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「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

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★吐血、洗面器一杯に絶句=『平成紀』を読む(35)

2016年10月25日 | 新聞/小説

(10月23日付の続きです。写真は本文と関係ありません)

青山繁晴さん(1952〜)の『平成紀(へいせいき)』(幻冬舎文庫、税別540円)を読んだ。
青山さんが、あの1987(昭和62)年から共同通信政治部記者として「Xデー」を担当した最前線リアルを活写した情報小説。
わずか195ページ、とても面白かった。
というわけで、Xデーをめぐり、あのとき共同通信社の深奥で、さらに官邸で何があったのか、そして僕たち新聞社サイドでは……の第35回。
*青山繁晴(あおやま・しげはる)さん
1952年、神戸市生まれ。
慶應義塾大学文学部中退、早稲田大学政治経済学部卒。
共同通信記者(1979〜1997年)、三菱総研研究員を経て2002年、日本初の独立系シンクタンク「独立総合研究所」社長兼、首席研究員に就任。
2016年、参議院議員に当選。

*幻冬舎文庫『平成紀』主な登場人物
▽楠陽(くすのき・よう)=通信社の政治部記者。青山さんの等身大キャラ、35歳
▽元寇=佐藤元行(さとう・もとゆき)=楠が勤務する通信社の政治部デスク。
元行から元寇(げんこう)と呼ばれている
▽吉野庄一(よしの・しょういち)=通信社の官邸キャップ
▽赤錆(あかさび)さん=崩御に関して政府が動くマニュアルを司る実務責任者と評される高官
▽竹下登(たけした・のぼる)=第74代総理大臣。1924〜2000年(76歳没)。


【幻冬舎文庫『平成紀』149〜150ページから】
しかし宮内庁報道官は、日付が九月二十日に変わって「陛下は落ち着かれている」と語った。
赤錆の官舎に着くと、小さな門の前は社旗をつけた車で埋め尽くされている。応接間に入ると座っている者は誰もない。荒ぶる空気と、刺す怒声のなかで赤錆は耐える表情で「私にも分からないんです」と繰り返すだけである。

(中略)
台所で楠と夫人と二人で突っ立ち、互いの顔を見た。
赤錆が「私も水をね、ちょっと」と言いながら台所に入ってきた。
夫人はさっと水を薄青いグラスに汲んで❶渡した。赤錆は、それをわずかに口に含んで楠を見る。楠は、左耳をその口の間近に近づけた。
「陛下は吐血。大きな洗面器まるまる一杯」
楠は間髪を容れずに❶聞いた。「赤十字は、輸血?」
「そう、いま治療の最中❶」
そして赤錆はさっと、応接間に去った。
勝手口から裸足で外に転がり出た。台所の電話を借りるのでは声を聞かれる心配がある。朝刊締め切り時刻を過ぎようとしている。九階でじりじり待つだけの元寇デスクと、抑えても、怒鳴り合いの声になるのは目に見えていた。ハイヤーに飛び込むと自動車電話で別室にかけた。運転手の背中と首が真っ直ぐに強張っている。


❶汲んで/間髪を容れずに/最中
ゲラに赤鉛筆を滑らせながら読み進んできた、いま話題の校閲(➡︎10月17日付参照してね)記者の手がぴたり止まるところ(止まらない人もいます)。
新聞社のルールブック「記者ハンドブック・新聞用字用語集第13版」(株式会社共同通信社発行)ではそれぞれ
▽くむ
=酌む〔器につぐ、考慮・配慮する〕気持ちを酌む、酒を酌み交わす、事情を酌む、人の心を酌む
=(汲は漢字表に無い字)➡︎くむ〔すくう、摂取〕意見をくみ上げる、誠意がくみ取れる、流れをくむ、水をくむ
——平仮名表記にしましょうね、としている。

▽いれる(容は漢字表に無い音訓)➡︎入れる
——「入」に統一表記しましょうね、としている。

▽もなか(最中は漢字表に無い音訓)➡︎もなか
——サイチュウは最中、モナカはもなかに統一表記しましょうね、としている。

❷「陛下は吐血。大きな洗面器まるまる一杯」
小説の時間は、1988(昭和63)年9月20日午前1時55分ごろ(新聞社の最終版締め切りギリギリ=当時)。
天皇が吐血・下血、ご容態が急変した日。
それにしても「大きな洗面器まるまる一杯」の吐血は尋常ではない。

「高木侍医長が急遽、皇居に向かった」
と第一報を「きょうの出来事」で報じた日本テレビ宮内庁班キャップ・石井修平さんは、
「その時点で、重大な容態の変化があったことは分かっていましたが、そこまでは報じることはできませんでした」
(文藝春秋2009年2月号「ドキュメント昭和天皇の最期」から)
と言っている。
また、高木顯(あきら)侍医長はこの日から翌1989(昭和64)年1月7日早朝の崩御までを自著にまとめ、『昭和天皇最後の百十一日』(全国朝日放送)として、1991(平成3)年10月に出版している。
この日から新聞社Xデー取材班、同整理部チームの、休日返上の臨戦態勢が本格化した。

というわけで、続く。
———————————————————————————
【1988=昭和63年】
▽1月2日=天皇、皇居長和殿で宮中一般参賀
▽2月10日=「ドラゴンクエストⅢ」発売。初日で100万本完売
▽3月17日=東京ドーム落成
▽5月19日=春の園遊会
▽6月2日=天皇、皇居内水田で「お田植え」
▽7月6日=リクルート江副浩正会長、未公開コスモス株譲渡で辞任
▽7月20日=天皇、夏季静養のため那須御用邸
▽8月15日=終戦記念日戦没者追悼式
▽9月8日=天皇、静養先の那須から帰京
▽9月18日=大相撲ご観戦を中止
▽9月19日=天皇が吐血・下血し容体急変
▽9月24日=ソウル五輪でベン・ジョンソンの金メダル剥奪。
鈴木大地さんが100m背泳ぎで金メダル
▽11月17日=東京外為1㌦121円52銭の戦後最高値更新
▽12月5日=天皇の最大血圧が40台まで落ち「極めて危険なご容体」に

【1989=昭和64=平成元年】
▽1月2日=天皇は体内出血があり、計1,400ccの輸血を受けた。
前年9月吐血以来の輸血総量は30,865ccに

▽1月4日=大発会で東証平均が 30,243円66銭の最高値更新。
米海軍機が地中海上空でリビア軍機2機撃墜。
▽1月5日=天皇、最大血圧が60に降下。
輸血を受けるも回復遅く、尿毒症の症状
▽1月7日=午前6時33分、十二指腸部の腺がんのため、昭和天皇87歳で崩御。
皇太子明仁親王が即位。
翌8日施行の新元号を「平成」と発表
▽1月8日=竹下首相を委員長に大喪の礼委員会設置
▽2月24日=大喪の礼。
164カ国の代表・使節参列

▽4月1日=消費税3%スタート
▽4月26日=民主化を求めて天安門広場に集結していた学生市民を、中国戒厳部隊が武力制圧
▽6月3日=歌手・美空ひばりさん死去。52歳
▽11月4日=横浜の坂本堤弁護士一家3人が行方不明に
▽11月9日=「ベルリンの壁」崩壊
▽12月29日=東証平均株価 38,915円の史上最高値
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