すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

「たべもの」の話はいつも

2017年02月21日 | 読書
 「ママがお湯を入れてくれたカップラーメンは、とてもおいしい」と、その子は言った。先日放送されたあるドラマのセリフ。一人のシングルマザーの「貧困状況」を暗に示す場面だ。私はこの地でも20年ほど前に、似た言葉を聞いたことがある。切ないにしろ、温かいにしろ、「たべもの」の話はいつも心と結びつく。


2017読了20
『いとしいたべもの』(森下典子  文春文庫)


 著者は私と同年生まれのルポライター。ある雑誌に連載した自身の食べ物についての思い入れがまとめられた一冊である。同世代感覚は食についても共通項が多い。むろん都会育ちと地方農村との差はあるが、昔ながらの食生活が残っていた部分、そして高度成長期に変化をみせていく部分が重なり、懐かしく読めた。


 例えば「茄子の機敏」という章。夏になると食卓が茄子のオンパレードだった頃は自分にとっても忘れられない。そしてその「価値」に気づくのは、やはりずいぶんと齢を重ねてからだ。「何がいいのかわからない」と喩えたのが「小津映画」であったことも妙に重なる。普通の人々の感情の機微がわかる頃に、味を知る。



 「サッポロ一番みそラーメン」や「どん兵衛きつねうどん」が登場する章も、非常によくわかる。私には「チャルメラ」「カップヌードル」が該当する。それらは豊かでない時代の大量消費がつくった味ではあるが、日本人の独特で豊かな発想と工夫に支えられていて、相変わらず人々の舌の一部分を支配し、心揺らす。