客電が落ちる。期待が一気に膨らむ瞬間だ。ギターの安田裕美さんの登場。お名前から女の人かもと思っていたら恰幅のいいサングラスの男の人。そして山崎ハコさんの登場。とても小柄で華奢なことに驚く。
一曲目は『織江の唄』。ああ、いきなり。ハコさんの世界。声は全然変わってないんじゃないだろうか。張り詰めた、つーんと高い、心の奥のほうをざわつかせられる声。見たこともない「遠賀川」や「ボタ山」が浮かぶ。遠い昔に読んだ『青春の門』を思い浮かべる。「明日は小倉の夜の蝶 そやけん 抱いてくれんね 信介しゃん どうせ汚れてしまうけん」という歌詞に、映画で観た信介役だった若い頃の佐藤浩市さんの拗ねた表情や、織江役だった大竹しのぶさんの清純だけど肝のすわった感じを思い浮かべる。(ただし、この二人は共演ではなかった。だけど私の中の信介と織江のイメージは、この二人。実際には田中健+大竹しのぶ・佐藤浩市+杉田かおる)この一曲で、もうどうにもならず心を囚われてしまった私は、普通に座ってはいるけど、自分から大きく揺れる感情が、はみだしてしょうがないのがわかる。心情としては自分が「信介しゃん」で、ハコさん=織江に切々と訴えられている気がしていた。
「今日は私のドキュメンタリーを聞きに来たと思って下さい」MCになると途端に柔らかく可愛らしい表情に変わるハコさんに、私は内心、ずっと(かわいいー)(かわいいー)と叫び続けていた。大分の日田出身であること(それも知らなかった!)、両親は横浜で働いていて、ずっとおばあちゃんと暮らしていたこと。中学校の卒業式後に突然、両親と横浜に行くことになったこと。その時、ハコさんと魂で繋がっていたおばあちゃんは親戚の家に連れて行かれていたこと。ああ、やめて。と思う。突然、話は逸れるけれど、何回観たかわからないテレビアニメ『アルプスの少女ハイジ』の中で、クララのおばあさんが自分の屋敷に帰らなければいけないのだけど、クララとハイジが寂しがるのでパーティを開いたその間にそっと、おばあさんは帰ってしまう。私はこのシーンがいつも辛くて辛くて、クララとハイジが楽しさと寂しさとの落差のせいで、よけいがっかりするだろうことを思うといつも心の中で泣く。そんなことを思い出して、やっぱり泣きたくなった。
そして『白い花』。初めて聴いたのだけど、聴いてる間中、この歌好きだなとずっと思い続けた。ハコさんが作って北原ミレイさんも歌っている曲らしくて、そんなもん、そりゃあ好きなはずで。私は北原ミレイさんの『石狩晩歌』と『ざんげの値打ちもない』が、子供の頃から、とてもとてもとてもトラウマのごとく好きだから。ハコさんの口から「北原ミレイさんの」と出て来た時には、またしても、がーーーん、ってなった。考えてみれば二人は絶対、繋がってる。揺るぎない地下茎のようなもので。『石狩挽歌』の背景は、なかにし礼さんの『兄弟』を読めばよくわかる。ニシン漁が大博打のようなものであることなど。テレビドラマの『兄弟』の兄役 ビートたけし・弟=なかにし礼役 豊川悦司というのも私には、ぴたっときた。豊川悦司さんはちょっと苦手とするタイプなんだけど、キンチョールのCMのヒモ役が大好きだった。役柄的に胡散臭さが漂う人が大好きで、成田三樹夫さんは最強だった。仕組みのわからない髪型といい。と『北原ミレイ』というワードだけで限りなく頭の中は暴走する。
『りんご追分』のカバーについて、ひばりさんの息子さんの加藤和也さんに連絡したら、「よくぞ歌ってくれました」という勢いで喜んでくれた、というのがよくわかるほど、ひばりさんであってハコさんのものだった。歌も凄かったけど、独白の部分。成り切るというより、成っている。ハコさんの爆発的に声量のボリュームが増す、直前の高音が好きだ。赤い寒天を思い浮かべる。内側に張り詰めて崩れる直前という感じの。『りんご追分』はGEISAIで聴いた曽我部恵一さんのアカペラの『りんご追分』も、とてもよく、そのことも、ふっと思い出した。ハコさんはひばりさんのモノマネも驚くほど上手で、MCの時も、みんな大喜び。
十何年か前に所属していた事務所が突然閉鎖されて、行き場を失くしたハコさんを心配した女優の渡辺えりさんや俳優の原田芳雄さんがとてもよくしてくれたということ。MCでは、おっとりと穏やかなハコさんは歌になると突然きりっとした表情に変わる。ハコさんにとって原田さんや横浜との思い出と繋がっているのであろう『ヨコハマ・ホンキートンク・ブルース』。私は松田優作さん版で聴いていたので、ここでも物凄く驚いて、私、今日、引き寄せられて来たのかなと、ぼんやり考える。ハコさんはパワフルで、歌ってて、こうも楽しいという表情。憧れる。
ギターの安田裕美さんについて。アコースティック時代の陽水さんとツアーしていたという、基本的にスタジオミュージシャンであるということだった。突然『東へ西へ』や『傘がない』のさわりがハコさんと始まる。ああ、と、また持っていかれる。大滝詠一さんの曲や、数々のCMにも参加されているとのこと。日本生命のCMで流れていた『ニュー・シネマ・パラダイスのテーマ』のギター演奏にみんなで聴き入る。沁み込む。
『ざんげの値打ちもない』これで完膚なきまでに、やられる。ハコさんが、これはミレイさんのものだから私は歌えないって言ったら、ミレイさんがハコさんのこの歌をぜひ聴きたいと言われたそう。最高だった。ハコさんの思い詰めたような声と集中力、どっかで浅くひっくり返るような声、すべてがぴったり。今日、私はこれを聴きにきたんだな、と思った。
「大分から行ったのが横浜でよかった。いろんな人がいたから。生徒会長からハーフで金髪だった。休み時間に校内放送で流れる音楽の英語の意味を、いつも黒人のハーフの男の子に教えてもらってた。東京や横浜でライブすると同級生がいっぱい来てくれる。大きな子供を連れて」とてもわかる気がした。ハコさんの人間的な魅力と、ブルースと演歌とフォークとロックが独特の割合で配合された濃密な世界。絶対、コアなファンがいる。ハコさんが出演している映画『ヘヴンズストーリー』も観てみたい。シーナ&ロケッツの誠さんとシーナさんが電話で「えらいよかった」と褒めてくれたそう。泉谷しげるさんもハコさんに「お前いいじゃん」って。
アンコールラスト『気分を変えて』。パワフルでフレッシュで、デビュー当時の川本真琴さん?(『愛の才能』が大好き)と本気で思ったくらい。少女っぽくて大人で、たおやかで深みのあるハコさんに圧倒的に魅了されっぱなしの時間だった。ライブ終了後にCD『縁(えにし)』のディスクにサインしていただく。握手もしていただいた。小さな手。その日に限ってハイヒールの、がっちり脱げないサンダルを履いていって、でかい女の自分が恥ずかしくなった。「素晴らしかったです」と、ぎゅっと手を握る。しばらく力を込めて離せなかった。
カバーアルバム『十八番』の中の『時の過ぎゆくままに』がとても好きという動機で、緊張しつつ向かった初ライブだったが、想像を遥かに超えた素晴らしさで、まさに『縁』を感じた。また絶対行きたい。最後にハコさんのMCで一番印象に残った言葉。
「自分の中に、昔の山崎ハコの歌があって、そいつが素晴らしいわけですよ。でも、今の自分が、影のように離れず、薄くならずにやって行きたいわけです」
一曲目は『織江の唄』。ああ、いきなり。ハコさんの世界。声は全然変わってないんじゃないだろうか。張り詰めた、つーんと高い、心の奥のほうをざわつかせられる声。見たこともない「遠賀川」や「ボタ山」が浮かぶ。遠い昔に読んだ『青春の門』を思い浮かべる。「明日は小倉の夜の蝶 そやけん 抱いてくれんね 信介しゃん どうせ汚れてしまうけん」という歌詞に、映画で観た信介役だった若い頃の佐藤浩市さんの拗ねた表情や、織江役だった大竹しのぶさんの清純だけど肝のすわった感じを思い浮かべる。(ただし、この二人は共演ではなかった。だけど私の中の信介と織江のイメージは、この二人。実際には田中健+大竹しのぶ・佐藤浩市+杉田かおる)この一曲で、もうどうにもならず心を囚われてしまった私は、普通に座ってはいるけど、自分から大きく揺れる感情が、はみだしてしょうがないのがわかる。心情としては自分が「信介しゃん」で、ハコさん=織江に切々と訴えられている気がしていた。
「今日は私のドキュメンタリーを聞きに来たと思って下さい」MCになると途端に柔らかく可愛らしい表情に変わるハコさんに、私は内心、ずっと(かわいいー)(かわいいー)と叫び続けていた。大分の日田出身であること(それも知らなかった!)、両親は横浜で働いていて、ずっとおばあちゃんと暮らしていたこと。中学校の卒業式後に突然、両親と横浜に行くことになったこと。その時、ハコさんと魂で繋がっていたおばあちゃんは親戚の家に連れて行かれていたこと。ああ、やめて。と思う。突然、話は逸れるけれど、何回観たかわからないテレビアニメ『アルプスの少女ハイジ』の中で、クララのおばあさんが自分の屋敷に帰らなければいけないのだけど、クララとハイジが寂しがるのでパーティを開いたその間にそっと、おばあさんは帰ってしまう。私はこのシーンがいつも辛くて辛くて、クララとハイジが楽しさと寂しさとの落差のせいで、よけいがっかりするだろうことを思うといつも心の中で泣く。そんなことを思い出して、やっぱり泣きたくなった。
そして『白い花』。初めて聴いたのだけど、聴いてる間中、この歌好きだなとずっと思い続けた。ハコさんが作って北原ミレイさんも歌っている曲らしくて、そんなもん、そりゃあ好きなはずで。私は北原ミレイさんの『石狩晩歌』と『ざんげの値打ちもない』が、子供の頃から、とてもとてもとてもトラウマのごとく好きだから。ハコさんの口から「北原ミレイさんの」と出て来た時には、またしても、がーーーん、ってなった。考えてみれば二人は絶対、繋がってる。揺るぎない地下茎のようなもので。『石狩挽歌』の背景は、なかにし礼さんの『兄弟』を読めばよくわかる。ニシン漁が大博打のようなものであることなど。テレビドラマの『兄弟』の兄役 ビートたけし・弟=なかにし礼役 豊川悦司というのも私には、ぴたっときた。豊川悦司さんはちょっと苦手とするタイプなんだけど、キンチョールのCMのヒモ役が大好きだった。役柄的に胡散臭さが漂う人が大好きで、成田三樹夫さんは最強だった。仕組みのわからない髪型といい。と『北原ミレイ』というワードだけで限りなく頭の中は暴走する。
『りんご追分』のカバーについて、ひばりさんの息子さんの加藤和也さんに連絡したら、「よくぞ歌ってくれました」という勢いで喜んでくれた、というのがよくわかるほど、ひばりさんであってハコさんのものだった。歌も凄かったけど、独白の部分。成り切るというより、成っている。ハコさんの爆発的に声量のボリュームが増す、直前の高音が好きだ。赤い寒天を思い浮かべる。内側に張り詰めて崩れる直前という感じの。『りんご追分』はGEISAIで聴いた曽我部恵一さんのアカペラの『りんご追分』も、とてもよく、そのことも、ふっと思い出した。ハコさんはひばりさんのモノマネも驚くほど上手で、MCの時も、みんな大喜び。
十何年か前に所属していた事務所が突然閉鎖されて、行き場を失くしたハコさんを心配した女優の渡辺えりさんや俳優の原田芳雄さんがとてもよくしてくれたということ。MCでは、おっとりと穏やかなハコさんは歌になると突然きりっとした表情に変わる。ハコさんにとって原田さんや横浜との思い出と繋がっているのであろう『ヨコハマ・ホンキートンク・ブルース』。私は松田優作さん版で聴いていたので、ここでも物凄く驚いて、私、今日、引き寄せられて来たのかなと、ぼんやり考える。ハコさんはパワフルで、歌ってて、こうも楽しいという表情。憧れる。
ギターの安田裕美さんについて。アコースティック時代の陽水さんとツアーしていたという、基本的にスタジオミュージシャンであるということだった。突然『東へ西へ』や『傘がない』のさわりがハコさんと始まる。ああ、と、また持っていかれる。大滝詠一さんの曲や、数々のCMにも参加されているとのこと。日本生命のCMで流れていた『ニュー・シネマ・パラダイスのテーマ』のギター演奏にみんなで聴き入る。沁み込む。
『ざんげの値打ちもない』これで完膚なきまでに、やられる。ハコさんが、これはミレイさんのものだから私は歌えないって言ったら、ミレイさんがハコさんのこの歌をぜひ聴きたいと言われたそう。最高だった。ハコさんの思い詰めたような声と集中力、どっかで浅くひっくり返るような声、すべてがぴったり。今日、私はこれを聴きにきたんだな、と思った。
「大分から行ったのが横浜でよかった。いろんな人がいたから。生徒会長からハーフで金髪だった。休み時間に校内放送で流れる音楽の英語の意味を、いつも黒人のハーフの男の子に教えてもらってた。東京や横浜でライブすると同級生がいっぱい来てくれる。大きな子供を連れて」とてもわかる気がした。ハコさんの人間的な魅力と、ブルースと演歌とフォークとロックが独特の割合で配合された濃密な世界。絶対、コアなファンがいる。ハコさんが出演している映画『ヘヴンズストーリー』も観てみたい。シーナ&ロケッツの誠さんとシーナさんが電話で「えらいよかった」と褒めてくれたそう。泉谷しげるさんもハコさんに「お前いいじゃん」って。
アンコールラスト『気分を変えて』。パワフルでフレッシュで、デビュー当時の川本真琴さん?(『愛の才能』が大好き)と本気で思ったくらい。少女っぽくて大人で、たおやかで深みのあるハコさんに圧倒的に魅了されっぱなしの時間だった。ライブ終了後にCD『縁(えにし)』のディスクにサインしていただく。握手もしていただいた。小さな手。その日に限ってハイヒールの、がっちり脱げないサンダルを履いていって、でかい女の自分が恥ずかしくなった。「素晴らしかったです」と、ぎゅっと手を握る。しばらく力を込めて離せなかった。
カバーアルバム『十八番』の中の『時の過ぎゆくままに』がとても好きという動機で、緊張しつつ向かった初ライブだったが、想像を遥かに超えた素晴らしさで、まさに『縁』を感じた。また絶対行きたい。最後にハコさんのMCで一番印象に残った言葉。
「自分の中に、昔の山崎ハコの歌があって、そいつが素晴らしいわけですよ。でも、今の自分が、影のように離れず、薄くならずにやって行きたいわけです」









