菅原貴与志の書庫

A Lawyer's Library

講義録: 株式会社の基本構造(2) ~株主有限責任の原則

2011-12-01 00:00:00 | 会社法学への誘い

 ここで注目すべきなのは、株主は、会社に対して、出資した価額の限度でしか責任を負わないという点です。たとえ会社が左前になったとしても、出資した分だけをあきらめれば、会社の債権者からその余の責任を追及されることはありません。いくら会社債権者が取立てに来ても、株主が自己所有の不動産や家財道具を担保に入れたり、売り払ったりしなくてもよいのです。

 このことを、株主有限責任の原則といいます。会社法104条の「株主の責任は、その有する株式の引受価額を限度とする」という条文が、会社法上きわめて重要な意味をもっていることを覚えておきましょう。権利と義務は普通相対なのですが、株主はこの点が特殊でして、権利はあるけれども義務を負いません。確かに出資することは義務ですが、出資してはじめて株主の地位を得るわけですから(会社法209条)、そもそも出資前は株主ではないのです。このように株主とは、義務を負担しない、権利だけを有するという、そうした希有な存在です。

 このように出資に伴う危険(risk)の少ない株式会社は、利益(return)を求める一般大衆にとって、出資・投資のしやすい対象となります。投資家は、自分の財布と相談して夢を買うわけです。「この会社は、たくさんのリターンがあるのではないか」と夢を描きますが、「もし会社が倒産しても、出資した金だけを諦めればいい」とリスクは別に計算できます。

     

 一方、起業家にとっても、広く一般大衆を対象に多くの資金を調達することができますから、株式会社制度を利用するメリットは大きいでしょう。事業を起こそうとする側は「皆さんの責任は限定されています。しかも、当社はこれから儲かりますので、リターンがいっぱいありますよ」などと甘い言葉をマーケットにささやくことによって、広く薄く多くの元手を獲得できます。したがって、株主有限責任の原則は、会社の資金調達の便宜にとって、きわめて重要な意味をもつ原則ということになるのです。


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