降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★記者の鑑!=『平成紀』を読む(30)

2016年10月18日 | 新聞/小説

(10月15日付の続きです。写真は本文と直接関係ありません。
来日された、ベルギーのフィリップ国王夫妻=13日、JR名古屋駅新幹線ホームで)

青山繁晴さん(1952〜)の『平成紀(へいせいき)』(幻冬舎文庫、税別540円)を読んだ。
青山さんが、あの1987(昭和62)年から共同通信政治部記者として「Xデー」を担当した最前線リアルを活写した情報小説。
わずか195ページ、とても面白かった。
というわけで、Xデーをめぐり、あのとき共同通信社の深奥で、さらに官邸で何があったのか、そして僕たち新聞社サイドでは……の第30回。
*青山繁晴(あおやま・しげはる)さん
1952年、神戸市生まれ。
慶應義塾大学文学部中退、早稲田大学政治経済学部卒。
共同通信記者(1979〜1997年)、三菱総研研究員を経て2002年、日本初の独立系シンクタンク「独立総合研究所」社長兼、首席研究員に就任。
2016年、参議院議員に当選。

*幻冬舎文庫『平成紀』主な登場人物
▽楠陽(くすのき・よう)=通信社の政治部記者。
青山さんの等身大キャラ、35歳
▽元寇=佐藤元行(さとう・もとゆき)=楠が勤務する通信社の政治部デスク。
元行から元寇(げんこう)と呼ばれている
▽吉野庄一(よしの・しょういち)=通信社の官邸キャップ
▽赤錆(あかさび)さん=崩御に関して政府が動くマニュアルを司る実務責任者と評される高官
▽天田原優衣(あまだわら・ゆい)=テレビ局政治部官邸詰め記者。ボストン大学卒、24歳。
カナダのテレビ局にキャスターとして勤務後、東京の民放テレビ局に入社。ジャーナリスト志望
▽竹下登(たけした・のぼる)=第74代総理大臣。1924〜2000年(76歳没)。


【幻冬舎文庫『平成紀』144〜145ページから】
京都から東京駅に着くと真っ直ぐに本社へ❶上がり、新元号の三案❷を元寇に渡して、赤錆の夜回りに出た。
官舎近くの車で待機していた午前零時十分ごろポケットベルが鳴った。
見覚えのない電話番号が表示されている。
無視するうち、もう二度鳴った。車載電話からかけてみると思いがけず吉野キャップが出た。
「楠くん、申し訳ないけどここへ来てくれるかな。新橋の飲み屋❸なんだけどね。元寇さんがあなたに話したいことがあると言って聞かないんだ」
その店は、カウンター席のほかにはテーブルが二卓だけの細長い店❸だった。
五十歳半ばの女将が腕組みで煙草を吸い、カウンターに元寇デスクが突っ伏していた。
白い、まばらな髪が頭の左右に降りている。
吉野キャップが耳に口を近づけて「元寇さん」と控えめに呼ぶと、はっと頭を起こして周りをめぐらせ、左横に楠の顔を見つけると「ああ楠ちゃん、あなたに一つだけ言っておくことがあんだ」と息を吐きかけた。
楠は口臭を予想したが、ほとんど何も匂わなかった❹。
水割りを出してくれた女将に目礼しながら「はい」と答えた。


❶真っ直ぐに本社へ
京都御所(京都市上京区)で天皇に想いをはせた後、楠記者はさらにもう1人の学者宅に寄っている。
小説の時間は、1988(昭和63)年8月29日。
京都で2学者取材後、
➡︎京都から新幹線ひかりで東京まで約2時間40分(当時)
➡︎東京駅から虎ノ門(東京・港区)の共同通信本社へ直行
➡︎同本社9階の政治部・元寇デスクのもとに立ち寄った後
➡︎政府高官宅に夜回り取材に出かけ
➡︎呼び出されて新橋飲み屋
——ふぅ〜、すごい行動力。
軽快なフットワークこそ記者の鑑。
*京都土産は「八つ橋」
楠記者、5階の政治部と元寇デスクには京都出張土産の「八つ橋」でも渡したのかもしれない。
駅構内で買えて、安くて、量があってバイトくんたちが配りやすい。何より一発で「京都に行きました!」と分かるし。
編集局で配るときは生よりかたい八つ橋のほうが喜ばれる……あ、関係ない。


❷新元号の三案
京都の亡き学者宅で、楠記者が夫人から許可を得て見せられた日記帳に書かれていたのは、
「文思(ぶんし)」
「天章(てんしょう)」
「光昭(こうしょう)」
の3案。
なかでも、碩学は「文思」を推していた。
小説後述にあるが、新元号選定は頭文字が重要という。
政府はM、T、Sとダブらない配慮をしていた、とある。
*僕が推す元号
めいじ、たいしょう、しょうわ、へいせい。
4字が続いたので、3字がいいな僕は……あ、関係ない。


❸新橋の飲み屋/その店は、カウンター……細長い店
新橋西口より、共同通信が集まるのはだいたい烏森神社のあたりか……あ、関係ない。

❹ほとんど何も匂わなかった
小説内で匂いや香りに関する記述が散見されるので、青山さんはにおいにとても敏感な人なのだろう。
新聞社のルールブック「記者ハンドブック・新聞用字用語集第13版」(株式会社共同通信社発行)では書き分けを記している。
▽におい・におう
=匂(よいにおい)
香ばしい匂い、匂い袋、花の匂い
=臭(不快なにおい)
嫌な臭い、ガスの臭い、生ごみが臭う
【注】ほのめかす意味や、良い香りか不快な臭いが判別できない場合、「臭=くさ=いにおい」など漢字では紛らわしい場合は平仮名書き。

新聞記事表記では、
「何もにおわなかった」
がいいのかもしれないけど、小説・著作物なのでこのまま行ってください(と校閲部は言うよね)。

というわけで、続く。
———————————————————————————
【1988=昭和63年】
▽1月2日=天皇、皇居長和殿で宮中一般参賀
▽2月10日=「ドラゴンクエストⅢ」発売。初日で100万本完売
▽3月17日=東京ドーム落成
▽5月19日=春の園遊会
▽6月2日=天皇、皇居内水田で「お田植え」
▽7月6日=リクルート江副浩正会長、未公開コスモス株譲渡で辞任
▽7月20日=天皇、夏季静養のため那須御用邸
▽8月15日=終戦記念日戦没者追悼式
▽9月8日=天皇、静養先の那須から帰京
▽9月18日=大相撲ご観戦を中止
▽9月19日=天皇が吐血・下血し容体急変
▽9月24日=ソウル五輪でベン・ジョンソンの金メダル剥奪。
鈴木大地さんが100m背泳ぎで金メダル
▽11月17日=東京外為1㌦121円52銭の戦後最高値更新
▽12月5日=天皇の最大血圧が40台まで落ち「極めて危険なご容体」に

【1989=昭和64=平成元年】
▽1月2日=天皇は体内出血があり、計1,400ccの輸血を受けた。
前年9月吐血以来の輸血総量は30,865ccに

▽1月4日=大発会で東証平均が 30,243円66銭の最高値更新。
米海軍機が地中海上空でリビア軍機2機撃墜。
▽1月5日=天皇、最大血圧が60に降下。
輸血を受けるも回復遅く、尿毒症の症状
▽1月7日=午前6時33分、十二指腸部の腺がんのため、昭和天皇87歳で崩御。
皇太子明仁親王が即位。
翌8日施行の新元号を「平成」と発表
▽1月8日=竹下首相を委員長に大喪の礼委員会設置
▽2月24日=大喪の礼。
164カ国の代表・使節参列

▽4月1日=消費税3%スタート
▽4月26日=民主化を求めて天安門広場に集結していた学生市民を、中国戒厳部隊が武力制圧
▽6月3日=歌手・美空ひばりさん死去。52歳
▽11月4日=横浜の坂本堤弁護士一家3人が行方不明に
▽11月9日=「ベルリンの壁」崩壊
▽12月29日=東証平均株価 38,915円の史上最高値
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