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転校生 さよならあなた [監督:大林宣彦]

2007-07-10 00:51:17 | 映評 2006~2008
【個人的評価 ■□□□□□】(6段階評価 ■□□□□□:最悪、■■■■■■:最高)

「君のためなら死ねる」と不穏な発言をする少年。
「外見より中身が好きなんて信用できない」と言って自分の本当の心を見抜いた少年を捨てて、共有する思い出はほとんどないが体が入れ替わるアクシデントでたまたま彼女の内面を知っただけの男に走る少女。
「君のために生きる」といいつつ、結果を見れば彼女の身代わりに死ぬことを拒否し、死の運命を少女に戻した男。「君のために生きる」は「俺のために死ね」に見事に転化する。
死んだ女の家族は14年間ともに過ごした思い出ではなく、男と入れ替わっていた数日間のことを思い出して涙ぐむ。
「君のためなら死ねる」男は早くも別の女に夢中。「君のために生きる(俺のために死ね)」男は元カノと会う約束して楽しそう。
恋人も家族も死んだ女のことはきれいさっぱり忘れる。
女は女で、あー死んでよかった、とばかりに爽やかな笑顔で墓の影から現れ、「さよならあなたー」と能天気に歌う。
「あの子が難病で死んで悲しい」・・・という「純愛」映画はくだらないと思うが、この映画は「あー、あの子が死んで良かった」「私も死ねて幸せ」ともとれる恐るべき映画であった。

何の前フリもなく唐突に物語に割り込む死の病。レイピストと和解する少年少女。全てのはじまりの場所に戻ることをもっと早く考えろと言いたくなる鈍感さにイライラ。メールだけでSFファンタジーな話を100%信じる少女。対話のように見えて、言葉のキャッチボールが成立していない自己完結型説明セリフばかりの会話。
そのどうしようもなさをあざ笑って楽しめばいいのかもしれないが、ラストの「心のこもった」未来へのメッセージを見ると笑うことすら封じられる。悲しい出来事を忘却で締めくくるラストは未来思考なのかもしれないが、その割りに時代錯誤かまたはノスタルジー至上主義な懐古趣味演出の数々からは、「昔は良かったなあ」という作り手のぼやきが聞こえるようで、チグハグしている。

話も展開も、これでもかというほど「最低」であった。

******
ただし、映像表現はさすがオタクな監督だけあって、色々趣向を凝らしていて興味を引かれた。
物語の気色悪さをカモフラしたいのか、強調したいのか、いずれにせよ違和感のある映像が全編を埋め尽くす。
いつでも斜めな構図は、映画なれしていない人には酩酊感を与えるかもしれない。(ウォン・カーウァイやトニー・スコットに鍛えられたおいらには屁でもないが)
対話する人間を撮るカメラは、撮影のセオリーを無視して、向かい合う二人を結ぶ線をまたいで顔アップを撮る。そのため画面に対する顔の向きが同じになり、結果二人が向き合っていないような違和感を与える。もちろんこれは観客の錯覚でしかない。俳優たちは実際にセットの中で向き合って喋っているのだから。ただカメラ位置のせいで向き合っていないように思わせられるだけなのだから。
その一方で、錯覚ではなく意図的に向き合っていない二人を向き合っているかの様に撮ったところもある。
序盤の学校のシーンでヒロインと彼氏が廊下を歩きながら喋るシーン。向き合って喋りながら歩く二人の顔を交互に撮れば、一方の顔ショットでは背景は画面を右から左に流れ、もう一方の相手のショットでは背景が左から右に流れる筈だ。
なのにこのシーンではどちらのアップショットでも背景は左から右に流れている。
つまり一方は壁を見ながら喋り、もう一方は相手の後頭部を見ながら喋っていることになる。
ここなどは、一緒の路を歩んでいるように思えても実は心は別々の方向を向いているカップルであることを表現しようとしたのかもしれない・・・などと深読みする楽しみも与えてくれる。

そんな作り手たちの自己満足演出を堪能できる、気持ち悪い映画であった。

******
総じてどうしようもない脚本だが、傑作になるチャンスはあったと思う。
温泉宿でのセックス未遂シーン。入れ替わった少年と少女がセックスし、もだえる自分の姿を見つめるなんてシーンになれば、壮絶なインパクトを与えただろう(キャサリン・ビグローの「ストレンジ・デイズ」にそんなシーンがあったっけ)。
またそれで男の心を宿した女が身籠もり、死ぬのは男の体の方に変更して、男の心は女の体に宿ったまま「生まれてくる子供はどっちに似るだろう・・・」と物思いにふけったりしても面白い。
もっとぶっとべば、妊娠したまま例の井戸で溺れ母体と胎児で心と体の入れ替わりが起こったりすれば・・・どんな壮絶な物語になっただろう。
そんな「もしも」にちょこっと想いを馳せてみる。

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2 コメント

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確かに (aq99)
2007-07-15 19:28:03
昔の大林は、脚本のめちゃくちゃを棒読みセリフと超アイドル様の出演映画ということで相殺してたと思うんですが、今回、超アイドルでもないし、棒読みってほどでもないから、粗が目立ったんかな~。
思春期に大林の洗礼を受けたんで、私は気にならなかったですが、出演者がガキの「水の旅人」「漂流教室」、出演者が好きでない「おかしなふたり」「野ゆき~」は、退屈で死にそうでした。

ひょっとして長野県が舞台でお怒りもある?
コメントどうもです (しん)
2007-07-16 16:33:17
>aq99さま
いや、何を隠そう、大林監督は昔からあんま好きじゃなくて・・・
唯一割りと好きなのが「四月の魚」で、転校生オリジナルもさびしんぼうもデンデケデケデケも受け付けない体だったのです。
「漂流教室」は究極つまらなかったけど、ダメすぎて作家的嫌悪感は逆に薄れました。

長野が舞台なのは、あー善光寺だーわーい、と単純に楽しめたりもしたし、演技も演出も好きな様にやってりゃいいさと思えなくもないのですが、今回は単純に物語に腹が立って・・・

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