HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

発信力は消費に?

2017-09-06 06:54:34 | Weblog
 先日、東洋経済オンラインが慶応義塾大学教授の「東京ガールズコレクション(TGC)驚異の事業構造」と題したルポを掲載した。教授はメディア論を研究しており、「今や TGCはメディアコンテンツとして、情報発信の効果は絶大だ」と、記している。

http://toyokeizai.net/articles/-/186493


置き去りにされるアパレル

 人気モデルとトップアーティストによる総合エンターテインメントに成長したTGCは、F1層(20歳〜34歳までの女性)から圧倒的支持を受け、認知度も94%を誇る。「回を追うごとに高まる発信力は、TGCとソーシャルメディア(SNS)との相性のよさが相乗している。会場来場者数延べ約3万人、LINEでの生中継視聴者数140万人以上、さらにTGC当日の「#TGC」でのツイートは1億インプレッション以上……。広告換算額は50億円超に上る」のだそうだ。

 さらに「最旬トレンド・マーケットを熟知し、開発から流通、リアルからメディアまでを網羅したTGCは、エコシステム(複数の企業や登場人物、モノ、コトが有機的に結びつき、循環しながら広く共存共栄していく仕組み)の中心にいるプラットフォーマーとしてとらえることができる」のだという。

 スポンサー企業にとっては、こうしたプラットフォームが特定の業界やカテゴリーに特化していないことで、インフルエンサーとなるモデルやイベントスタッフ、会場に訪れる客や生中継の視聴者、リツィートする層にリサーチを行えば、商品開発やマーケティング、デモンストレーションを行うことも可能になる。ここまでは筆者も異論はない。

 また、教授はメディア的側面から「こういったすべてのチャネルを連携させて顧客にアプローチし「加速化するチェーン効果」を創出するビジネスモデルを「アクセラレートモデル」と称し、「アクセラレート(加速化)するバリューチェーン(価値連鎖)である。アクセラレーターは既存事業の急成長を加速化する支援者である」とも論じている。

 知名度もブランド力もない企業がスタートアップする時期にTGCのプラットフォームを使用して、コンテンツ類で有力企業と提携することで、パートナーシップを具現し、成長軌道に乗れる可能性もあるようだ。

 しかし、筆者は良いこと尽くめではないと思う。敢て反論させてもらえば、彼女たちがランウェイで身に纏う衣装は、「リアルクローズ」という「売れる服」。そのため、TGCにはデザイナーが創作する「クリエーション発信」の意味合いはない。TGCに登場するファッションは、もはやメーンのコンテンツにはなり得ず、代わって美容や化粧品、健康食品、ブライダル、食品などの企業が情報発信やマーケティングに活用しているのだ。

 ファッション価値としては、「あのモデルがプロデュースしたブランド」「あのタレントが着ているから、私も着たい」程度のものだ。リアルクローズという言葉は耳当たりが良いが、登場するブランドは原価率を極限まで落としたチープクローズに過ぎない。慶応大の教授がTGCの情報発信力を礼賛するのに対し、アパレル側がいくら衣装提供をしたところで、業界全体の疲弊を食い止められないのは、全く皮肉な点である。

 C to Cで商品を売買するメルカリが協賛しているのを考えても、彼女たちがTGCに登場したアイテムを購入したところで、気に入らなければ「売れば良いや」くらいの程度だろう。端からそうした発想でブランドを購入しているとも考えられる。当たり前のことだが、彼女らは高額なファッションに投資し、高級ブランドを所有することに価値を求めていないということでもある。

 加えて、TGCのインフルエンサーやアクセラレーターが、マーケティングやコンテンツ開発の対象たるかについても、筆者は疑問に思う。一口にF1層と言っても、下は20歳から上は34歳である。20歳なら学生もいるし、OL1〜2年生もいる。22〜23歳なら結婚し、育児を担う主婦もいるし、まだ大学に通う学生もいる。

 年齢、階層で収入や生活実態が違うのだから、マーケティングやコンテンツ開発の条件が一律なわけがない。そもそも、20歳と34歳ではライフステージが全く異なる。当然、消費にかける金額や内容も明らかに違ってくる。なのにインフルエンサーやアクセラレーターというニューワードだけでアプローチし、十把一絡げで現象を論じることに非常に違和感を覚える。TGCのスポンサーがイオンカードやリポビタンファインを除けば、大企業やトップブランドが名を連ねていないのは、そうした理由があるのではないか。



 まあ、9月2日に開催されたTGCにマイナビが冠スポンサーだったことも、彼女らが就職情報サービスのメーン対象でもあるからだ。アルバイトや転職を繰り替えす層でもあるわけで、それだけ飽きやすい人間が多い階層とみることもできる。裏を返せば、商品開発やマーケティングで彼女らにフォーカスするのは容易ではないとも言えるだろう。

 大学教授にTGCのメディア価値をあれこれ言われるまでもなく、大企業ともなればマーケティングやプロモーションを別の仕掛けで行うノウハウを十分に蓄積しているはずだ。でなければ、宣伝会議の別冊「販促会議」があれだけの特集を組めるはずがない。

 アパレル業界なら20歳でも人によって好みが違うし、30歳になると意識やマインドが広がるから、いろんな企画で商品開発を行わないと、服は売れない。言い換えれば、TGCのスポンサーである美容や化粧品、健康食品、ブライダル、食品などの企業は、F1層にアプローチすれば目的が達成できると考えているのであれば、企業のコンテンツ開発はいたってアバウトなものと言わざるを得ない。


地方自治体はドル箱?

 TGCの新たなステージとして教授が取り上げた「TGC KITAKYUSYU(北九州)」も、主催者である北九州市の大本営発表をそのまま鵜呑みにしている。大学教授ともあろう方が「今年1月、北九州市産業経済局MICE推進課から発表された経済効果(2016年)は、約17億1000万円に上った」と、行政特有の水増し数値を検証もしないのはどうなのか。それとも、このくらいの額なら信憑性があるとの思い込みなのか。

 TGC KITAKYUSYUについては、このコラムでもその政治的な事情を解説している(http://blog.goo.ne.jp/souhaits225/e/092c0e3cd530f7c31e8b4de1ef552558)ので、ここでは詳細は述べない。

 福岡のガールズコレクションでは、福岡市が2009年から「福岡アジアコレクション/FACo(TGCと双璧をなす神戸コレクションをフォーマットにする)」を先行させている。これは当時の麻生渡福岡県知事の肝いりで発足した「福岡アジアファッション拠点推進会議」が4つの事業の一つに位置付けてスタートした。

 福岡県がメーンで事業費の補助金(約2000万円)を拠出するのは3年限りで、あとは民間事業化すると約束がなされていた。しかし、ガールズコレクションの地方開催は、民間スポンサーだけでは厳しい。そんな時、九州朝日放送アナ出身の高島宗一郎が福岡市長に就任した。すると、「かわいい区」をはじめタレントを起用する事業に次々と予算を拠出し始めたのである。

 神戸コレクションを主催するMBS毎日放送からガールズコレクションのビジネスモデルを指南され、FACoをプロデュースするRKB毎日放送にとっては、まさに「救世主現れる」だった。ただ、福岡市がメーンでFACoに補助金を出すようになったからと、福岡県が支援を停止したわけではない。麻生知事からバトンを受けた小川洋知事も支援は継続している。

 北九州の北橋健治市長にとって、なぜ福岡市ばかりが県の恩恵を受けるのか。それでもなくても、北九州市は福岡市に比べると、都市の活力で引けをとっている。首長として「北九州市にも福岡県は支援する」ことを見せておかないと、政治家としての手腕を疑われる。TGC KITAKYUSYUの開催は、それをアピールする格好の場となったわけだ。

 しかも、北橋市長は東京大学卒で、麻生元知事、小川現知事は京都大学卒という学閥争いも絡んでいた。東大出からすれば、格下の京大に負けるわけにはいかない。結果、北橋市長は小川知事を引き連れての「東京ガールズコレクション in 北九州」開催の記者会見をこぎつけた。北橋市長の満面の笑み、小川知事の照れ笑いは、政争の結果を如実に表す。



 慶応大学の教授は「TGCがアクセラレーターとして加速させているのは、 地方創成、日本企業の海外進出支援、国際貢献など多岐にわたる」と、言い切る。TGCはこれまで北京や上海での開催実績をもち、TGC ジャカルタでは参加ブランドの海外進出も支援している。

 また、2015年2月には国連が推進する女性のエンパワーメントと女性が輝く社会に向けて、国連の友Asia-Pacificとの提携を発表し、 2018年5月に国連本部にてTGCのファッションセレモニーを開催することが決定している。それらの根拠からだ。

 もっとも、ファッション事業というマクロで見れば、クリエーション発信であるJFWや東京コレクションには、これまで所管の経済産業省から補助金が拠出されていた。しかし、 今イチ投資対効果が明確にならなかったため、予算がカットされている。東コレのスポンサーにアマゾンがついたのも、国からの補助金では開催できなくなったからだ。

 片や、TGCの地方開催や海外進出という実績は、追い風になっている。縦割り行政により、地方自治体や外務省、文化庁が支援にまわり始めたからだ。おそらくTGCを運営するW TOKYOが既にイベントを開催した沖縄や名古屋、宮崎、福島、北九州などを除き、他の主要都市にも開催の営業をかけているのは、容易に推察できる。

 開催の大義は何でも良い。福島は震災復興であり、北九州は地方創生だった。こう考えると、熊本市の大西一史市長が2019年にTGCの熊本開催を示唆したのも説明がつく。「震災復興」「にぎわい復活」「ファッションの街、復権」。大義がいくらでもある。こうしてW TOKYOや神戸コレクションに携わるアイグリッツはプロモーターとして、行政や自治体のお墨付きと資金的バックアップを受けて、収益基盤を安定させていくのである。

 その意味で慶応大教授のルポでは、一つ抜け落ちていることがある。それはトップモデルというタレントの肖像権管理が徹底されていることだ。いくら情報発信力を喧伝しても、カネを出さないところに、イベントの模様やタレントの写真は一切使わせない。 これは一般報道機関はもとより、ファッション系メディアにもだ。

 無償で二次使用できないからTGCを利用したプロモーションなどの新たな展開ができないのだ。教授のルポですら、メーンビジュアルはステージの「引きの写真」しか使えないのが何よりの証拠である。

 メディア論からマーケティングやアクセラレートを語ろうが、所詮、TGCはタレントを活用した客寄せ興行に過ぎない。人がたくさん集まるから、コンテンツとしての価値、情報発信機能があるというのは事実だが、それもタレント頼みでしかない。

 芸能人がもつ清廉イメージと醜聞リスクの二面性は諸刃の剣であり、不安定要素は尽きない。ハーフで早稲田大学卒。報道番組のキャスターやラジオのパーソナリティも務めるモデルとて、番組を降板すれば局アナとの不倫報道まで出るのだから、一目瞭然である。また、インフルエンサーとてF1層のライフステージが安定していないことから、消費行動は目紛しく変わっていく。

 言い換えれば、TGCはファッション雑誌が売れずに仕事が激減しているモデルやタレントの受け皿、CDが売れずに行き詰まっているアーチストの営業の場であり、そして観客はリクルーティングや転職の対象とでも言えようか。

 この手のイベントはとにかく情報発信力ばかりがクローズアップされるが、イベントはタイムデザインである。事象は一過性のもので時間とともに消えていくから、映像などを残さないとアーカイブにならない。だから、実際に市場を開拓し、どこまで消費につながっているのか。具体的なデータが一般に公表されることはほとんどない。

 それが反響や行動実態の検証を曖昧にしている面は否めない。だが、仮にも大義を掲げ、行政が公金を拠出してイベントを実施する以上、投資対効果におけるきめ細かなデータを公開すべきではないのか。でなければ、イベントの大義は形骸化し、ただお客を集めて収益を上げれば良いだけになってしまう。

 結局、プロモーターと芸能界が潤うだけなのに、アカデミックなメディア論も彼らの思惑を正当化するだけの安っぽい言説に見えてしまう。

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