風のとおり道

山あり谷あり暴走中。

ペンギンさん

2006年08月06日 00時09分12秒 | オハナシ
ぽいっと投げた魚を見事口でキャッチしたペンギンがいた。
なんてすごいんだろう。
僕たちは彼に拍手を送った。

「君はすごいね。あの魚をキャッチするなんて。」
「ありがとう。」
「僕は感動したよ。本当にすごいんだね。」
「…。君が言うほどすごいことでもないさ。」
「そうなのかい?でも、誰もできないことをやっているじゃないか。」
「たしかにここではそうかもしれないね。だけど、外にいる仲間はもっと大変なんだ。」
「外?」
「そうさ。えさを自分で捕まえるのは当たり前。しかも、視界はもっと悪いし、あいつらいつも動いてるんだよ。」
「君は外からきたのかい?」
「そうさ。僕もかつて外にいたんだ。昔の話だけどね。」
「外の世界はどうだったんだい?」
「とっても広くて楽しかったよ。たくさんの仲間がいてさ。みんなで協力し合って生きていた。」
「そっか…。じゃぁ、中での生活はどうだい?」
「あぁ、ここでの生活はとっても快適だよ。えさをとらなくても時間になればもってきてくれるし、まぁ同じような境遇の仲間もそれなりにいるしさ。生きることに必死だったあの頃とはちがうよ。」
「そうなのかぁ。そういえば、君はいつもとても楽しそうだね。」
「まぁね。楽しそうにしていれば、みんなが喜んでくれるからね。」
「それはどういうことだい?」
「僕が曲芸を見せて、楽しそうにしていれば、周りのみんなが喜んでくれるんだ。僕はそれで満足だよ。」
「…中は、楽しいのかい?」
「うん。」
「君自身がだよ?」
「……。正直な話、とても窮屈さ。だけど、考えても見ろよ。明日には死ぬかもしれないっていう生活を送っていた頃のことを振り返ると、檻の中にいたとしても毎日の生活が保障されていたほうがいいと思わないかい?ちょっと芸をすればみんなが僕を褒めてくれる。後は毎日この中で遊んでいればいいのさ。ほかの鳥と違って羽ばたけもしないし、きれいな羽も無い。こんな不細工な僕だけど、ここではそれを認めてくれるんだ。」
「じゃぁ、もう外の世界には戻らなくてもいいってことなんだね。」
「…。戻れるものなら戻りたいさ。自由に泳ぎまわっていたあの頃に。でも、もう戻れないだろ?戻れやしないんだよ。僕に自由は無いんだ。この枠の中で生きていくしかないんだ。きっとそれが幸せなんだよ。」
「僕は君と仲良くなれるのかい?」
「あぁ、なれるさ。もちろん。だけど、あまり深い仲にはなれないだろうね。君はいわゆる外で生活しているわけだからさ。僕は中にいて、外には出られないから。常に監視され、動きを見張られているんだ。自由な行動は許されないんだよ。」
「僕は、また君に会いにきてもいいのかい?」
「もちろんさ!歓迎するよ。この檻の中から君の事を見ているよ。」

彼はゆっくりと微笑んだ。そのやさしい微笑みからは、少し寂しさを感じた。
「君は幸せかい?」
「それは…わからないな。これでよかったのか、考えるときがあるよ。でも、きっと幸せさ。」
「僕たちは友達だよね。」
「そうだね。ずっとね。僕はこの中からいつでも君を応援しているよ。君が幸せになることを願っているからね。」
「ありがとう。また来るよ。」
「うん。さよなら。」

彼が幸せならば、それでいいと思いたい。

だけど、
彼が外で自由に暮らしていけることを、
僕は心のどこかで願っているような気がする。
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オハナシ:小さな木の実

2005年10月08日 19時23分07秒 | オハナシ
リスは冬に備えて木の実を土の中に隠しておくそうです。
でもリスは頭がわるいから、そんなこと忘れてしまうんですって。
そのまま芽が出て木になってしまうから、森はなくならないんだね。

「お父さん、何やってるの?」
「どんぐり...うめてみた。」

ある日、お父さんが家に帰るとテーブルの上に植物図鑑が出しっぱなしになっていました。
「みゆきだな。」
そう思ったお父さんは、お母さんに言いました。
「おい、出しっぱなしにしてるぞ。」
するとお母さんはみゆきちゃんを呼びました。
「けんちゃんの図鑑、汚さないうちにお部屋に持っていきなさい。」
みゆきちゃんは、はーいといって、図鑑を抱えました。
「けんちゃん?」
お父さんはつぶやきました。
「そうなのよ。うちに図鑑がないから、今日クラスのお友達が貸してくれたのよ。」
お母さんはいいました。
「いっしょに宿題やったの。」
みゆきちゃんはそういうと、ハルジオンのかかれたノートをお父さんにみせました。
するとお父さんは言いました。
「なんだ、図鑑ぐらいなら、お父さんが買ってあげたのに。」
「いいのぉ。けんちゃんに見せてもらうから!」
そういうとみゆきちゃんは走ってお部屋に行ってしまいました。
ちょっとさびしそうにしているお父さんを見て、お母さんはふふふと笑いました。

日曜日です。
お日様が高く上ってきたころ、お父さんが起きてきました。
「おはよう。」
お母さんが言うと
「おはよう。」
とお父さんも言い、そして大きなあくびをしました。
お父さんはみゆきちゃんにもあいさつをしようと、みゆきちゃんのお部屋に行きました。
トントントン
ノックをしました。
でも返事がありません。
テレビの部屋かな?
台所かな?
それともお母さんといっしょにお洗濯かな?
お父さんは家中探しました。
でも、みゆきちゃんはどこにもいません。
お父さんはたずねました。
「お母さん、みゆきはどこに行ったんだい?」
するとお母さんは答えました。
「今日はけんちゃんのおうちに遊びに行ってるわよ。」
お父さんはちょっと驚きました。
「夕方にはかえってくるって。」
お父さんはちょっとさびしくなりました。
お母さんはふふふと笑いました。

「ねぇ、お昼は二人でどこか食事に行かない?」
お母さんは言いました。
「みゆきは?」
「けんちゃんのおうちでごちそうになるそうよ。」
「そうか。」
すっかり肩を落としてしまったお父さんが言いました。
「こうして、みゆきも僕の手から離れていくのかなぁ。」
お母さんはまたふふふと笑いました。
「まだまだ先の話でしょぉ。」

それからお父さんとお母さんは一緒にお食事に行きました。
二人きりで外出するのはひさしぶりです。
お父さんはちょっと元気になりました。
「おかあさん!今日は好きなものを食べていいよ。」
「本当?じゃぁ、てんぷらがいいわ。」
お父さんはずかずかと大またで歩いています。
お母さんはその後をついていきます。
「そういえば...」
お父さんがふりかえり言いました。
「昨日、みゆきがウェディングドレスを着る夢を見たよ。」
「まぁ、お父さんったら。」
お母さんはふふふ笑うと、お父さんの腕に手を通し、
二人は腕を組んで歩きました。

お父さん、だいじょぶだよ。
お父さんが木の実を植えたことを忘れてしまったとしても、
みゆきちゃんはきちんと覚えてるんだから。
やがて芽を出し大きな木になってもずっとずっと。
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