HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

お客に見える改革。

2017-05-17 04:48:14 | Weblog
 三越伊勢丹ホールディングスは、杉江俊彦新新体制となって1ヵ月が過ぎた。大西洋前社長が取り組んだ中長期戦略にブレはない一方で、百貨店事業では伊勢丹新宿本店、三越日本橋店、三越銀座店にも大ナタが振られることになった。

 この基幹3店については、2017年3月決算で255億円の黒字を見込んでいたが、経費やコストの上昇を招いて、営業利益は96億円減の159億円止り。そのため、要員や販促といった経費の削減にも手を付けざるを得なくなったのである。

 構造改革と言ってもリストラばかりを進めると、社員のモチベーションは上がらない。大西体制の改革路線では社員を鼓舞するために、社内プロジェクトに頼りきったようである。それで社内の意識改革が進めば良いのだが、イベントに注力するばかりで経費が嵩んでいったのだ。

 百貨店にとって売上げを上げるには「いかに多くのお客さんを呼ぶか」。「◯◯展」「◯◯フェア」といった集客イベントは基本の基になる。そうしたプロジェクは、若手社員になるほど前のめりで打ち込むだろう。

 しかし、それぞれに売上げ目標があるわけで、適正な利益を上げられなければ、実施する意味は無い。それでなくてもイベントは催事場作りからチラシの制作や折込み、テレビスポットまでと経費がかかる。莫大な投資をして収益が上がっているイベントは、むしろ少ないのではないのか。

 例えば、北海道物産展を実施するに当たって、より魅力的な目玉商品を揃えるために、担当バイヤーが期間中に「獲れたての食材」を現地まで仕入れにいくケースがある。しかし、高々1週間程度のイベントでは、出張旅費などを考えると採算が取れるはずはない。関係者によると、三越伊勢丹ホールディングスでは1億円もの経費をかけて、1円の利益も出ないイベントがあったいうから、驚く限りだ。

 目玉企画では「顧客満足度アップ」「お得意さんへの感謝」「利益度外視のサービス」などの大義名分が挙げられ、実施へのハードルが下げられる。しかし、それらの理由で有り余る収益につながっていないのではあれば、経営者がメスを入れるのは当然だろう。杉江新体制ではイベントにもメリハリを付け、コストカットも厳格にするということである。

 もっとも、経営サイドが行おうとしている構造改革は、数字には表れるかもしれないが、あくまで内向きである。お客にとって「三越や伊勢丹は変わったね」と思える外向きの変化は、やはり商品や品揃え、サービスでしかない。

 新宿、日本橋、銀座の基幹3店で国内外のラグジュアリーブランド、百貨店系アパレルやミセス系のインショップ、オーダーサロンやギフト、宝飾品といった旧来の品揃えを主体に営業を続けているようでは、変化はもとより活性化にはほど遠い気がする。これらの店舗がターゲットに想定する可処分所得があり、消費意欲をもつ大人のお客にとって、それらは「今すぐにでも買いたくなるような商品ではない」からだ。

 杉江社長は、これら3店のMDに切り込むという具体性は挙げずに、店舗コンセプトの修正という抽象論を言及した。そこではまず新宿本店の『ファッションミュージアム』という方向性が見えづらいことから、「本当のファッションの伊勢丹への回帰」を合言葉に掲げている。

 では、「本当のファッション」とはいったい何なのか。国内外の高感度ファッション=ブランドを並べただけでそうなのか。あまりに漠然としていて、変化の具体性が見えねえよと突っ込みたくなる。

 新宿本店はこれまでの売上げ実績とアパレルメーカーの信頼により、日本のファッションをリードしてきたという自信に溢れていただけだと思う。売上げが下降しているのは、何より顧客の信頼を得なくなっている証拠だ。「伊勢丹の新宿本店に行けば、最新トレンド、旬のアイテムで、必ず欲しい物が見つかる」とは、多くのお客が思えなくなっているのではないか。

 確かに後倒しでもセールになれば、新宿本店は開店前から長蛇の列ができる。でも、それはブランドが安く買えるから、お客が来ているだけではないのか。言い換えれば、プロパーでコンスタントに売れている=お客がカネを出しても買いたくなる商品がどれほどあるのかということである。

 J.フロントリテイリング傘下のギンザシックスは、ブランドテナントを誘致することで「ファッションスペシャリティモール」を目指そうとしている。それがどういう成果を生み出すのか。オープン直後の今、結論を出すのはまだ早い。伊勢丹が本当のファッションに回帰するのなら、仕入れにしてもテナント誘致にしても、ギンザシックスとは別次元の方向性を打ち出さなければならないはずだ。

 すぐにでも買いたくなるようなファッションは、もはやワールドワイドである。お客はネットを使って国内外のブランドから通販サイトまでに目を凝らし、価格と価値のバランス、自分の感性やライフスタイルに照らし合わせて、ほしい商品を探している。こうした現状をどう捉え、即応するのか。百貨店だけの次元で考えても、去っていったお客は呼び戻せない。当然、新宿本店にファッションリーダーとしての復権などあるはずも無い。

 日本橋店は「富裕層とエグゼクティブに特化した店づくり」として、ラグジュアリーブランドや宝飾・時計などを強化するという。これについてもターゲットを確実に押さえ、売上げを維持、拡大できるかには疑問符がつく。店舗が設定する商圏はせいぜい関東一円だろう。そこに住むお客は可処分所得は多いが、並行して高齢になっている。先が見ている人間がそれほど浪費するとは思えない。

 売上高は客単価×客数、客単価は商品単価×買上点数で決まる。確かにラグジュアリーブランドや宝飾・時計は単価は高いが、買い上げ点数は多くなく、商品の回転率は落ちる。また高額商品を販売するには、高い販売力が不可欠になる。販売力はヒューマンスキルだけでなく、売場づくりや売り方などの仕掛けも必要で、売上げに弾みを付けるのは、そんなに簡単なことではない。

 商圏が決まっている店舗販売だけでは、どうしても限界があるだろう。暖簾や信用を生かし外商など営業開拓を積極化するにしても、コスト面との兼ね合いとなる。高額商品を扱う以上、商圏の拡大(地方の富裕層にも照準)は不可欠だし、成熟したマーケットでは品揃えのバリエーション(デザインや感度)を広げないと、ジリ貧になる。三越のバイイングパワーが発揮できるかにもかかっているのだ。

 銀座店は「街のフラッグシップとしての店作りをしていく」というが、数年前の改装効果すら出せていないのに何をか言わんやである。有楽町そごうは家電量販店が後を受け継ぎ、有楽町西武は駅ビルのルミネに代わった。「郊外にしか店がないので、仕事帰りに寄ってみたい」との丸の内OLのニーズからプランタン銀座にはニトリが出店した。でも、それらは売れ筋対応で、決して提案型ではない。

 ギンザシックスは国内外のラグジュアリーを集積したが、インバウンドへの過度な期待は禁物だ。他にも銀座にはラグジュアリーから、コムサのアルチザン、ファストリのGUまでピンキリある。そう考えると、銀座店で化粧品や雑貨をエントリープライスで販売したところで、競争から抜け出せるとは思えない。

 アパレルについて言うなら、松屋銀座が展開していた「ソーホーズルーム」くらい尖った売場を作らない限り、メンズ、レディスともマーケットの穴は埋められないと思う。「世界で一番人が集まる場所」であるからこそ、捕捉できてないお客はまだまだいるはずだ。それに照準を当てていかない無いと、新たなマーケットは掘り起こせない。

 化粧品は海外を含めて新たなブランドを開拓する必要があるだろうし、雑貨は機能や感度に照準を当てて、価格を上げないと、銀座にはそぐわない。コスメは国内外で次々と新商品が開発され、日本の制度の枠内で販売代理先を求めている。肌に合う合わないがあるので、誘致には慎重を期す必要があるが、総じて利益率は高いので狙い目になるし、すでにセレクトショップなどが販売に乗り出している。如何せん、百貨店は有名ブランドに拘り過ぎるあまりに、出遅れ感が否めない。

 雑貨は参入障壁が低いために猫も杓子も扱って値崩れし、マーケットは荒れている。だからこそ、銀座店は企画力や専門性が高く、確かな品質の商品をどこまで開拓できるかだ。インテリア寄りに振るのも一つの手かもしれない。ニトリがあるわけだが、それでは満足しない層が一定数はいるはずだ。




 かといって銀座に店舗を構える大塚家具が好調なわけではない。ならば、 いっそのこと、三越伊勢丹と共同で新業態をリーシングしてはどうか。提携は大西前体制からビームスや旅行、ブライダルと積極的だった。両社とも業態開発は無理だろうから、個人的には米国の「クレート&バレル(https://www.crateandbarrel.com/)」くらい誘致できれば、面白いと思う。

 イッタラやトンフィスク・デザインなどの北欧系雑貨はすでに珍しくなくっている。そんな雑貨を取り扱う専門店を誘致したところで、お客は飛びつかない。大ナタを振るうだけでなく、その後にどんな芽を出すことができるのか。お客が「三越も伊勢丹も変わったから、行ってみよう」と思えなければ、収益の回復にはほど遠いと思う。

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