スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

嫌味&判然とした表象

2017-07-23 19:23:30 | 歌・小説
 僕はKが奥さんに対して,「私は金がない」からお祝いをあげられないと言ったとき,その本音は先生との結婚を「祝えない」という意味であったと解しています。ですがこの部分は,Kは奥さんに対してもっと別の意味の嫌味を言ったのだと解せなくもありません。僕はこの解釈はしませんが,そう解さないということは『こころ』の下のほかの部分にも広範にわたって影響します。なのでまずは僕が採用しない解釈というのがどういうものであるのかを説明しておきます。
                                     
 Kは次男の悲劇の当事者です。しかもこのときは実家からも養家からも仕送りを断たれていました。一方で先生は長男の悲劇の当事者であり,遺産を搾取されたのですが,残った遺産だけで働かずとも生きていけるだけの資産を有していました。これが『こころ』における裕福な男と困窮した男,すなわち先生とKとの関係です。
 この関係に重きを置くならば,Kはこのとき,実は自身の経済的困窮に自覚的だったのであり,先生は金があるから静と結婚することができたけれども,自分には金がないから静と結婚をすることはおろか,その結婚のためのお祝いをあげることすらできないと言ったのだと解することにも無理はないといえるでしょう。そしてこういう意味であったとしたなら,これは強烈な嫌味であったといえます。なぜなら,先生は金があるから静と結婚することができたということのうちには,静は金を目当てに先生との結婚を選んだとか,奥さんは金を目当てに静を先生と結婚させたのだというような意味が含まれることになるからです。要するにこの発言は,静と先生の結婚は,財産目当ての結婚であるという嫌味であったと解釈することが,合理的ではないとまではいえません。実際にKは静に対して恋愛感情を抱いていて,静との結婚を望んでいたと解せなくはないので,静が自分ではなく先生を選んだ理由について,先生の財産であると判断しても不思議ではないからです。
 繰り返しますが僕はこうした解釈は採用しません。採用しない理由はいくつかありますので,それについては後に示すことにします。

 自信はないのですが,この部分は第三部定理五三を解するにあたって非常に重要だと思います。あまり適切ではありませんが,それを重々承知の上で,僕がどう解釈しているかを比喩的に説明します。
 ある人間がAを所有したいと思っていて,実際にそのAを所有するに至ったとします。このときその人間はAを所有することができたというそのこと自体に喜びlaetitiaを感じるでしょう。このことはたぶん経験的に明らかであって,論理的に説明する必要はなかろうと思います。
 このとき,Aというものがだれにでも容易に所有することができるものであって,実際にだれでも所有しているという場合と,Aを所有するということはとても困難なことであり,実際に所有しているのが自分だけであるとか,自分だけではないにしてもごく限られた人間であるという場合とを比較したならば,その他の条件が等しいならば,後者の場合の方がAを所有することによる喜びはその人間にとって大きいであろうと思われます。おそらくこのことも僕たちは経験的に知っているのであって,論理的な説明は省略します。
 僕の解釈でいえば,これと同じようなことが,自己自身ならびに自己の活動能力agendi potentiamを表象するimaginariという場合にも生じるのです。つまり自己自身およびその活動能力が,他人と同じように表象される場合と,他人にはなく自己に特有のこと,あるいは自己に特有とまではいえなくても限られた人たちに特徴的なものと表象される場合とでは,その他の条件が等しい限り,後者の方がそれらを表象する人はより大きな喜びを感じるのです。したがって,自己に特有な自己自身ならびに自己の活動能力を表象することは,他人と一致するような要素を多く有する自己自身ならびに活動能力を表象することより,自己自身ならびに自己の活動能力を判然と表象しているというように僕は解するのです。
 ところで,もしもこの解釈が正しいのだとしたら,こうしたことは共通概念notiones communesそのものにも妥当するかもしれないと僕には思えます。共通概念は十全な思惟の様態cogitandi modiなので,判然とした思惟の様態ですが,自己との関係に特化すれば,そうであるともいいきれないと思われるからです。
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