ジャーナリスト活動記録・佐々木奎一

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性産業を選ばざるを得ない少女たち…福祉施設所長が語る〝現実〟

2012年10月09日 | Weblog

 児童養護施設を退所した人などのうち、生きていくために人身取引の温床といわれる性産業を選ばざるをえない状況に追い込まれている人も多いのをご存じだろうか? 

 この問題についての講演会が8月25日、都内の恵比寿にある英治出版オフィス内であった。講師はアフターケア相談所「ゆずりは」所長の高橋亜美氏。主催は特定非営利活動法人ポラリスプロジェクトジャパン。“社会の闇”の実態を知るため現地を向かった。会場は35人が参加。そのうち女性が27人、実に77%を占めていた。

 講師の高橋氏は、社会福祉法人「子供の家」の職員。同法人は、今から25年近く前の1988年、東京都清瀬市内に自立援助ホーム「あすなろ荘」を開設している。高橋氏はこう説明する。

 「児童養護施設は東京なら18歳までは保護の対象になるが、公費で運営しているので中卒や高校中退の場合、施設を出て就労することを余儀なくされます。しかし、家族を頼れず、中卒、高校中退という学歴で社会に出て、生活が破たんしてしまう。そうした子供たちの受け皿として、あすなろ荘はできました」

 こうした自立援助ホームは都内に18か所、全国で80近くある。現在のあすなろ荘の入所者について、高橋氏は「今は児童養護施設からの人は約2割。他は少年院や更生施設の児童自立支援施設を無事終えたけれども、家に戻ると再犯を繰り返す可能性があったり、両親が自分の子どもを受け入れたくない、もしくは、子供たちの方がもう2度と家には戻りたくない、といった事情で、どこにも行き場のない子供たちです。幼少期から虐待環境で育った子や、ネグレクト(養育放棄)でゴミ屋敷のような家や、性虐待の中で何とか生きてきた子供たちが、14、15歳になって、反社会的行動ができる力をつけたところで、家出をする。女の子はほぼ100%援助交際をして、何とか日銭を稼いで生活を維持する中で、警察に保護されて、どこにも行き場がなく、あすなろ荘にやって来きます。男の子の場合は、ホームレスのような生活で食べ物を万引きしたり、カツアゲをして、警察に保護されて来るケースが非常に多い」と言う。

 こうして入所して子供たちが1~4年間、あすなろ荘に在籍し、なんとか生活を立て直して、18歳~20歳で巣立っていく。

 「はじめは私たちスタッフに対しても『お前らなんか信用できるか!』という関係からはじまります。だけど、生活を共にする中で、一緒にご飯を食べて、仕事の愚痴を聞いて、時にはお母さんの話を涙して話すのを夜、お茶を飲みなが聞いたりする中で、だんだん表情が変わっていき、本来の、子供らしい状態にみんな戻っていきます」

 こうして、あすなろ荘を巣立っていった子供たちは約140人。その子たちについて、高橋氏はこう語る。「あすなろ荘で『もう一度生きることを何とかやってみよう』と思った子供たちが、その後、社会に出て、みんな幸せにやっているか――。実際にフタを開けて見ると、全然幸せじゃない結果が、たくさんありました…。うちのホームの退寮者のなかで、自殺をした子や、今現在、服役している子、ホームレスのような生活をしている子、性産業に就いている子、そういった子たちが正直、後を絶たない状況でした。これは支援者として恥ずべきことだと私は思っています。そうした状況を目の当たりにしてきて、こんな支援をしていていいのか、正直、思い悩む日々でした」

 そうして次の取り組みを始めた。「まず、自殺者を出さない。犯罪者になることも被害者になることも未然に防ぐ。あと、ホームレスにさせない。レベルの低い目標ですが、まず、私たちのホームを出た子たちをそうした選択肢に追い込まないために、あすなろ荘では、約3年前からアフターケア担当の職員をつけました」と言う。

 子供たちには次のようにアドバイスしているという。「あなた方が社会に出た後、失敗しないわけがない。問題に巻き込まれないわけがない。社会には、もう、色々な、あなた方を食い物にして『いい金ヅルだ』『いいカモができた』と喜んで寄って来る人たちがいっぱいいる。そこで親や家族の拠り所のないあなたたちが、自分たちの力で防げるはずがないから、何か起こった時は、安心してすぐ相談に来てほしい。問題は起こって当然。起こった時に、もう何を聞いても私たちは大丈夫だよ」

 こうした体制を整えてから、退所後の相談ケースが増えた。高橋氏はこう述べる。「例えば、以前だったら、風俗業に就いて、やめられない状況になってしまった後、覚せい剤を打たれたり、薬漬けにされたり、色々な情報を握られて、脅されて、何年もそこでやった後、心もボロボロになって、初めて、『助けて…』と相談してきましたが、今は、風俗業という職業を選ぶ前に、『今、こういう風に仕事がクビになってしまって、働けなくなって、家賃も払えなくて、でもどうしても今日食べるお金が必要だから、もう自分の身体を使うしかないんだよね』と、早い段階で相談にきてくれる。そういうふうに、どんどんみんなが声を上げてくれるようになりました」

 さらに退所者たちは自分自身の悩みとともに、同じような境遇の仲間のことも「相談のってあげてよ」「風俗の仕事から足洗えるように何とかしてあげて」と話すようになっていった。

 こうして相談に応じるうちに、「困っている子はたくさんいるし、どの施設を退所した子でも、安心して『助けて』と言える場所をつくりたい、と思うようになり、昨年4月、『ゆずりは』を開所しました」と言う。

 「ゆずりは」は、東京都小金井市内にあるアフターケア支援施設。昨年1年で72人が相談に来た。そのほとんどは施設の退所者で、女性の相談が52人と7割を占めるのが特徴という。そのうち大半は性虐待やDVの相談。または「今、風俗業で働いているんだけど、『辞めたい』と職場にいうと、『辞めるためには50万円の解約金を払え』と請求されて、辞められません。どうしたらいいですか?」といった相談や、「もう死にたい」「住むところがなくなった」「家賃を何カ月も滞納している」「借金が何百万円もある」など1人では解決できない“重たい問題”を一緒に解決していくための支援を提供しているという。

 具体的な支援体制について、高橋氏はこう説明する。「ゆずりはで全ての支援を完結させているわけではありません。私たちも、いろいろな支援者の方に支えられて、助けられています。例えば、働けない、という子には、生活保護につなげたり、DV被害の子には、女性相談の窓口や保護施設とつなげるなど、既存の支援機関を利用させて頂き、みんなで支援、解決していくことを基軸としています。弁護士、精神科医の方々にも、無償でかかわって頂くなど、専門家の力を借りて一緒にやっています」

 最後に、高橋氏は会場にこう呼びかけた。「こういう話をすると、すごく悲惨でかわいそう、という見方をされることが多い。でも、子供たちをそういった状況に追い込んだのは、私自身も、この場にいる皆さんも含めて、『私たち自身も当事者である』という視点を持たないと、何も解決されないと思います。どこかに悪い奴がいて、それを取り締まればいいという話ではなく、私たち社会の一人一人が、関心を持ち、学ぶことが必要だと思います」

 氏の言うように、まずはこの社会の闇の現実を直視することから始める必要があるのではないか。(佐々木奎一)

 

 
 2012年9月2日、auのニュースサイト EZニュースフラッシュ増刊号
 
「潜入! ウワサの現場」で記事
 
「性産業を選ばざるを得ない少女たち…福祉施設所長が語る〝現実〟」
 
を企画、取材、執筆しました。
 
 
 
写真は、アフターケア相談所「ゆずりは」所長の高橋亜美氏。


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1 コメント

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問題の本質 (ゴロロ主任)
2015-01-09 09:42:03
◆問題の本質◆
1 生まれが悲惨で辛い経験の中生きてきた
2 生きてきた過程で悪い人達と出会って、人生の悪循環を生きる
ということに問題の本質があるのであって、
職業とは分けて考えるべき

1 では、親や社会が救ってやれなかったこと
2 では、社会と自分の責任能力(自己責任等)と直接的に悪い人達
を相手にするべきではないか?

◆職業というところの中の問題について◆
この社会は、大概の誰にも厳しいもの。
その中での、彼女らが選んだ職業は安易に高収入をえられるもの。
その職業につき、自立している女性 将来への夢や希望のために稼ぐ女性 前向きの女性が大半だと思われる

~見方を180度変えれば~
低収入でオーバーワークしている人の方が悲劇なのではないだろうか
働けど働けど暮らし豊かにならぬ老若男女のほうが、

◆このブログの問題点◆
1 女性の高収入な職業を否定しています
2 不幸の源は性産業なんだと本当の的をすり替えています

社会全体を見渡して、一点を主観的、客観的、あらゆる角度で観られる能力を高めよう

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