降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★答えた・応えた・堪えた=『平成紀』を読む(32)

2016年10月20日 | 新聞/小説

(きのう10月19日付の続きです。写真は本文と直接関係ありません)

青山繁晴さん(1952〜)の『平成紀(へいせいき)』(幻冬舎文庫、税別540円)を読んだ。
青山さんが、あの1987(昭和62)年から共同通信政治部記者として「Xデー」を担当した最前線リアルを活写した情報小説。
わずか195ページ、とても面白かった。
というわけで、Xデーをめぐり、あのとき共同通信社の深奥で、さらに官邸で何があったのか、そして僕たち新聞社サイドでは……の第32回。
*青山繁晴(あおやま・しげはる)さん
1952年、神戸市生まれ。
慶應義塾大学文学部中退、早稲田大学政治経済学部卒。
共同通信記者(1979〜1997年)、三菱総研研究員を経て2002年、日本初の独立系シンクタンク「独立総合研究所」社長兼、首席研究員に就任。
2016年、参議院議員に当選。

*幻冬舎文庫『平成紀』主な登場人物
▽楠陽(くすのき・よう)=通信社の政治部記者。
青山さんの等身大キャラ、35歳
▽元寇=佐藤元行(さとう・もとゆき)=楠が勤務する通信社の政治部デスク。
元行から元寇(げんこう)と呼ばれている
▽吉野庄一(よしの・しょういち)=通信社の官邸キャップ
▽赤錆(あかさび)さん=崩御に関して政府が動くマニュアルを司る実務責任者と評される高官
▽天田原優衣(あまだわら・ゆい)=テレビ局政治部官邸詰め記者。ボストン大学卒、24歳。
カナダのテレビ局にキャスターとして勤務後、東京の民放テレビ局に入社。ジャーナリスト志望
▽竹下登(たけした・のぼる)=第74代総理大臣。1924〜2000年(76歳没)。


【幻冬舎文庫『平成紀』146〜147ページから】
その笑顔で気が楽になり、元寇を見た。再び突っ伏している。深い寝息が聞こえる。
この人はほんとうにあの一言だけを言いたくて待っていたんだと驚いた。平河クラブの噂好きなキャップが「新橋の飲み屋にさ、元寇のコレがいるらしいよ」と言ったことを思い出した。
コレと言うとき、ひとはどうしてあんなに卑しい口元になるのだろうか。この女将は黙って元寇さんと酒を呑んでくれる相手❶だろうと考えた。
吉野が立ち上がり目顔で楠を促した。二人はほとんど無言で歩いた。七、八分で地下への細長い階段を降り、明かりの少ないバーに入った❷。
黒に近い青色にみえる木のカウンターに吉野は太い腕のひじをつき「なんか嫌でしょう」と、やっと声を出した。吉野は後輩の記者にも丁寧な言葉遣いを変えない。
すこし考えて「元寇さんですか。でも前から同じことじゃないですか」と応えた❸。
吉野は冷酒の最初の一口を含んだ。
「いや同じじゃないでしょう」
楠は「喉の奥までセールスマン」と頭をよぎったままを口にした。吉野は、早春の大和路にいるような、いつもの柔らかな微笑❹を浮かべて「ニュースのセールスマン」と言った。
「でも、元寇さんの話には、嘘がないですよね」


❶この女将は黙って……呑んでくれる相手
テレビドラマ「相棒」(テレビ朝日系)でいえば、「花の里」の鈴木杏樹さんか。
たぶん、新橋のこの女将は白い割烹着姿で、白木のカウンターには桔梗が一輪さしてある花瓶があり、壁には小さな黒板に達筆な字で「本日のおすすめ」書きがあり……あ、関係ない。
*「女将」は、おかみ
新聞社のルールブック「記者ハンドブック・新聞用字用語集第13版」(株式会社共同通信社発行)では、平仮名表記にしましょうとしている。
▽おかみ
(女将、内儀=ともに漢字表に無い音訓だが、字音・字訓で読む場合には使ってよい表記)➡︎おかみ


❷七、八分で地下への……明かりの少ないバーに入った
共同通信がよく行くと思われる新橋・烏森神社(港区新橋2)の近くだとすると、道を一本渡った銀座8丁目あたりのバーに移動したのかもしれない……あ、関係ない。

❸応えた
新聞表記だと「答えた」としたいところ。
「記者ハンドブック」では3つの「こたえる」書き分けを記している。
▽こたえる
=応える{働き掛けに報いる、応じる}恩顧・期待・声援・要望に応える、手応え、歯応え、批判に応える……
=答える{返答}受け答え、口答え、問題に答える、呼んでも答えがない
=(堪える)堪は漢字表に無い字➡︎こたえる

❹吉野は、早春の大和路……柔らかな微笑
突然の、ポエムな記述。
「大和路」「柔らかな微笑」とくれば、斑鳩・中宮寺におわす国宝弥勒菩薩半跏思惟像のアルカイックスマイルだろうか(でも、吉野キャップは男性)。
小説内の記述から、楠記者はこの吉野キャップと元寇デスクの2人には好感を持っていることが読み取れる。

というわけで、続く。
———————————————————————————
【1988=昭和63年】
▽1月2日=天皇、皇居長和殿で宮中一般参賀
▽2月10日=「ドラゴンクエストⅢ」発売。初日で100万本完売
▽3月17日=東京ドーム落成
▽5月19日=春の園遊会
▽6月2日=天皇、皇居内水田で「お田植え」
▽7月6日=リクルート江副浩正会長、未公開コスモス株譲渡で辞任
▽7月20日=天皇、夏季静養のため那須御用邸
▽8月15日=終戦記念日戦没者追悼式
▽9月8日=天皇、静養先の那須から帰京
▽9月18日=大相撲ご観戦を中止
▽9月19日=天皇が吐血・下血し容体急変
▽9月24日=ソウル五輪でベン・ジョンソンの金メダル剥奪。
鈴木大地さんが100m背泳ぎで金メダル
▽11月17日=東京外為1㌦121円52銭の戦後最高値更新
▽12月5日=天皇の最大血圧が40台まで落ち「極めて危険なご容体」に

【1989=昭和64=平成元年】
▽1月2日=天皇は体内出血があり、計1,400ccの輸血を受けた。
前年9月吐血以来の輸血総量は30,865ccに

▽1月4日=大発会で東証平均が 30,243円66銭の最高値更新。
米海軍機が地中海上空でリビア軍機2機撃墜。
▽1月5日=天皇、最大血圧が60に降下。
輸血を受けるも回復遅く、尿毒症の症状
▽1月7日=午前6時33分、十二指腸部の腺がんのため、昭和天皇87歳で崩御。
皇太子明仁親王が即位。
翌8日施行の新元号を「平成」と発表
▽1月8日=竹下首相を委員長に大喪の礼委員会設置
▽2月24日=大喪の礼。
164カ国の代表・使節参列

▽4月1日=消費税3%スタート
▽4月26日=民主化を求めて天安門広場に集結していた学生市民を、中国戒厳部隊が武力制圧
▽6月3日=歌手・美空ひばりさん死去。52歳
▽11月4日=横浜の坂本堤弁護士一家3人が行方不明に
▽11月9日=「ベルリンの壁」崩壊
▽12月29日=東証平均株価 38,915円の史上最高値
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