いろはに踊る

 シルバー社交ダンス風景・娘のエッセイ・心に留めた言葉を中心にキーボード上で気の向くままに踊ってみたい。

帽子の女 44編

2005年08月14日 06時57分55秒 | 娘のエッセイ
 花の咲き乱れている公園の中、乳母車を押している女。簾の椅子に腰掛け、テ
イータイムをとっている女。開け放された窓辺から、遥か彼方の水平線をみつめ
る女……。

彼女の頭部には、ほとんど例外なく、つばひろの帽子がのっている。美しい彼女
達を生み出した画家の名は、カシニョール。

 ブルーグリーンのアイシャドーで彩った瞼の下にある涼しげな瞳は、どんな想
いを秘めているのだろうーそんな想いを見る者に抱かせる、横顔の、また後ろ姿

の彼女達にとって、そのつばひろの帽子の存在は大きな意味を持つ。何故なら、
決して豪華ではない、実に簡素な服を身に付けた彼女達が、たったひとつの帽子
によって「レディ」の雰囲気を与えられるからだ。

 正式な洋装に、帽子は不可欠である。その上、大きくて柔らかい線を持つひとつ
の帽子は、何気ない姿の女性さえも、とても優雅で優しいものに演出してくれる。
その帽子、日本人は本当に冠らない人ばかりだ。

 でも昔は、たとえばハネムーンというと、新妻は決まってパステルカラーの
スーツと、お揃いの小さな帽子姿だった。あれは聞くところによると、新郎の前で
バシャバシャと髪を洗えない奥ゆかしい大和女が、髪の汚れを隠す為に愛用した

という。現代のハネムーンの場で、お馴染みのハネムーンルックが登場しなくな
つたのは、結婚したばかりの夫の前で髪を洗えないなどという、シャイな女性が

消滅したからなのかもしれない。でも、汚れを隠す為に帽子を被るなどという蛇
道な利用方法は、なくなってよかった。

 ハネムーンに限らない。今の日本人は帽子を冠らぬ。たまに冠っても着こなし
が下手だ。帽子の着こなしを練習する機会が少ないからだ。

 大きな帽子に似合うだけの背丈がないから。レディつぽい自分を照れるのか、
いや、そんなことより、帽子で遊ぶ、他人の視線を優雅に受け、それを楽しむだ
けの「心のゆとり」がないことが、一番の原因かもしれない。
コメント (1)
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