に借主は更新料を貸主に支払うものとする。」 との記載が,更新料」として「賃料の2ヶ月分」との記載がそれぞれある。
そして, その下部の「3 賃料及び賃料以外に授受される金銭 」の中には,家賃,共益費,水道料金,保証金,保険料,仲介報酬額,仲介報酬額に係る消費税の記載はあるが,更新料の記載はない。
(5) 被告Aは,仲介業者の株式会社Dから,重要事項説明書の説明を受け,「2.賃貸借期間及び更新に関する事項」についても簡単に説明を受けた。
(6) 被告Aは,本件賃貸借契約締結当時,更新料がどのような性質のものかを 考えたことはなく,更新料は,契約期間が満了し,更新するときに支払わなければならない金銭と考えており,更新料が賃貸人の収入になるのか,不動産業者の収入になるのかの認識もなかった。また,株式会社Dからも更新料がどのようなものかの説明はなかった。
(7) 被告Aは,株式会社Dに対し,平成20年3月21日ころ,本件賃貸借契約は,平成19年9月30日の経過によって法定更新されており,更新手続は不要であること,更新に関する費用の請求には応じられないことを通知した。
(8) 生活保護の住宅扶助として更新料扶助があり,また,民事調停にも更新料の条項が定められたり,判決においても賃料3か月分相当の更新料が認められた例もある。
(9) 賃貸物件情報誌の物件案内には,更新料の表示がなされているものもある。大学生を対象とした賃貸のパンフレットにも,更新料を含めた学生生活4年間の総費用を計算した上で,1年間の平均費用を算出し,年間総費用とし,また,更新料のある物件と更新料のない物件とを掲載しているものもある。
さらに,インターネットのホームページでも,賃貸物件について更新料の表示があるものが多く,他方,更新料の表示のないものについても問い合わせ先を検索するなどして更新料の有無やその額を調べることができるようになっているものもある。
もっとも,賃貸住宅情報誌の中にも,更新料の記載がないものもある。
(10) 総住宅数に占める空き家の割合は,昭和38年の2.5パーセントから一貫して上昇を続けており,平成15年には12.2パーセントとなっている。他方で,賃貸物件の数は,年々上昇している。
(11) 平成19年6月の国土交通省住宅局作成の民間賃貸住宅実態調査の結果によれば, 家主が更新料を徴収する主な理由としては,「 一時金収入として見込んでいる」 「長年の慣習」 が多い。 また, 更新料を徴収しているのは,東京及びその近郊が多く,京都でも55.1パーセントとなっている。他方,大阪や兵庫では0パーセントである。
(12) 住宅扶助のうちの契約更新料の生活保護費は,平成18年度で5万2191件,252万5334円であり,平成19年度で5万6137件,273万8566円となっている。
(13) 国土交通省作成の賃貸住宅標準契約書には,更新料条項の記載がない。
(14) 住宅金融支援機構の賃貸住宅建設融資について,入居者との契約では更新料は設定できないこととなっている。
(15) 本件建物の近隣物件の賃料について,平米当たりの平均価格は,1500円である。
2 まず,本件の更新が,自動更新(合意更新)であるか,法定更新であるかが問題となるが,本件賃貸借契約書3条1項の規定にかんがみれば,同項に基づく自動更新(合意更新)であると認めるのが相当である。
3 そこで,次に本件の更新料の法的性質が問題となる。
(1) 賃貸借契約において 賃料は賃貸目的物の使用収益に対する対価として支,払われるものであるところ,使用収益期間に依拠して対価としての賃料が算出され,支払われるものということができる。そうすると,賃貸借契約における賃借人から賃貸人への給付が賃料と評価されるためには,賃借人の使用収益期間に対応する形で支払額が決定され,かつ,更新後に賃貸借契約が途中で終了した場合には,使用収益に至らなかった期間に対応する更新料額は賃借人に返還されるべき性質のものでなければならないというべきである。
本件の更新料条項は,2年更新の本件賃貸借契約について,契約期間満了の2か月前までに賃料の2か月分を支払うというものであり,契約期間内の解約について更新料の日割り・月割り計算による返金を一切行わないものであるから,使用収益期間に対応する形で支払額が決定されているわけでもなく,契約が途中で終了した場合の精算も否定するものである。
加えて,賃借人である被告Aは,本件賃貸借契約締結当時,更新料がどのような性質のものかを考えたことはなく,更新料は,契約期間が満了し,更新するときに支払わなければならない金銭と考えており,誰の収入になるのかの認識もなかったことが認められる。賃貸人である原告についても,本件賃貸借契約証書や重要事項説明書の記載の仕方にかんがみれば,これを賃料とは別の金銭の給付と捉えているものと解するのが相当である。
そうすると,これを賃料の一部ないし補充とみることは困難といわざるを得ない。
(2) 他方,建物の賃貸借において,賃貸人に明渡の正当事由がない限り,賃借人は何らの対価的な出捐をする必要がなく,継続して賃借物件を使用することができるが,本件建物のような居住用建物の賃貸借において,賃貸人がその使用を必要とする事情は通常想定できず,正当事由が認められる可能性はあまりないといえる。
また,本件において,原告・被告がこのような認識を持って更新料に関する合意をしていたとも認めがたい。よって,本件の更新料は,更新拒絶権放棄の対価や賃借権強化の対価としての性質も有するものともいえないというべきである。
なお,中途解約の場合の更新料の精算条項を欠いていることについての原告の前記反論は,本件の更新料に更新拒絶権放棄の対価や賃借権強化の対価としての性質が認められないし,また,これを違約金とするのも,月々の賃料との対比で不合理であるから採用できない。
(3) 以上によれば,本件の更新料の法的性質は,賃借人( 被告A )が賃貸人 (原告)に対して更新時に支払をすることを約束した金銭という外なく,その対価性を認めるのは困難である。
4 以上を前提に,本件における更新料条項が消費者契約法10条に違反するか否かを検討する。
(1) 争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば 被告は消費者契約法2条1項,の「消費者」に,原告は同条2項の「事業者」にそれぞれ該当し,本件賃貸借契約に同法が適用される。
(2) 次に,更新料条項は,賃貸人に対し, 民法601条に定められた賃料支払義務に加えて更新料という賃借人が賃貸人に対して更新時に支払をすることを約束した金銭の支払義務を課すものであるから,民法の規定の適用による場合に比し,消費者(賃借人)の義務を加重しているものとして消費者契約法10条前段に当たる。
(3) そして, 前記のとおり,更新料は賃借人が賃貸人に対して更新時に支払をすることを約束した金銭であり,賃料の一部ないし補充としての性質も,更新拒絶権放棄の対価・賃借権強化の対価としての性質も有するものとはいえず,対価性を認めるのが困難な金銭であること,本件賃貸借契約は,専有面積25.75平方メートル,間取り1Kの本件建物に対して,賃貸借契約期間2年間で月々家賃5万3000円と共益費5000円を支払うものであるところ,更新料については賃料の2か月分を支払うもので,近隣物件に比して賃料が低額であるとはいえない状況の下でかかる更新料額は決して安価なものとは言い難いこと,中途解約の場合の更新料の精算も否定するものであること,更新料条項は原告側が作成したものであり,被告らに対しては,更新料の有無やその金額は所与の条件となっており,この点に関し,原告と被告らとの間で交渉の余地があったと認められる事情もないこと,被告Aが法学部卒業程度の法的知識を有していたことを考慮しても,前記のとおりの賃貸物件に関する情報の現状や賃借人が仲介業者を通じて賃借人と契約を締結していることからすれば,事業者(原告)と消費者(被告A)との間の情報格差については大きくはないものの,全くないとまではいえないことが認められ,以上の事実にかんがみれば,更新料条項について本件賃貸借契約証書に明記がされ,仲介業者から被告Aに対しても重要事項として説明があったこと,更新料条項が無効になることによる賃貸人の不利益や少なくとも京都においては更新料が一定程度社会に定着している状況であったこと等を考慮しても,民法1条2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものとして消費者契約法10条後段にも当たるというべきである。
そうすると,本件の更新料条項は,消費者契約法10条に反し,無効である。
5 以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
京都地方裁判所第3民事部
裁判官 佐 野 義 孝
東京・台東借地借家人組合
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