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TOKYO! [監督:ミシェル・ゴンドリー、レオス・カラックス、ポン・ジュノ]

2008-11-04 00:21:06 | 映評 2006~2008
個人的評価: ■■■■■□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]

すげー面白かった。
短篇オムニバスって、面白い話もあればつまらない話もあってトータルでの評価は低くなるものだが、「TOKYO!」は三話全てが面白い。
ゴンドリーとポン・ジュノは面白いに決まっているという高めに設定されたハードルを難なくクリアし、一方でつまらないに決まっているとタカをくくっていたカラックス篇も(ゴンドリー篇、ポン・ジュノ篇に比べると渋いが)怪獣マニア心をくすぐる作りで楽しかったのだ。
でもやっぱりポン・ジュノ篇が最高かな

「ミシェル・ゴンドリー篇 インテリア・デザイン」


主人公は彼氏とアパート探しをする彼女(藤谷文子)。彼女の父親は合気道の達人で、元CIAの刑事で、元SEALのコックで、今日もテロリストやマフィアを嬲り殺しにして沈黙させていた。そんな父を持つ女の子の彼氏はアマチュアの映画監督(加瀬亮くん)。彼は痴漢に間違われたり上司命令に逆らって犬を殺さなかったため生還率0.01%くらいの島に送られたりとついていない人生をおくってきたが、今はプロの監督になろうとあれやこれやと芸術映画を考えている。彼女は彼のプロデビューのため一緒に奮闘中。彼女はハリウッドスターの父に彼氏のプロデビューを頼むも、父は加瀬くんのつくる意味不明なアートに興味を示さず「・・・で、俺はテロリストを何人ぶち殺せばいいんだ?」と訊いてくる。仕方なく文子ちゃんは加瀬君と東京で上映活動をするべく田舎を飛び出してきたところから物語は始まる・・・

空気読めない・人の話聞かない芸術家肌の男と、彼とともに過ごす以外に目標も生きる張り合いもないカノジョ。
処世術を全く持っていない監督と、監督の陰で上映会開催と家捜しのために奔走するカノジョ。彼女は尋常でないくらい努力しているのにその努力は誰にも気付かれず評価もされない。スポットがあたるのは監督ばかり。彼女には「監督のカノジョ」という肩書きしか無い。
彼女の鬱屈していく様がよくわかり、心にぽっかり開いた穴というビジュアルも分かりやすすぎるが面白い。
存在感の無い協力者としてやりがいのある、別の芸術家に乗り換えたことをラストは表しているのか、そういうメタファではなく観たまんまの出来事を描いたファンタジーなのか

藤谷文子と加瀬亮の2人の演技は完璧。全三話通じて唯一のイケメン妻夫木聡が性格悪いイヤミな感じの男を好演。いい女は好きだがイケメンは嫌いっていう、持てない男のひがみがこのオムニバスの隠されたテーマなのかもと深読み。

「カラックス篇 メルド」


三話の中では一番薄っぺらで、二話目に置くのはいい判断だ。
とはいえ、怪獣映画へのオマージュともとれる内容が怪獣好きには面白い。
オープニングで東京の俯瞰映像のバックにかかるのは伊福部昭作曲のゴジラ登場のショートモチーフ。平成版ゴジラシリーズでのゴジラテーマ、あるいは伊福部昭・SF交響ファンタジー第一番の冒頭部をそのまま利用。そして下水道の怪人が登場すると、メカゴジラの逆襲以降にゴジラテーマとして一般に認知されたあの有名な曲がかかり、下水道の怪人は道行く人々を襲う。
その他にも全編にゴジラ第一作で使われた大戸島のテーマやら、ゴジラに襲われた船が沈む時のショッキングなブリッジ曲が使われる。
そもそもゴジラが、外国の核実験で蘇った怪物が日本を蹂躙する話であった。
裁判における下水道の怪人メルドの言い分は、ゴジラが言葉を喋れたらいいそうなことばかりともとれる。
「神はいつも私が一番行きたくないところに送り込む」
「特に理由はないが日本人は嫌いだ」

そんなわけで、メルドの言葉を唯一理解するフランス人の弁護士(判事だっけ)が登場し、日・仏・メルド語の三言語を、
日本人⇔日仏通訳の女性⇔弁護士⇔メルドで話をするシーンは、
日本人⇔小美人⇔モスラ⇔ゴジラ・ラドンで話し合いを行った「三大怪獣地球最大の決戦」を勝手に思い出してしまった
のだった。
怪獣ファンの深読みを誘う作りになっていて、個人的には面白かった。

「ポン・ジュノ篇 シェイキング・トーキョー」


サスペンス描写の巧さでは大げさでなくヒッチコック以来の逸材かもと思う韓国のポン・ジュノ。
本作も彼の演出テクニックが遺憾なく発揮され、短篇ではあるが見応え充分。
主人公は引きこもり男性。
キャスティングがいい。
もし主役が小池徹平とかならぶちのめしたくなるところだが、ソン・ガンホのような醜男大好きなポン・ジュノはイケメンに目もくれず、主役に選んだのは香川照之。
人を見かけで判断してはいけないのは百も承知だが、それでもつい「ミスター引きこもり」と言いたくなってしまう容貌の彼である。最高のキャスティングと言わずして何と言おう。
引きこもりというほとんどの観客にとって異質で異常な存在であるはずの彼だが、同一ショット内で異なる時間帯を描く手法で短時間にテンポ良く引きこもりの日常を観客に理解させることに成功。
始まって10分も立たずに香川照之の引きこもり生活がすっかり日常生活として刷り込まれてしまう。
異様に整頓された室内が不気味と思うのもつかの間、引きこもり特有のゆったりした時間の中のクローズアップ目線で、時計の短針の動きや、ピザの箱がゆっくりと自然に閉じていく様を見せる。クローズアップは、我々が普段全く意識しない小さくゆっくりな動きの世界に誘う。たしかにピザの箱は動いていると思った時、我々は引きこもりと同次元の生活者の視点を持ってしまうのだ。
そして事件はおこる。
ふとしたことで破られる日常。ただピザの配達員と目を合わせるだけという本来なら事件になり得るはずもない些細な出来事が大事件となってしまう。
しかも彼の、つまり我ら観客の目に飛び込んでくるのは蒼井優ちゃん。即LOVE感情発生が決定的な今の日本で一番いい女優。
そして突然の地震により、玄関で意識を失うように倒れるいい女。
あの女に会いに行くべく、家から出る決心をする引きこもり男。しかし中々外に出れない。怖くて泣き出す。
玄関から外に一歩踏み出すだけのことをこんなに面白いサスペンスにできる監督が他にいるだろうか?
全編、クローズアップ中心のショットである。引きの画の少なさは引きこもり男の緊張感を描くだけでなく、我々一般人と異なる視点・視線を強調することで引きこもり人間と一般観客とを同化させるような効果もある。
外に飛び出してからも彼はマクロな目線よりもミクロな目線で女を探す。地図や建物の外観を観て探すのではなく、一軒一軒の窓をシラミつぶしに観て探すよう。それで目的の女を見つけても、引きこもり目線に慣れた私ら観客はそこにさほどの違和感を覚えず、むしろついに見つけたかと感動すらする。
そして地震。この時、坂道でのロケーションが功を奏し、奥行きのある街に溢れる引きこもりたちの姿が一望できる。視線の移り変わりはもちろん主人公の変化を現す。
そして蒼井優を連れ出そうとするときの香川照之の思わず笑ってしまいそうないい男っぷりの笑顔。
原哲夫の漫画で一命をかけることを決心したいくさ人たちのいい男の笑顔を思い出す。
キャスト、演出、映像、ストーリーすべて大満足のエピソードであった。


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【妄想的要望】
この調子でどんどん外国のいい監督たちを読んでTOKYO!の第二弾、第三弾を作ってくれんかな
個人的には、メルギブ、ジョン・ウー、ヴァーホーベンの三人よんで、「TOKYO! バイオレンス篇」とか作って欲しい。
キム・ギドク、アルモドバル、ヴァーホーベンで「TOKYO! 変態篇」でもいいし
ピーター・ジャクソン、ギジェルモ・デル・トロ、ヴァーホーベンの三人で「TOKYO! ゲロキモ悪趣味篇」でもいい
アン・リー、ベルトルッチ、ヴァーホーベンの三人で「TOKYO! エロ篇」もOK

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