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ジョン・ウィリアムズの音楽を語る--第三回「未知との遭遇」

2014-11-13 20:26:51 | 映画音楽
今週末に練馬で行われるジョン・ウィリアムズファンクラブ主催のコンサートに行ってきます。
そのせいでジョン・ウィリアムズ熱が上がってきております。
2~3年前に書いたジョン・ウィリアムズの音楽を語るシリーズを再開してみようかと思いました。
というわけで第三回は「未知との遭遇」で…

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「未知との遭遇」


殺人トラックとの遭遇、巨大鮫との遭遇につづいてはヌーベルバーグとの遭遇…じゃなくて未知との遭遇を手掛けたスピルバーグ。
彼の代名詞ともいえるSF(スピルバーグやルーカスの場合サイエンス・フィクションという意味よりむしろスペース・ファンタジーという意味が似合う)映画を初監督するにあたり、スピルバーグは音楽をやっぱりジョン・ウィリアムズに依頼しました。
というのも、今回は音楽が極めて重要な役割を担う物語なのです。
メロディになりすぎず、さりとてただの音でもない長さとして、スピルバーグとジョン・ウィリアムズが出した結論は、5音の曲にしようというものだでした。
「ジョーズ」の時は2音でテーマを作ったわけで、5音とはまたずいぶんと複雑になったものです(笑)
そしてスピルバーグが言うにはある数学者に計算してもらったところ13万4千通りの5音階の組み合わせから、たった一つのベストの組み合わせをウィリアムズは見つけたのだそうです。
それが例の レ、ミ、ド、ド、ソ(D4、E4、C4、C3、G3) の5音です。
ジョーズのドゥードゥンを聞いて誰もがサメを連想するようになってしまったのに続いて、レ、ミ、ド、ド、ソ を聞けばだれもが宇宙人を連想するようになりました。

そんな5音階で有名な未知との遭遇の音楽を今日は無駄に熱く語ってみます

まずオープニング
黒い画面にシンプルな白抜き文字で、スタッフ、キャストの名前が紹介されます。あれあれキャストの名前にフランソワ・トリュフォーなんてありますよ。ぽっと出の青二才監督にすぎなかったスピルバーグが大トリュフォーに演出つける姿を想像しちゃいますが、まあ置いといて。
音楽はまるで何かが次第に近づいてくるような、ピィィィって音が次第に厚みを増しボリュームを増しそして監督スティーブン・スピルバーグのクレジットの後、ジャン!!!っとフルオーケストラが一音奏でると同時に砂漠の砂嵐の映像に切り替わります。
このオープニングかっこいいですね。
実は私が監督した短編「Soulmate」って映画のオープニング曲、私が作ったのですが、ちょっとこの「未知との遭遇」オープニングをパクってます。
「未知との遭遇」の音楽、主題の5音階もそうですが、感情の無い曲が多いです。こんなにクールに映画音楽職人に徹したウィリアムズは後にも先にもこれだけだと思います。だからかっこいいんですよね。

そんな劇伴職人に徹しつつもなんかイキまくって音楽作っちゃった感のあるシーンが、中盤の坊やが宇宙人にさらわれたのか、迎えに来たから遊びに行ったのかよくわからないけどやたら怖いシーンです。
母親目線、坊や目線、宇宙人目線、客観目線と危険なくらい目線が安定しないけどそれゆえ抜群の不安と恐怖に包まれる、スピルバーグの映画作家としての勘が冴えわたる場面ですが、ウィリアムズの音楽も若い映画作家の感性とぴったり一致して、ぐちゃぐちゃなのにブレの無い恐怖音楽にまとめます。
うねるようなストリングスと、この時期ではめずらしいコーラス、そしてたしか電子音も重ねていたはず。母親役のメリンダ・ディロンの演技も素晴らしく、恐怖で発狂寸前な気持ちを見事に描き上げます。

もう一つ音楽的に好きなところは、劇中で二度ほどかかる軍隊の行動シーンの曲です。低音域のブラスを主体とした勇壮な曲で、これがかかるとなんだか気持ちが燃えてきます。ウィリアムズはその長いキャリアの中で軍隊のテーマは何度も書いてきたのですが、実は一番燃える曲がこの未知との遭遇の軍隊テーマではないかと思います。あ、帝国のマーチは別格としてですよ。

さていよいよデビルズタワーで宇宙人様との接近遭遇の時間がやってきました。言葉が通じないので音楽で会話しようというアイデア。コミュニケーションがほぼ一貫したテーマであり続けるスピルバーグらしいシーンです。
現れた数機の宇宙人の飛行体との会話。例の5音階をキーボードで奏でる人間。
それに反応して機材の一部を破壊するくらいの衝撃で音を返す宇宙人。
宇宙人もまた同じ5音階を返します。人間ももう一度5音階を奏で、宇宙人も応えて、やがてそれは即興セッションのようになります。
この電子音による音楽の乱れうち。5音階を基調に、色々な音が継ぎ足されていく音の洪水。そういえばジャズピアニスト出身だったウィリアムズの面目躍如な場面となりました。

満足したのか去っていく宇宙人の飛行体。
はるばる地球までジャズセッションしにきたのか…とぽかーんとする観客たちの前に空から超巨大シャンデリアみたいなマザーシップが降りてきます。
後のシーンはご存じのとおりとして、ここからの音楽はこれでもかと例の5音階を軸にオーケストラが、光につつまれたスピルバーグと僕らSFっ子の宇宙への憧れを奏でます。
そしてついでにディズニー好きのスピルバーグらしくピノキオの主題歌「星に願いを」をさりげなく混ぜてきます。
フランソワ・トリュフォーが下手な英語で「あなたがうらやましい」と宇宙人に選ばれたリチャード・ドレイファスに話すところで、初鑑賞当時トリュフォーのトの字も知らなかった私は普通にいいシーンとして大感動したんですが、今見ると映画史的な感慨とともに感動しますね。
そしてリチャード・ドレイファスを乗せたマザーシップが発進するラストシーン、引きの画でマザーシップの全景が映ると、例の5音階をトランペットが奏でる壮大なファンファーレが響きます。ビカビカ輝くマザーシップの発進でテンション上げ上げになったわれらをさらに遠い宇宙の果てに連れて行ってしまうようなウィリアムズの渾身の終曲とともに映画は終わります。

音楽が重要な役割を果たし、劇伴として完璧すぎる効果を上げ、一度聴いたら誰もが忘れないテーマも持ったこの映画はSF映画どころか音楽映画といってよいかもしれません。
当然のごとくウィリアムズは「未知との遭遇」でアカデミー賞候補になるのですが、受賞は逃してしまいます。こんなすごい音楽がなぜ候補止まりだったのかといえば、同じ年に「未知との遭遇」のものすごいライバルとなる音楽映画が公開され、そちらに票が集まってしまったからです。
そのライバル映画とは…「スター・ウォーズ」です。作曲はもちろんジョン・ウィリアムズ。

同じ年に「未知との遭遇」と「スターウォーズ」が公開されたハリウッドの奇跡よりも、同じ年に「未知との遭遇」と「スターウォーズ」の2作品に伝説的な音楽をつけたウィリアムズの神レベルの仕事の方が映画史的事件として重要かもしれません。

というわけで次回は今度こそ「スター・ウォーズ」について語ります。

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