天と地と

連載自叙伝『追憶』シリーズ
「ふきのとうノ咲くころ」

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『追 憶』 ④ ~ 蕗の薹の咲くころ ~

2016年09月18日 | 自叙伝『追憶』シリーズ
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- 八王子へ到着 -

 夜が明けて、澄み切った朝の立川駅から八王子線に乗り換えた時は、新たな八王子の生活に胸が弾んでいるのであった。
 八王子駅に着いた。駅から続く沿道には、バラックが立ち並び、道路には爆弾の破片が突き刺さっていたりしたが、
 橋を渡った叔母の家の付近には、戦災の欠片すらなかった。

  

- ご挨拶 -

 次の日は、近所に挨拶回りです。

 「この子がうちの子で、スヱ子といいます。いろいろお世話になります。よろしくお願いいたします。」

 叔母は、挨拶を次々と手際良く廻って心付けを配った。

 我が家の右隣は、大家さんの久保田さん。
 植込みがある大きな家で、優しいお姉さんや、お兄さん達と、
 一番小さい子が光市(こういち)くん、通称“こうちゃん”といって、まつ毛の長い男の子がいた。
 向いの古宮さんは、農機具屋さんで、お姉さんが二人いて、下の姉さんが君子さん。
 その隣の伊藤さんには、まだよちよちの丸々と太った“則明(のりあき)ちゃん”。
 我が家の左隣の小金井さん。ここにも子供が沢山いて、一番小さい男の子が“あづみちゃん”。 
 このちびっこ達が、これからの私の友達になるのであった。

 一廻りして、こっくり頭を下げて、

 「お年はいくつ?」

 「八才。」

 それ以上は、小さいながら、方言が気になって、言葉を発することが出来なかった。
 叔母も心得て、自然にまかせてくれた。

 外出はちょっと控えて、縁先で日なたぼっこをしていると、光ちゃんが遊びに来てくれた。
 
 「スヱ子ちゃん遊ぼうよう。」
 
 「うん、いいよ。おいで。」

 光ちゃんは、一つ年下で、人なつっこくって、気を遣うことなく、気安く遊べるような気がした。

 叔母が蒸し立てのおさつを、お皿にのせて持って来てくれた。

 「おいし。スヱ子ちゃんは、田舎から来たんかい。」

 「うん、そうだよ。」

 「田舎って遠いんだろ?」

 「光ちゃんのこと一度、スヱ子の田舎に連れて行ってあげようね。」 叔母が言うと、

 「山田のおばちゃん、ほんとだね。」

 「光ちゃんちのおばちゃんが、いいと言ったらのことよ。」

 光ちゃんは、甘ったれで、よくだだをこねて泣いている日が多かった。
 

 おじさんは下山田政夫、おばさんは下山田スワ、この両親の側で暮らすことになったのであった。
 おじさんは、市内の運送会社の運転手をしていた。いつも作業服をきちんと着て、ほっそりして、眼鏡をかけ、どことなく窮屈な人に感じた。
 おばさんは、明るくて気さくで、身の回りはいつもきちんとして、近所では“山田のおばちゃん”と呼ばれて親しまれていた。

 「スヱ子も、おばさんちの子になったから、お母さんと呼んでみて」

 おばさんも、一度でいいから「おかあさん」と呼んでもらいたかったんだろうという気持ちは、大分大きくなってから気付いた私でした。

 私も、呼んでみようと何度も心では思ってみたが、持前のはにかみな性格と、そこに何かが、どうしてもそれを阻止するものがあったような気もする。
 とうとう、「おばさん」で通してしまった。
 やっぱり母は、故郷の母しかいないような気がしたのではなかっただろうか。



 ~ ⑤へつづく





 
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