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ワルキューレ [監督:ブライアン・シンガー]

2009-03-23 01:32:47 | 映評 2009 外国映画
個人的評価: ■■■■□□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]

男はアフリカ戦線で片目と意識を失っていた。
彼の脳裏にはこれまでの波瀾万丈の人生が走馬灯のように駆け巡っていた・・・

戦闘機乗りのエースになろうとガムシャラだったあの頃、「氷の男」とあだ名されるライバルから「教えてやろうか?誰がトップか」と言われたこと。
自閉症の兄貴を利用してカジノで大儲けしたこと。
東南アジアの戦場で半身不随になったこと。
レーサーとなって戦闘機訓練の時と似たようなドラマを追体験したこと。
その時知り合った女と結婚し、彼女から「私たちは家に帰ってすぐにしなくては行けない事があるわ。ファックよ」と言われたこと。
半死半生で泥沼に捨てられながらカエルの生き血を吸って復活したこと。
群像劇なのに一人で目立ちまくったセックスカリスマだったこと。
CIA本部に潜入し電子計算機室で宙づりしていたこと。
それに続く任務で鳩とともにスローモーションで登場したこと。
東洋の島国でマブダチの侍が「パーフェクトだ・・・」と呟きながら亡くなったこと。


・・・色々なことがあったが退屈しない人生だったよ・・・そう思っていた彼だったが、奇跡的に一命を取り留めた。
せっかく拾った命だ。世界の未来のために使おう。と、彼は5分に一度自然に出てくるニヤケ顔で考えていた。
そんな彼にドイツ軍の将校が接触してきた。君が総統を憎んでいることはとっくに知っていると言わんばかりに、単刀直入にヒトラー総統を暗殺してくれないかと持ちかけてきた。
僕はインポッシブルなミッションを三回も成功させたり、侵略宇宙人から逃げ切ったり、バーにいた一番美人の客にカラオケ大熱唱で口説く前代未聞なナンパを実行したりしたほどの男だぜ、まかせてくれよ・・・っとまた、ニヤッとしながら承諾したのだった。
作戦時間は10分。つまり作戦中二回はこみ上げてくるニヤケを押さえ込まなくてはならない。策はあるのか?さらに失った片目の代わりにもらった義眼を見ていると、予知能力犯罪対策室に務めていた警察時代の悪夢が蘇る。今、世界は彼の手に委ねられている!!

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で、面白かったのかよ?・・・と言われると「いや、それほどでも・・・」と言わなくてはならないところがちょいキツいのだが、二次大戦もの好きな自分としてはトムのドイツ軍服姿を観れただけで満足してしまう映画だった。

前述したが、トムが暗殺計画のメンバーになるところがあっさりしすぎていて残念だ。あれならトムがすでに暗殺計画メンバーの一員であるところから物語をスタートさせ、アフリカで負傷したエピソードは途中でフラッシュバックさせた方が良かった。仲間に加える件を撮るには撮ったが思ったより面白くなかったのでカットしたのかもしれないが・・・
また、主人公の行動をひたすら追う展開としたことで、物語は薄っぺらくなった。史実に反してもいいから、暗殺を阻止せんとするゲシュタポを出すとかすると、暗殺実行までの件はもっとスリリングになったと思う。

それでもこの映画で頑張っているのは、国家のシステムが、堅固さともろさの紙一重のものであることを示した点だ。
どんなに正義の行動であれ、憲法に則った正式の手続きを経ずに掌握した政権はうまくいかない。人々を納得させる大義名分が必要だ。そこで暗殺チームは憎むべきヒトラーの「サイン」という日本風に言えば「錦の御旗」を手に入れるため手を尽くす。そして手に入れてさえしまえば、後はヒトラーを殺せば、あるいは死んだと信じ込ませれば何とかなる・・・と計画を進める。実際、ドイツの政治中枢を掌握する作戦はうまくいきかける。一人の命で何もかも変わる独裁体制の弱点をつくのだが、暗殺は失敗し今度は対抗勢力が「ヒトラーの生存」という大義名分を得て叛乱を鎮圧する。
トーマス・クレッチマン扮する予備役兵の指揮官がヒトラーの肉声を聞く場面が印象深い。
たった一人の生命が国家の全てを左右していたことの恐ろしさ。
トップが死んでも変わりはいくらでもいる民主主義が何だかんだで最も堅いシステムなのだ。
「ワルキューレ」とは、ヒトラー暗殺計画そのものではなく、その後の政治権力掌握を目的とした作戦の名前である。タイトルからも暗殺より、国家権力の簒奪過程こそ、本作の作り手たちが一番描きたかったことだと判る。
だから暗殺サスペンスが薄っぺらいのも仕方ないといえば仕方ない。なんにしても、もっと厚み・深みを持たせることはできたと思うのだけど・・・

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トーマス・クレッチマンは「戦場のピアニスト」でエイドリアン・ブロディにピアノを弾かせたあいつである。ナチスドイツの軍人役ならまかせてちょうだいと言わんばかりのドイツの俳優だ。今回も脇役ながら非常に重要なポジションで出演。善でも悪でもない、決まり通りに動く冷血な雰囲気が役柄にぴったりだった。調べてみるともともと「ワルキューレ」の主役に内定していたのだが、撮影直前にトムが主役となったらしい。映画の外でも権力争いは熾烈なのである。

トムの妻を演じていらっしゃったのは、ヴァーホーベン先生の「ブラックブック」で、度胸と機転とセックスでナチと戦っておられたカリス・ファン・ハウテン様である。トムが暗殺に失敗してもカリス様が立派に後を引き継いでヒトラーを誘惑しつつ殺してくれるんじゃないかと期待もするのだが、残念ながらドイツ語圏で公開する際の看板代わりで顔見せ出演したにすぎない。
もっと大きな役でハリウッド映画に出るカリス様を見たい。

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ところで、私は高校生のころドイツの将軍"砂漠の狐"ロンメルが大好きだった。
タミヤのプラモで1/35スケールの「将軍セット」というのがあった。アイゼンハワーとマッカーサーとパットンとモントゴメリーそしてロンメルの5人のセットで、私はそれを購入し塗装し(白目と黒目も丁寧に塗り分けた)ドイツ戦車の脇に立たせたものだ。(他の米英の将軍の塗装は手抜きした。)
ロンメルはナチ党員ではなかったし、ユダヤ人も含めて人種差別をしなかったという美談も(ねつ造かもしれんが)ある。
ドイツの英雄で敵からも畏怖されたロンメルは、この映画で描かれたヒトラー暗殺計画に加担していたと濡れ衣を着せられ自殺させられる。ロンメルを慕う者たちの中には本当に暗殺に加わっていたと主張する者もいた。
この映画を観て、ドイツ軍とイギリス軍の戦いを、戦争嫌いの親に内緒でこっそり(といってもシンナーの臭いでバレバレだったのだろうが)、子供部屋の中に展開させていたあのころを思い出したのだった。
国の為に戦い国に裏切られた男ロンメル。ハリウッドで史実にとらわれずに美談ばかり強調した感じで大作映画化してほしい人物だ。主役はトム・クルーズで。

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[追記1]
ぐるぐる回るワルキューレの騎行のレコードを真上から、レコードと逆回転しながら寄っていくカメラがすげーかっこ良かった。ああいうショットを撮りたい。

[追記2]
ブライアン・シンガー作品の常連スタッフのジョン・オットマンとは何者だ。
本作では、エグゼクティブ・プロデューサー、編集、音楽の三役を兼ねている。前線で指揮をとる将軍みたいな奴だ。
ジョン・ウィリアムズみたいに音楽にあわせて編集やり直させる権力は持っていないから、その代わりに自分で勝手に音楽に合わせて編集できる地位に就いたのかもしれない。

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どうもです (sakurai)
2009-03-27 12:08:06
>ヒトラーを殺せば、あるいは死んだと信じ込ませれば何とかなる・・・
と、なりそうでしたが、やはりヒトラーの存在の大きさと言うか、悪運の強さは、まだ天が味方していた・・・と見えましたね。
配役の上手さはさすがブライアン・シンガー!!
やっぱ「X-men」を締めてもらいたかった。
コメントありがとうございました (しん)
2009-03-28 10:49:46
>sakuraiさま
そういえばX-menのマグニートーはホロコーストの生き残りでしたな
トレスコウ将軍もマグニートーを雇っておけばあんな失敗はせずにすんだのに・・・
ホッと安心 (メビウス)
2009-03-29 00:17:39
しんさんこんばんわ♪TB有難うございました。

ヒトラーの独裁政権のことやユダヤ人の迫害といった出来事は、学生の頃歴史の教科書などで知り得てましたが、シュタウフェンベルク大佐のような歴史の影で英雄視されている人物などは全く知らなかったので、その点を本作で知っただけでも観た価値は十分あったかと思います♪

でも暗殺計画を企てた人達の末路は、ヒトラーの非人道的な行為から考えればとても絶望的なものですし、シュタウフェンベルク大佐の結末も予想は出来ましたけど、彼の家族は無事だったというのをラストに聞けて自分はホッとしてしまいました。
こんばんは。 (かえる)
2009-03-30 21:47:08
>ぐるぐる回るワルキューレの騎行のレコードを真上から、レコードと逆回転しながら寄っていくカメラ

あれはよかったですよねぇ。
音使いも印象的でした。

で、私もジョン・オットマンの仕事内容が気になりました。

>勝手に音楽に合わせて編集できる地位

という感じなんでしょうかね。
そのポジションのおかげでか、音楽のタイミングがとてもよかった気がしました。
コメントどうもです (しん)
2009-04-02 23:13:46
>メビウスさま
歴史的にあまりスポットの当たらない人を発掘するのも映画の使命ですね

>かえるさま
ジョン・オットマンそのうち監督とかもやるんじゃないでしょうか?
TBありがとうございます (きぐるまん)
2009-04-15 08:38:53
>史実に反してもいいから、暗殺を阻止せんとするゲシュタポを出すとかすると、暗殺実行までの件はもっとスリリングになったと思う。

史実に忠実である必要はないですよね。
映画ですから。
レコードのシーンが「史実」なのかというとたぶん違うわけで(笑)。
おっしゃる通り、映画は史実であるより映画的であるべきだと思います。
コメントどうもです (しん)
2009-05-01 22:23:35
>きぐるまんさま
事実の重みも使い用では強い武器になるんですが、使い方とバランスなんですかねえ
こんにちは。 (wanco)
2009-05-05 13:04:23
しんさん、こんにちは。

ワルキューレのレコードの所はかっちょ良かったですね!
他にも、ヒトラー登場の飛行機のシーンなんかも唸ってしまいました。
ブライアンシンガーは、Xメンもスーパーマンもあまり感心しなかったけど、今度のはユージョアルの時の良い時代の彼に戻ったような気がしました。
コメントどうもです (しん)
2009-05-06 23:33:22
>wancoさま
私にとっての一番いい時代はゴールデンボーイの時だったりします。
飛行機のシーンはなんか帝国軍皇帝がデススターに到着するシーンを思い出して一人ノスタルジーでした

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