souxouquitの部屋

人生はロックと蹴球と少しの色気にあり

1998フランスW杯予選 韓国戦A 2-0 勝利

1997-11-06 | サッカー
無事にソウルから帰国しました。
渡韓記を掲載しようと思います。

●大韓航空について
行きのフライトは1時間遅れた。成田で3時間どうやって時間つぶせっちゅーんじゃい。それに、あんなまずい機内食は食ったことがない。オーディオサービス(イヤホンを配って好きなチャンネルの音楽や落語が聴けるサービスですよ)もない、スクリーンに写るのは飛行位置を地図上で示すカーナビみたいな画像と高度、速度がディジタル表示される、やっと始まった「動く映像」は、10年前にアメリカで作られた「スポーツ珍プレー集」であきれた。
二度と大韓航空には乗るまいと決心した。

●試合前日のスポーツ新聞について
各紙とも先発の目処がついたチェヨンスを1面トップに写真入りで紹介。他にもサッカー代表関連の記事が2~4面並ぶ。
ただし、韓国のスポーツ紙がこれほどまでサッカーに紙面を割くのは稀で、たいていは野球(国内リーグ+中日のソン投手+ドジャースの何とか投手)の記事で埋め尽くされるのが常である。

●日本選手の人気について
何と驚くべきことに、最近は十代の女の子を中心に「日本人プレーヤーの追っかけ」がいるらしい。彼女らは日本代表の練習スタジアムに姿を見せ、人気選手(若さの中田、知名度のカズといったところ)のプレーに嬌声をあげるそうだ。まぁこのこと自体は別にどうということでもないが、「韓国サポーターの反日感情の弱まり」という文脈で言えば、数年前には考えられなかった「大変化」と言っていいだろう。

● 日本サッカーの現在位置は
試合前日、サッカーレクチャーと称した夕食懇談会があった。その場での質疑の要旨。
俺:アマチュア時代でもW杯にもう一歩というトコロまで迫ったことは何回もあった。Jというプロリーグが発足して5年経った現在、日本チームの、あるいは代表選手の実力はどの程度にあると思われるか。これまで代表を長きにわたって見てきた各氏に、現状苦戦している代表チームを日本サッカーの歴史の流れの中で評価してもらいたい。
西村:本当の意味のプロは、例えば4年前は1~2/11だったのが今ではチームの半分ぐらいになっている。それでもまだ全員じゃない。
湯浅:現代表チームのベテランは、体育会的ノリの最後の世代だろう。交代の過渡期という感じがする。また、未だに「リスクを恐れず自分の力で事態を打開してやろう」という積極的なプレーをしない選手が多すぎる。こういったポ
ジティブなプレーをしない/できない選手はプロではない。
後藤:今までだったら、崖っぷちの試合は引き分ることもできずにズルズルと落としていただろう。監督の采配ミスがあり、監督が代わり、といった環境と凄まじいプレッシャーの中ではまあよくやっていると思う。

● 韓国サッカー協会について
今回参加したツアーでは、試合当日は
8:30 バスツアー出発 -> 10:00ロッテワールド免税店でお買い物 -> 12:00蚕室スタジアム着 ->15:00 試合キックオフ
というようなスケジュールになっていたんだけど、せっかくだからといってバスツアー出発を1時間早めて大韓蹴球協会、大韓大学蹴球協会、大韓高校蹴球協会、Kリーグ事務所などをまわることになった(まわるといっても外からビルを眺めただけですけど)。
オフィス街にあるといえば聞こえはいいですが、ビルや道が立派なのは表通りだけで、一本裏通りに入ったところにあるこれらの建物は埃っぽく看板には年期が入っていて、ビルも「探偵物語」の工藤探偵事務所みたいなつくりでした。まるで10年か20年前の日本の××協会、つまり言い方は悪いが、根性至上主義が匂ってきそうなたたずまいであった。

● 蚕室オリンピックスタジアムに到着して
バスが到着したのが11:30ごろ、それからスタジアムの周りで開門を待っている日本サポーターの列の最後尾に付く。その時すでに列はメインゲート付近までできていた(つまりスタジアムを1/4周していたことになる)。
驚いたのは警備のモノモノしさである。警備員の数は6,000とも8,000とも言われていたが、入場ゲート付近では警備員が通路を作っていた。また入場の際は、空港などで見うけられる金属探知器3基に一人づつ通す徹底ぶり(そんなことやってるから入場したのは1:00過ぎになってしまった)。韓国サポーターとは入場門も完全に分けていたし、スタジアム内でも通路側の座席には警備員が「壁」を作っていた。スタジアムの上空では低空で舐めるようにヘりが飛び、警備員は一糸乱れぬ歩調で移動していた。ちょっと恐ろしいくらい、というか、ある種の様式美を漂わせるほど統制が取れていた。さすが兵役義務のある国ではある(警備員の中には警官、機動隊に加え、軍隊も混じっていたと聞いた)と変なトコロで感心してしまう。

●スタジアムの雰囲気について
着席したころには、レッドデビルスが立錐の余地なく反対側ゴール裏(電光掲示のある方)を埋め尽くしていた。だがそれ以外の一般観客席はまだまだ人がまばらで、少々拍子抜け。キックオフ2時間前ならあたりまえか。
2:00前後だったと記憶するが、何やらコメディアンらしい男女2人がグラウンドに姿を見せヒステリックに韓国サポーターを「のせ」ようとするが、韓国サポーターはなんともノリが悪い。ワケ分らないで聞いてると、韓国語は喧嘩売られているみたいだ。おまけに音が割れている!みんな歌おうとしないんだから、そんなにアジるなよ。という感じで、決して愉快ではない状況だったが、「ま、韓国人はまだ応援が下手だからしょうがないな」と余裕の日本サポーター。それに引き換え我がウルトラスといったら!すばらしい!あんびりーばぼう!(ニュースステーション川平ジェイ風)数では1万人程度だが、応援の質とそれより何より魂=ハートが負けていない。
蚕室は屋根がシート上方にせり出しているせいか、自分の声が遠くまで伸びて飛んでいくのがよく判る。白状すると、君が代を大声で歌っていた時、自分でも感動して思わず涙が溢れそうになってしまった。

● ゲームの内容について
もう皆さんビデオテープが擦り切れるぐらいご覧になったでしょうから、スタジアムで感じたことを少々書くにとどめます。
試合前の予想は殆どの人が2-1or1-0で日本勝利。でワタシはというと「ロペスのハットトリックで3-0」と予想。UAE戦同様の身体の切れに期待。
>結果は半ば的中!
DFの要ホンミョンボを欠く韓国はディフェンスラインをずるずると下げてしまい、ナナコンビ(中田&名波)が自由にゲームメイクできる。不調をかこっていたカズも中盤に楔を打ちに下がることで前線にスペースが生まれ、更に韓国DFを混乱に陥れる。日本選手は皆がみんな自分の役割を理解し、チームメイトのプレイに触発され、また第3の動きを躊躇なく実行する....というすばらしいオフェンスを展開する。またディフェンス面では、秋田がマンマークにおいて非常に安定したプレーを持続し、井原、両SBとともにフラットなフォーバックをキープ。後半の15分過ぎからイヤな時間帯もあったが、チェヨンスの頭がなければこっちのもんさ、という余裕の対応。チェヨンイルが35分ぐらいに2枚めの警告で退場になってからはボールキープ。日本選手がパスをまわすたび、スタジアムに「オーレッ!」の叫びがこだまする。ああ、感動!

得点シーンを簡単に振り替えると(両方目の前で見れたよん。):
1点目はセンタリングに反応したロペスが先に触っていたが、現場ではそこまで分らなかった。気が付いた時は名波がゴールほぼ正面でシュートの体制に入っていた。多分キーパーもブラインドになったか二アサイドに釣られたかして、シュートされた瞬間に反応しきれていなかったように見えた。まぁサイド攻撃のお手本みたいな得点であった。
2点目には伏線がある。あの得点で大いに個人技を発揮したのが相馬とロペスだが、この2人とも直前のプレーで共に左足を怪我している。相馬は25分ぐらいに、ドフリーで左サイドを駆け上がりセンタリングをダフって足をくじいた。(その後10分程は走るのも痛そうで、交代しないことが不思議なぐらい。)ロペスは35分ぐらいに、ゴールほぼ正面ボックスのすぐ外でシュートモーションに入ったトコロを、韓国DFにブロックされうずくまった。
何が伏線かって?左足を傷めた二人がセンタリングとシュートを共に左で打っている。そのことがいい意味でインパクトの瞬間に脱力させ、あのような優雅でファンタスティックな得点を生んだのだ。DFに尻餅をつかせたドリブル、GKの鼻先で愚弄するかのようなシュート、まるでフットサルを楽しんでいるようなプレイの連続に酔いながら、ワタシはそう悟ったのだ。

その他気が付いたこと:
ロペスのオーバーヘッドシュートは、紛れもなくワールドクラス。あんなに切れ味の鋭いオーバーヘッドはJICOの最盛期に匹敵する。本当のことを言うと、あのシュートを見てから一瞬「勝敗はどーでもいい」という気分になった。それぐらい感動した。こういうサポーターを感動させるプレイを披露してこそプロですね。
秋田は絶好調。ヘディングでもなんでも全然負ける気がしない。次の試合もまたCKから点取れるんじゃないか。それにしても井原って他の人がぜぇんぶ機能して初めて自分も機能する人なのね、と改めて痛感。ゆえにワタシの中では依然戦犯扱い。
平野は機能してた。それ以上にあの場面でOMFを交代した岡田采配にはけっこう唸った。みなみこうせつさん結構やるもんだね。

●試合後の心理状態
もちろん喜んでいるのだ。嬉しいのだ。が、爆発的な喜びじゃない。どうしたんだ。グラウンドでは松木と和司が選手と談笑し、川平ブラザーズが抱き合いスタンドから旗を奪ってヴィクトリーランを始めたというのに。
試合が結果的に前半で決まってしまったから?タイムアップの時には「心の準備」ができていたから?まだ自力2位が見えた訳じゃないから?応援することに集中しすぎて疲れてしまったから?もちろんそれも理由なのだが。
ホントのことを言えば、要するに「ピン」ときていなかったのだ。「頭」でなく身体全体で、理性でなく気持ちの底から勝利を味わうには、あまりに長いあいだ勝利の味を忘れていたのかもしれない。
やっぱり笑い方を忘れてしまったらうまく笑えない。俺たちは本当に勝利に飢えていたんだなぁ。
その感覚がもどってきたのは、その日の深夜、スターチャンネルで録画放送を眺めながら、寝付けない仲間とホテルの一室で飲んでいる時だった。

別にワタシが鈍いってことをいいたいのではない。
サポーターでさえこうなのだ。選手や監督・コーチ・スタッフ等の関係者のプレッシャーは、恐らくこの比ではなかろう。それを「解った」というつもりはないが、「今まで随分都合のいいことばかり言って高見の見物だったな」と深く深く反省した次第である。

● 韓国サポーターとの交流?について
レッドデビルス(韓国の熱狂的な応援団のこと)側応援席には“Let's Go To France Together”の垂れ幕があった。
それは、「(韓国)選手は俺たちサポーターを一緒にフランスへ連れていってくれ」という意なのか、「(2002年の共催仲間の)日本の皆さんも(一足早く出場を決めた)我々韓国と一緒にフランスへ行きましょう」という意なのかわからない。しかしウルトラス(日本の熱狂的な応援団のこと)とのエールの交換やスタジアムの雰囲気から、ワタシは勝手に後者だと考えることにした。ありがとう韓国、いいよな余裕がある奴は。

試合後にはこんなこともあった。
暴動や危険な事態を避けるため、あらかた韓国サポーターが退場した後にスタジアムをようやく出ることができた日本人サポーターが、ゾロゾロとバス駐車場に向かって歩いていた時のことだ。赤いユニフォームを着た5~6人の若い韓国サポーターが、日本人のサポーターに向かって挑発的な態度を取ったのだ。高校生か大学生ぐらいだったろうか、よっぽど敗戦が悔しかったんだろう。しかしこっちは大人。ワタシは彼らの挑発にのらず、逆に「ハングル、チャチャチャ」と大声でやりだしたのだ。たちまち周りの日本人20人ぐらいが「ハングル、チャチャチャ」の大合唱を始めた。一瞬彼らの顔が「ハッ」として、今度はちょっとはずかしそうに彼らが「ニッポン、チャチャチャ」とやりだした。その間30秒もなかったろうが、ワタシにはすごく長い時間に思われた。くちぐちに「がんばれよ」「アブダビでは勝ってくれよ」と言いながら、笑みを浮かべながら、バスに向かう日本サポーター。手を振る韓国サポーター。とても心暖まる瞬間だった。それにしても余裕がないといけませんね、人間は。

●翌朝のスポーツ新聞の論調について
日本では、「ソウルで日本が韓国に勝ったのは13年ぶり2回目」という報道が支配的なようだが、韓国のプレスは「0ー2の完敗は56年6月3日メルボルンオリンピック予選1戦(東京)に続き41年ぶりの恥辱だ」という見出しが目に付いた。ここに、両国の微妙だが決定的な差がある気がする。勝利がホーム/アウェイどちらでマークされたのかを気にする日本のプレス、その背景にはアウェイに弱い日本の姿が感じられる。つまり「日本で韓国に負ける訳にはいかないが、韓国では勝てなくてまぁ当たり前」という感覚である。一方2点差の負けに着目する韓国は、「何処であっても日本に負けることは許されない、それが2点差しかも得点なしというのは全くもって嘆かわしい/不甲斐ない」という国なのであろう。W杯に出場したことがあるのでそれにどれほどの価値があるのかが解っている国とそうでない国、過去の関係を今に語り継いでいる国とそうでない国、つい最近まで軍による情報統制をしいていた国と平和ボケしてしまった国、両者の反応の差はそんな文化的歴史的背景を浮き彫りにしている。もちろん、どちらが正しいか/幸せなことなのかを即決する愚はおかすべきでない。
それにしても13年だの41年だの大袈裟な表現が好まれるのは万国共通か?
その他目についた見だしは「負けたのか..負けてやったのか..」というもの。これも挑発的書き方だ。というのは前日の戦い方をみていると、手心を加えてもらったとは考えられなかったからだ。この見出しはこう読むのが正しい。つまり「W杯出場を決めてしまってモチベーションが上がらないという点が多少あったにしても、『負けてやったのか..』とでも書かなければ、2-0の完敗を喫した韓国人のプライドが許さない」と。

さていよいよマジック2です。これからが本当の勝負です。
興味のない人も応援しましょう。ある意味であなたがたは幸せです。
日本のスポーツ界の大事件、いや、日本人の感覚が「狂い」だす瞬間に立ちあう幸運をこれから味わえるのですから。
だから頑張ってサポートしましょうね。