降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★もうすぐ大変なことになる=『平成紀』を読む(31)

2016年10月19日 | 新聞/小説

(10月18日付の続きです。写真は本文と直接関係ありません)

青山繁晴さん(1952〜)の『平成紀(へいせいき)』(幻冬舎文庫、税別540円)を読んだ。
青山さんが、あの1987(昭和62)年から共同通信政治部記者として「Xデー」を担当した最前線リアルを活写した情報小説。
わずか195ページ、とても面白かった。
というわけで、Xデーをめぐり、あのとき共同通信社の深奥で、さらに官邸で何があったのか、そして僕たち新聞社サイドでは……の第31回。
*青山繁晴(あおやま・しげはる)さん
1952年、神戸市生まれ。
慶應義塾大学文学部中退、早稲田大学政治経済学部卒。
共同通信記者(1979〜1997年)、三菱総研研究員を経て2002年、日本初の独立系シンクタンク「独立総合研究所」社長兼、首席研究員に就任。
2016年、参議院議員に当選。

*幻冬舎文庫『平成紀』主な登場人物
▽楠陽(くすのき・よう)=通信社の政治部記者。
青山さんの等身大キャラ、35歳
▽元寇=佐藤元行(さとう・もとゆき)=楠が勤務する通信社の政治部デスク。
元行から元寇(げんこう)と呼ばれている
▽吉野庄一(よしの・しょういち)=通信社の官邸キャップ
▽赤錆(あかさび)さん=崩御に関して政府が動くマニュアルを司る実務責任者と評される高官
▽天田原優衣(あまだわら・ゆい)=テレビ局政治部官邸詰め記者。ボストン大学卒、24歳。
カナダのテレビ局にキャスターとして勤務後、東京の民放テレビ局に入社。ジャーナリスト志望
▽竹下登(たけした・のぼる)=第74代総理大臣。1924〜2000年(76歳没)。


【幻冬舎文庫『平成紀』145〜146ページから】
「俺はね、社内的にやってるんじゃないんだ。社内政策じゃないんだ」
意味が分からない。
「俺が地方支局に出されるのを阻止、阻止するために」と元寇は「阻止」を叫ぶように重ねて言い「阻止するために、策略で天皇をやってる❶と言う奴がいる。政治部が政治をやらないで❷、なんで天皇なんだってさ。違うってんだ。大ニュースなんだ。大大ニュースなんだ。ここで下手をやれば社長だっていられなくなるんだ。なあ、楠ちゃん。今は、少し病状が落ち着いてるけどさ、もうすぐ、大変なことになる❸のが、俺は分かってるんだ」
楠は、吉野の顔を見た。
吉野は色白の顔をうつむかせ、大柄で丸い身体を縮めるように黙して熱燗を呑んで❹いる。
楠が銚子一本を頼むと、女将は下唇を突き出して煙を吹き上げていたのをやめ、「あいあい」と歯切れ良く応えた。
意外なほど白い歯を見せ「悪かったね。水割り派に見えたんだけど」とにっこりする。
その笑顔で気が楽になり、元寇を見た。


❶「俺はね、社内的に……政策じゃないんだ」/策略で天皇をやってる
共同通信社の〝深奥〟をのぞかせる記述。
小説の時間は、1988(昭和63)年8月29日夜。
次第に社会部との確執、政治部内の派閥争いが顕在化し、佐藤(元寇)デスクも動きにくくなってきたのかもしれない。
組織を重視する長からすると、管轄を超えて取材活動をする元寇チームは扱いにくく、はなもちならないのかもしれない(だから地方支局の話が出ているのだろう)。
………あゝ、やだやだ(組織あるある)。

❷政治部が政治をやらないで
「政治=まつりごと」
が言外にあるようだ。
崩御を含む皇室世代交代報道は、社会部だけが扱えるレベルではない重大ニュースなのだ、といっている。
同時に、社会部からは取材データを寄越せ、皇室ニュースは政治部の管轄ではないだろう、政治部は政局をやっとれ——と社内的に激しくなってきたのかもしれない。
……あゝ、やだやだ(組織あるある)。
*「これほどニュースバリューのある人は他にない」
楠記者が政治部別室の元寇班に入った日、楠は元寇デスクに聞いている。
「元寇さん、一つだけ聞いていいですか」
「ああ、もうどうぞ。一つと言わず、いくつでも」
「天皇陛下も、われわれと同じくいつかは来るべき時を迎えられます。その自然なことが、それほどまでに大ニュースなんですか」
やがて来る「Xデイ」と称するものが、日本のすべての報道機関にとって長いあいだ、どれほど大きな隠れた課題になっているかは知っている。それだから余計に、この素人じみた質問だけは聞いておきたい。
元寇は「ああ、分かるよ」と表情を変えずに、答えた。
「しかし、あの天皇だからね。第二次世界大戦、戦後日本の復興いずれを考えても、この国だけじゃなく世界にとって存在感が違う。これほどニュースバリューのある人は他にないだろう」
「奇人」という定評は正しいかどうか分からないなと、楠は考えた。みなが政局に浮かれている時に、孤立しつつ冷静を保つ強靭なひとかも知れない。

(文庫62〜63ページから)
——ここが、楠記者が政治部別室・元寇班に入った動機なのだろう。


❸今は、少し病状が落ち着いてるけどさ、もうすぐ、大変なことになる
そう、元寇デスクの指摘どおり。
9月8日の、那須御用邸からの天皇ご帰京以降「大変なこと」が次々出来(しゅったい)する。
9月、僕たち新聞社のXデー整理部チームも昼出が多くなった。
*整理部の昼出
朝刊担当の整理部員は深夜2時まで社にいる。
その後、タクシー帰宅で家には午前3時ごろ帰る。
だから、数時間後の昼間から出社するのは、かなり苦痛なのだ。
(➡︎とはいえ、慣れるとハイ状態で翌朝刊編集に入れるから、けっこういい紙面ができたりした www)


❹大柄で丸い身体を縮めるようにして熱燗を呑んで
新聞の記事表記ルールに従えば、書き換えるべきところばかりだけど、小説・著作物だからかまいません。
▽身体
(身体=漢字表に無い音訓だが、字音・字訓で読む場合には使ってよい表記)➡︎体、体つき
▽熱燗
(燗=漢字表に無い字)➡︎熱かん、かんをつける
▽呑んで
(呑=漢字表に無い字)➡︎のむ〔主に気体・固形物、抑える、受け入れる、隠し持つ〕あくび・息をのむ、うのみにする、恨みをのむ……

「身体」は使い分けに困る場合があり、新人校閲泣かせかも……。

———というわけで、続く(1988〜89年データはきのう18日付参照してください)。
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