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マンチェスター・バイ・ザ・シー [心のキズを乗り越えるって簡単じゃないって映画]

2017-06-02 12:16:50 | 映評 2013~

マンチェスターと聞くと、つい先日痛ましいテロ事件のあったイギリスの都市を思い出す。
でもこの映画の舞台となる街は、アメリカ東海岸の北部、ニューヨークより北のボストンからさらに車で1時間の距離のマンチェスター・バイ・ザ・シー
「海辺のマンチェスター」くらいの意味かと思ってたら、どうやら「マンチェスター・バイ・ザ・シー」というのが街の名前になっているようだ(グーグルマップ調べ)


駅名も「マンチェスター・バイ・ザ・シー」だ

え?それってヨーロッパのあれじゃなくて、アメリカの街なの?という、タイトルで引っ掛ける地名、って点でヴィム・ヴェンダースの「パリ・テキサス」を思い出す。そういえば映画の雰囲気もちょっと似てる。

どうでもいいが似たような地名引っ掛けを使えそうな日本の街といえば北海道に多く、昔は広島町だった北広島市とか、新十津川とか、などといくつか例を出そうと思ったけどあんま出てこないや
まあ、北海道ってプチアメリカ感があるというか、特にアメリカ北部を舞台にした映画を観ていると、どことなく既視感なのは、光の感じや、土地の広さや、街のさびれ具合が北海道出身の自分の原風景と通じるからだと思う

さておき、タイトルに街の名前そのままを持って来た本作は、思い返せば街の映画だった。
つらい出来事から生まれ育った街を離れた男が、街に戻ってくる話
街に残った人たちは、色々あるけれどなんとかつらい過去を克服できそうだが、一度街を離れてしまった男にとっては、街の優しさが何より心を締め付ける

バイ・ザ・シーというくらいだからやっぱり港町。オープニングシーンは、兄のボートで兄ジョーとその息子パトリック、そしてジョーの弟で主人公のリー。パトリックはまだ小学生くらい。なにもかも楽しかったころの昔の場面
主要人物3人の紹介、海辺の町であることの提示、よい場面だ

そして現在のリーの生活が淡々と描かれる
彼は集合住宅の便利屋として働いている
同年代の女に好かれがち、でも女の誘いには決して乗らない
酒に酔って言いがかりをつけて喧嘩する
どうしようもない奴だが女にはモテる、そんなキャラクター説明をテンポよく見せたところで、物語の本題に入る
兄が死んだ、と

以降、現在と過去が入り乱れるように物語が進み、次第に彼の抱える心の闇、傷の深さが明かされていく
これを観客には、主人公への感情移入より、徹底的に傍観者とさせるところが、作者の冷たさであり、また小説的ではなく映画的な語り口だと思う
心情をいくらでも書ける小説なら、最初から主人公の過去がわかってしまう。
そこで別に物語の主観者役の主人公を立てて彼の目を通して本当の主人公の秘密を明かしていくのが基本的なストーリーテリングではないか
ところがこの映画は明らかに一人称スタイルの単独主人公なのに彼の過去も心情も一切わからずにストーリーは進む
そうした秘密はただ脚本の構成によってのみ明かされる。こういう所が「映画的」だなと思う。
語り部は観客だ。
映画の観客が、「彼に出会ったのはボストンの集合住宅でトイレが壊れた時だった」と心の中でナレーションしながら映画の物語に身を委ねるのだ

そうした構成のうまさが評価されてアカデミー賞で脚本賞とったのだろう。
悲しみと苦しみを皆が背負いつつ、でも硬く重くなりすぎないように、ユーモアが色々なところに散りばめられていて、もちろん出演者たちの好演もあって、飽きることもダレることもなく物語に包まれる

主人公のキャラクター面白い
食事シーンはロクになく(冷えたピザくらい)、女に言い寄られても何もしようとしない。食欲と性欲はほぼ無い。無欲を通り越して破滅的。そんな彼が街と、街の人たちと触れ合い、少しだけ生きることに意味を見出そうとする。でも、つらい過去は永久について回る。

昔、ガスバンサント監督で、マット・デイモンとケイシーの2人が砂漠を延々ウロウロ歩くだけの超つまんない映画見たのを思い出す
そのマットがプロデューサーで、ケイシーがアカデミー賞受賞か。良かったな!

今年の映画のメインディッシュではないけど、サイドディッシュとしてはかなり満足感ある、そんな感じ

「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
監督・脚本 ケネス・ロナガン
出演 ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ(カーリング女子の本橋麻里似)、ルーカス・ヘッジス(ケイシーと対照的に性欲の塊っぽいキャラ最高)

2017.6.1 恵比寿ガーデンシネマにて鑑賞
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