スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

第四部定理五四&理念を目で見る

2017-10-14 19:33:55 | 哲学
 第四部定理五四備考では,自己嫌悪humilitasと後悔,そして希望spesと不安metusという感情affectusは,理性ratioから生じることはないにしても,害悪よりも利益を齎すとされています。この備考Scholiumが付されることになった第四部定理五四では,これらの感情のうちとくに後悔について言及されています。
                                 
 「後悔は徳ではない。すなわち理性からは生じない。むしろある行為を後悔する者は二重に不幸あるいは無能力である」。
 この定理の初めの部分は,後悔を定義した第三部諸感情の定義二七から明白です。なぜなら第四部定理二四から明らかなように,有徳的であるということは理性に従うということです。そして理性は精神の能動actio Mentisですから,第三部定理五九により,もし何らかの感情が理性から生じ得るとしたら,それは喜びlaetitiaであるか欲望cupiditasであるかのどちらかであり,悲しみtristitiaではあり得ません。しかるに後悔は悲しみの一種です。したがって後悔は徳virtusではありません。いい換えれば後悔が理性から生じるということはありません。
 同様に,後半の部分も後悔の定義Definitioから明白であるといわなければなりません。なぜなら,後悔する者は,単に自分のなした行為によって悲しみを感じているわけではなく,その原因として自分自身の精神の自由な決意なるものを意識しているからです。したがって後悔している人間は,まず悪しきその精神の自由決意,実際には意志の自由はスピノザの哲学では認められませんので,この自由決意というのは当人がそれと錯覚しているような悪しき欲望のことですが,そうした悪しき欲望によって支配され,なおかつその悪しき欲望に従って行為した結果に対して悲しみを感じているからです。したがって後悔する人間は,後悔するその行為の発端の部分で不幸あるいは無能力impotentiaであり,行為の結果に対しても不幸ないしは無能力であるといえます。この意味において,後悔する人間は二重に不幸であり無能力であるということになるのです。
 ただし,この感情は害悪より利益を齎すとスピノザはいっています。二重に不幸で無能力ではあるものの,スピノザが全面的に否定しているというわけではありません。

 大槻によれば,シラーはカント学派として経験と理念,経験的な事実と観念上の事柄を分類したのだとされています。ところがゲーテJohann Wolfgang von Goetheは自然を全体として一元論的に把握しようとしていたので,経験上の事実と観念上の事柄という分類を理解し得なかったといわれています。いい換えればゲーテは,「象徴的植物」というのを,シラーがいう意味での理念的なもの,単に観念上の事柄であるとは思っていなかったということになるでしょう。確かにゲーテは,自分で知らず知らずのうちに理念を有し,それを目で見ていると答えているのですから,この指摘は当たっているように思います。たぶんシラーにとって理念的なものとは,目で見ることはできないものという意味をもっていたのではないかと思われるからです。
 続けて大槻は,ドロテーア・クーンなる人物のゲーテ評を紹介しています。僕はこの人物のことはよく知りません。というか初耳でした。詳細な実証的立場からのゲーテ評とされていますが,これはおそらく自然科学の立場における実証主義者を意味するのでなく,ゲーテの思想の研究の立場での実証主義を意味するものと思われます。
 クーンの解釈によれば,ここでゲーテがいっている理念を目で見るというのは,文字通りに身体の目で理念をみるという意味なのではなくて,精神の眼でものを見ることなのだそうです。そしてこれがゲーテの自然研究の方法そのものを意味しているのだそうです。前にいったように僕はゲーテの思想に対する知識は欠如していますので,このクーンの評価が正しいのかどうかは判断しかねます。大槻は,このことはその通りであるといっています。ただゲーテの方法論に関しては,クーンの説明は十分ではないと解しているようで,その方法のことを純粋な経験科学とは異なった自然の形而上学であったと述べています。
 この部分にもスピノザの名前は一切出てきません。しかし,クーンが精神の眼といういい方をしている場面で,スピノザについて何も言及しないのは僕には説明不足であると思われます。クーンがそれを意識していたかは分かりませんが,この語は第五部定理二三備考に出てくる語であるからです。

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