Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「冬の夢」スコット・フィッツジェラルド著(村上春樹訳)中央公論新社

2009-12-30 | 村上春樹
あけましておめでとうございます!
今年もたくさんの素敵な本に出会えますよう。

「冬の夢」スコット・フィッツジェラルド著(村上春樹訳)中央公論新社を読みました。
20代にして見事に完成された天才的作家フィッツジェラルド。
彼が溢れる才能にまかせ書き上げた膨大な作品群から、「グレート・ギャツビー」の原型ともいうべき五短篇をセレクトした、著者若き日の名作集です。

収録作品は以下のとおり。
冬の夢 / メイデー / 罪の赦し /
リッツくらい大きなダイアモンド /ベイビー・パーティー

「メイデー」が面白かったです。
大学生たちのセレブなパーティを軸として、そのまわりのいろいろな人々が描かれています。お金、恋愛、お酒、仕事、ばか騒ぎ。
メイデーの翌朝のえもいわれぬ神秘的な夜明け。

「ミスタ・インとミスタ・アウト」、エレベーターボーイに告げる行き先階「天上まで」、フィッツジェラルドの華麗な文章力も堪能できる一編です。

「リッツくらい大きなダイアモンド」は童話のような自由な作品。
(いずれは失われていく)お金持ちの家の美麗な描写にうっとりです。

「ベイビー・パーティー」は小さな子供を育てている親ならではの視点。
フィッツジェラルドが父親である、というイメージは私は今まで持っていなかったので面白かったです。
わが子を可愛く目立たせるための画策、こどもを介したご近所どうしのつきあい、子供どうしのおもちゃのとりあい、よその子を怪我させてしまったときの対応。
今私が毎日直面していることばかり~!
しかしこの作品に登場する妻イーディスの幼さにも困ったものです。


一編一編についている訳者である村上さんの作品紹介も楽しかったです。

「銀河鉄道の夜」宮澤賢治著(新潮社)

2009-12-22 | 日本の作家
「銀河鉄道の夜」宮澤賢治著(新潮社)を再読しました。
大好きな作品で何度も再読しているのですが、寒くなり空が澄んでくると読みたくなります。この作品の舞台自体は夏の夜なのですが。
今回の再読では、ジョバンニのセリフに対する解釈が少し変わりました。

ジョバンニが何度もカンパネルラに語りかける言葉。
「どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んでいこう」

以前はこの言葉を、ジョバンニの死者に対する片思い、かなえられない独占欲、乗り越えるべき想い、と私は感じていました。

列車に乗っている時点ではジョバンニははっきりとカンパネルラを死者とは認識していませんが、ほかの乗客たちは死者であり、カンパネルラも彼らと同じ切符を持っていたことで、ジョバンニも心の底ではうすうすと察していたのではないかと思います。

でもこのセリフは、カンパネルラが「本当はどこまでも生きてすすんでいきたかったけれど」という、口には出せない想いを、ジョバンニが代わりに言葉にしてあげたのではないかと。
たくさんの未来が待っていたはずの、幼い少年のカンパネルラが命を落とす。
ジョバンニの心の底には、カンパネルラの心の痛みを引き受け、「僕は君がいつまでも隣に一緒に生きていると思って、進んでいくよ」という思いがあったのではないでしょうか。

そう思うと、この言葉がジョバンニのエゴではなく、決して死者を忘れないという、彼の覚悟の言葉に思えてきました。

今まではこの作品を「ジョバンニの心の旅」と捉え、カンパネルラは善行を成して死んだのだから自身の死を納得している、と受け止めていました。
でも・・・再読するとまた別の読み方もできるのですから不思議です。
ひとつの扉の奥にいくつもの扉が隠れているのが「読み継がれていく本」なのでしょうね。

もし死者にもう一度だけ会えるとしたら、多くの人は何を伝えるでしょうか。
多分「ありがとう」。
もしくは、「ごめんね」。

宮澤賢治は「銀河鉄道の夜」の中で、彼にしか描けない美しく透明な空を走る幻想の列車を走らせることで、死者に想いを伝えようとしたのではないかと思います。


ブログに掲載した画像は新潮社文庫版ですが、私の読んだものは昔の角川文庫版、ブルカロニ博士が登場する版です。
でも個人的には博士が登場しない最終形の方がういろいろな解釈ができるので、私は好きです。次にこの本を開くのはいつかな。楽しみです。

「のぼうの城」和田竜著(小学館)

2009-12-21 | 日本の作家
「のぼうの城」和田竜(わだ りょう)著(小学館)を読みました。
時は乱世。天下統一を目指す秀吉の軍勢、石田三成が戦いに向かったのは武州・忍城(おしじょう)。周囲を湖で囲まれ、「浮城」と呼ばれていた城。
城主・成田長親は、領民から「(でく)のぼう様」と呼ばれ、泰然としている男。智も仁も勇もない。しかし、誰も及ばぬ「人気」がありました。
著者は城戸賞を受賞した新人脚本家であり、脚本を自ら小説化したものがこの作品だそうです。本作は直木賞候補にもなり、今年の本屋大賞第二位を獲得しています。ネタバレありますので、未読の方はご注意ください。

面白かったです!
「時代小説を普段読まない人にこそおすすめ」と帯にありましたが納得。
出だしは地名や人名の漢字が多く、舞台設定を飲み込むまで少し時間がかかりましたが、話にのめりこんでからは一気読みでした。
のぼう様が、今までにない武将像で面白かったです。装丁ののぼう様の顔もイメージぴったり。(表紙の鼻が切れてしまっているのもおもしろいです。鼻の先は折り返しに。

でも、帯にある「石田三成二万の軍勢に、たった二千で立ち向かった男が、いた。」の一文は余計かな。
日本史通の人なら忍城の戦の話は有名なのかもしれませんが、授業で日本史を学んだ程度の私には「秀吉が北条に勝った」話しか知らなかったので、城の人間のほとんどが非戦派だったのに、「え、のぼう様、戦するの!!??」と、とても驚きました。帯を読まず、まったくまっさらな状態で驚きたかった。

この作品はもともと脚本でもあるため、小説がとてもビジュアル的です。
甲斐姫が酒巻に口づけする場面や、のぼう様が「わしは悪人になる」と言う場面。
三成とのぼう様の対面など映像栄えするだろうなーというドラマチックな場面がめじろおし。

なかでもやっぱり田楽の場面が作品の一番のキモでしょうね。
本当にこんなことがあったのですね。のぼう様、豪気!

この作品は現在映画化企画も進行中だそうです。
私も勝手に配役妄想。

のぼう様 ナイツの塙さん。
     顔がのぼう様ぽい。俳優として未知数なところものぼう様ぽい。
     あえて俳優から選ぶなら山本耕史さんなど。

石田三成 上川隆也さん
     三成のまじめな感じを上手く演じてくれそう。

和泉  照英さん。
    豪傑といえば思い浮かぶのはこの人。

酒巻  KAT-TUNの亀梨さん
    アイドル枠。

甲斐姫 柴崎コウさん
    雰囲気があいます。

秀吉  市川亀治郎さん
    最近注目しています。

メインの登場人物で配役が難しいのが丹波です。
小説の中で私が一番好きな人物でもあります!
かっこよくて武力に秀でているというイメージの俳優さんがなかなかいない。
伊原剛志さんとかいいかも。もう少し佐藤浩一さんが若ければイメージが近いかなぁ。ギャラも考えずあれこれ考えられる夢の配役。楽しいです。

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2010.6.23追記

「のぼうの城」のキャストが発表されました!

http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=100&id=1251935

万斎さん私、大好きです♪楽しみ~。
ほかの方もかなりイメージにぴったり。三成は誰がやるのでしょうね。

「燃える天使」柴田元幸編訳(角川書店)

2009-12-13 | 柴田元幸
「燃える天使」柴田元幸編訳(角川書店)を読みました。
月刊「カドカワ」に連載されていたアンソロジーで、14篇の短篇とエッセイ一篇が収められています。
特に全編を通したテーマはなく、以前「僕の恋、僕の傘」(角川書店)として出版されていたアンソロジーのうちの6本にプラス、デラックスなボーナストラック9本がついて文庫化されたものです。

収録作品は以下の通り。
僕の恋、僕の傘 ジョン・マクガハン著
床屋の話   V.S.プリチェット著
愛の跡    フィリップ・マッキャン著
ブロードムアの少年時代 パトリック・マグラア著
世の習い   ヴァレリー・マーティン著
ケイティの話 シェイマス・ディーン著
太平洋の岸辺で マーク・ヘルプリン著
猫女     スチュアート・ダイベック著
メリーゴーラウンド ジャック・プラスキー著
影製造産業に関する報告 ピーター・ケアリー著
亀の悲しみアキレスの回想録 ジョン・フラー著
燃える天使・謎めいた目 モアシル・スクリアル著
サンタクロース殺人犯  スペンサー・ホルスト著

私が一番印象的だったのは「愛の跡」。
レズビアンのジャクリーンと、ホームレスの子ロビーの奇妙な共同生活の話。

「ここにいる若い男の子は、外見は美しく、中身は地獄のただなか。
でも私たちがどう思おうと、自然にとってはどうでもいい。見かけさえよければ、自然には十分なのだ。人生のいろいろな不公平や苦労。貧乏の匂い、ねじくれた親指、もろもろの汚れ そんなものを人間はやたらと愛してしまう、うわべがそれを甘ったるく感傷的に見せているから。でもひどい話だ、そんな感傷なんて残酷だ、まるで私たちの愛なんて嘘だって言ってるみたい、わたしたちの気持ちなんて全部ニセモノだって言ってるみたいだ。まったく、なんてインチキな世界なの、と私は思った。何が神様よ。どう見ても素人の仕事じゃないの。」

子供の時期から男性の時期への萌芽を匂わせ、ジャクリーンとの再会を約束するロビー。
ロビーを自分のような人間にさせたくない、ロビーとの関係にこれ以上深入りしたくないと部屋を去るジャクリーン。
約束の日時に誰もいない部屋を見たロビーはどんな気持ちになるのでしょうか。
短篇には書かれていないその情景が私の頭から離れません。

「燃える天使」の天使の正体には驚きました。
「背中にくくりつけられた竪琴」・・・なるほど。

「サンタクロース殺人犯」は児童文学のような話で面白かったです。
女性がトップになったら戦争は無くなる?・・・かも。
でももっと国間の戦いが陰険になるかも!?

不思議な話、怖い話、笑える話・・・いろいろな話があって面白かったです。

雑誌「ダ・ヴィンチ 2010年1月号」

2009-12-13 | 村上春樹
雑誌「ダ・ヴィンチ 2010年1月号」、今年のブックオブザイヤーに選ばれた「1Q84」について村上春樹さんの受賞コメントが掲載されており、そこだけ書店で立ち読みしました。
来年夏にBOOK3がナント!出版されるのですね。

BOOK2のラストから言って、青豆は登場するのでしょうか?
BOOK3は天吾とふかえりの話になるのかな。
月は・・・いくつある世界?

BOOK2で青豆が選んだ「自己犠牲」については、まだ私自身消化不良でいます。
肉親や親友が相手だったら、「自己犠牲」という言葉はわかるのです。
でも青豆の相手は小学校の時の初恋の人。
もし私だったらその思い出のために自分を犠牲にすることはできないでしょう。
青豆が選んだ「自己犠牲」とはどういうことだったのか?
そのことについて、BOOK3でもう少し解き明かされるのでしょうか。
私がもう少し自分自身で考えなければいけないことかな。

いまからBOOK3出版がとっても楽しみです。
その後の物語の展開をいっぱい空想して待ちます。
村上さんと同時代に生まれて、新作が待てて本当に幸せ♪

「よろこびの歌」宮下奈都著(実業之日本社)

2009-12-11 | 日本の作家
「よろこびの歌」宮下奈都著(実業之日本社)を読みました。
御木元玲(みきもとれい)は著名なヴァイオリニストを母に持ち、声楽を志していましたが、受かると思い込んでいた音大附属高校の受験に失敗。
明泉女子高の普通科に進みます。
挫折感から同級生との交わりを拒み、母親へのコンプレックスからも抜け出せない玲。しかし、校内合唱コンクールを機に、頑なだった玲の心に変化が生まれます。
あきらめ、孤独、嫉妬、みえない未来に惑う少女たちの願いが重なりあいます。
同じクラスのそれぞれの少女たちが主人公となる連作短篇集。
歌が背中の羽になっている装丁が素敵です。
各表題はザ・ハイロウズの歌の題名からとられています。(作中にも登場します。)

面白かったです!
「よろこびの歌」だから第九の話かと思ったら、彼女たちが歌うのはイタリアの歌曲「麗しのマドンナ」。この歌、私は聞いたことがありませんが、題名そのものが高校生の彼女たちを表しているようでいいなと思いました。

「第一志望ではない」新設女子高に通い始めた彼女たち。
美少女の玲、うどん屋の娘千夏、ソフトボールをやっていた早希、霊感のある史香、絵が好きな佳子、まとめ役のひかり。
キラキラの青春にはつきものの、それぞれの、ぐるぐるどろどろがつがつ。

宮下さんの著作を読むと、「メイドインジャパン」といつも感じます。
細かいところまでしっかり作ってある、という感じがするのです。
感情の本当に細かいひだまで、しっかり過不足なく言葉にしようという感じを受けます。

たとえば最終章の一節。

「私の歌で誰かのどこかを揺さぶる、つまり誰かのどこかに揺さぶられるものがある、ということに希望を感じる。胸が震える。うれしいとか、楽しいとか、悲しいとか、さびしいとか、いろんな気持ちをみんなが抱えている。歌によって共有することができる。」

共鳴。

宮下さんも、小説を歌うように、同じような思いで書いているのでしょうか。

1月まで出版社の企画で、作中の登場人物あての手紙を受付中だそうです。誰に書いてみようかな。けなげで可愛い千夏ちゃんがいいかな?

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2010.2月追記

上記の企画で宮下さんあてにメールを送ったところ、出版社経由で返事がきました。うれし~い!
しかも1月下旬以降私の送ったメールの一部が帯に印刷されて書店に並ぶとのことで、昨日早速書店で見てきました。帯の後ろ、内側ですが確かに「読者の声」ということで紹介されていました。
好きな作家の本に少しでも携われたみたいでとってもうれしいできごと。
早くも、今年の我が家の10大ニュースのひとつに決定です。

「喋る馬」バーナード・マラマッド著(柴田元幸訳)スイッチ・パブリッシング

2009-12-03 | 柴田元幸
「喋る馬」バーナード・マラマッド著(柴田元幸訳)スイッチ・パブリッシングを読みました。
底抜けに哀しく、可笑しい11篇の短篇集。
雑誌「Coyote」誌上で連載中の「柴田元幸翻訳叢書」が単行本化されたものです。
収録作品は以下の通り。

最初の七年 / 金の無心 / ユダヤ鳥 / 手紙
ドイツ難民 / 夏の読書 / 悼む人たち / 天使レヴィーン
喋る馬 / 最後のモヒカン族 / 白痴が先

多くの作品が、著者の自伝的要素が強いと思われる、祖国を離れたユダヤ人を描いたものです。

「ドイツ難民」より抜粋。
「子供になった気分がした。いやもっと悪い、低能になった気がすることもしょっちゅうだった。言いたいことも言えずに、一人取り残された。何かを知っていることが、逆に重荷になる。そもそも自分という人間が重荷になるんです。舌は役立たずにだらんと垂れて。」

文化が違う、言葉が通じない、仕事もない。
伝えたいことが体の中にあふれているのに、それを語る術を持たない。
私が想像しようと思っても、きっとその想像をはるかに超える、苦難の数々。

「喋る馬」の中で、「いっそ喋ることも考えることもない馬であったら幸せであったろう」というアブラモウィッツのつぶやきは、そのままヨーロッパ移民のユダヤ人のつぶやきのようです。

ただマラマッドの短篇は、鳥や馬や天使がそのままイコールユダヤ人、という単純な寓話ではありません。
そこだけでは収まらない「物語」としての面白さと奥行きがあります。
だからこそ「ユダヤ人」という人種を逆に超えて、言葉の違う私にもその辛さや、生き延びようとする強さが伝わってくるのだと思います。