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【映評】舞妓はレディ [舞妓の何たるかを新人女優の頑張りから知る]

2014-12-03 20:03:20 | 映評 2013~
84点(100点満点)
2014年9月20日、有楽町 TOHOシネマズ有楽座にて鑑賞

「巨匠」って言葉の似合う監督は少ないけど、周防正行はやっぱり「巨匠」だ。
「やっぱり面白い」っていつも思うから。
2014年は巨匠の安定した面白さを楽しんだ年だった気もする。ウディ・アレンにイーストウッドに故アンゲロプロスも。決して彼らのベストではないけど「やっぱりこの人の映画は面白かった」と単純にそう思えた。

どうでもいいが周防正行とイーストウッドがガラでもないミュージカルを撮りながらやっぱり面白かった年にアナ雪が流行っているってのは、こういうのシンクロニシティと言うのだろうか?

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ハウトゥ映画界の絶対エース周防正行監督。前作はそういえば「ハウトゥ映画」とも言えない、真面目な真面目な社会派医療映画『終の信託』でありましたが、個人的にはメチャメチャ面白くて、周防監督のベスト作品だと信じています。
でもそんな社会派期真面目期を過ぎてようやく久々に社会性ゼロの「ハウトゥ映画」にもどり、しかも90年代よりも軽いノリになって戻ってきた。

しかもミュージカル。でも有名ミュージカルスターや歌手をキャスティングするわけでなく、劇団周防組みたいな面々に頑張って唄わせる、そんな劇団ノリな悪ノリが映画の楽しさを加速させている。
草刈民代さんにも唄わせ躍らせ、どんだけ妻のこと好きなんだ?と微笑ましくなってくる。

けれどもそうしたいつものメンツや、いつものメンツでもないけど名の知れたキャスト陣の中にあって、ど新人の女の子が主演で一生懸命がんばる姿が他のキャストを圧倒する。

ラスト近くで岸辺一徳が言う。若い娘が一生懸命頑張る姿が素晴らしくて、それこそが舞妓がみんなに愛される理由だと。

舞妓とは何かを表す台詞であり同時にこの映画の作り方そのものでもある。

一生懸命がんばっている姿を映画に刻み付けること。だから名の知れた女優やテレビでよく見るアイドルのように出来ることがわかっている人を使わずに新人女優を使って生に近いがんばる姿を見せたかったのだ。
でもそれだけじゃダメだ。ただの芝居だけじゃがんばる娘を応援する気になれない。
そこで方言だらけの台詞と歌だ。ただでさえ舞妓の所作やら京言葉やら易しくはない役にさらに歌って踊ってもつけるのだ。
昔から思っているのだがアイドル映画の傑作はアイドルをとことんいじめる映画だと思う。甘やかしちゃいい映画にならない。
この映画はキチンと若い娘をいじめ倒していて素晴らしい。

中盤、あまりにつらい芸修行でヒロインがイップスから声が出なくなってしまうシーンがある。
どうしても声を出せなかったヒロインが踊りの先生にさんざん罵倒され悲しさやら悔しさやらが高まって声を出すあのシーン。とても素晴らしいシーンなだけでなく、巨匠の作品に抜擢された新人女優の苦しみの果ての達成のように見えて(勝手に僕がそう思ってるだけで実際もうだったかは知らない)、そんな妄想も含めてジーンと来たのだった。

舞妓を応援する気持ちを、新人女優を応援する気持ちに転換して観客にちゃんとわからせるという意味で、やはりハウトゥ映画の巨匠はやることが凄い。
上白石萌音ちゃん。今年の各映画雑誌や映画賞で新人賞総ナメにするでしょう。

でも個人的にはもうすぐ30歳でまだ舞妓やってるとネットで叩かれてるという設定の田畑智子の役の笑える悲壮感もまた好きだ。


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時々ウディ・アレンの映画見ていて、英語がわかればもっと面白いんだろうな…と思うことがあるけれど、「舞妓はレディ」は逆に日本語のネイティブスピーカー以外にこの楽しさわかるのだろうか? と思う所多々あり。
そういう意味で世界に評価される映画ではないかもしれないけれど、日本語の楽しさに溢れた映画でもあると思う。
そんな「舞妓はレディ」、別に「マイフェア・レディ」のこと知らなくても楽しめるから日本語の好きなみんなに是非見て欲しい作品。


『舞妓はレディ』
監督・脚本:周防正行
撮影:寺田緑郎
音楽:周防義和
出演:上白石萌音、長谷川博己、富司純子、田畑智子、草刈民代

---以下、鑑賞直後のTwitterフラッシュ映評---

@shinpen: 「舞妓はレディ」若い娘が一生懸命頑張る姿が素晴らしくて、それこそが舞妓がみんなに愛される理由だと岸部一徳の最後の説明台詞に首が折れるほど納得。アイドルを応援することが日本の伝統文化に根ざしていることが解った。それでもなんでも堂々主演の上白石萌音ちゃんの頑張りに感動する42歳の自分

@shinpen: 「舞妓はレディ」周防組俳優たちの劇団ノリ的悪ノリもなんか楽しい。
「それでもボクは」「終の信託」とマジメ路線の続いた周防監督の解き放たれたような社会性ゼロのエンタメミュージカルに素直に酔いしれた9月の休日。
♪ま~いこ~はレディ~♪

@shinpen: ちなみに私の周防監督ベストは「終の信託」
なんもかもがすごかった。あの映画で絶対やってはいけないような座って喋るだけの40分で大興奮させるクライマックス。この監督、映画に愛されてる!!って思った。
周防監督の脚本集は結構繰り返し読んでる愛読書

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最新作「チクタクレス」

 小坂本町一丁目映画祭Vol.12 入選
 日本芸術センター映像グランプリ ノミネート

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