HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

FRはフェイク止まりか。

2017-04-08 14:17:33 | Weblog
 ユニクロを展開するファーストリテイリングが先日、ニューヨークで初めての展示会を開催した。当地がもつ世界への発信力に期待し、プレスプレビューを通じてグローバルメディアでの露出効果を狙ったようである。

 同社がこれまでに語ってきた「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」。昨年からは「今までのアパレルブランドとはまったく異なるライフウエア」「世界唯一の新しいカテゴリーの服を追求し続ける」と、訴えている。企業理念やスローガンはフランスだろうが米国だろうが、どこのアパレル企業も掲げている。要はそれが示す通りの商品を提供し、お客を満足させられるか。それがいちばん難しいのである。

 同社が掲げる理念やスローガンを見ると、もっと早くニューヨークで情報発信しても、良かったとみる向きもあるだろう。ただ、ここまで後ろ倒しになったのは、情報の中身である「商品企画」がまだまだ米国レベルに追いついていないと、柳井会長は判断していたのではないか。

 実際、ユニクロの商品はベーシックで、最先端のトレンドを追いかけるものではない。価格に対して品質が良く、機能性が優れていることが売りだ。だが、ファッションの場合、メディア受けのポイントは第一印象。ヴィジュアル面でのインパクトが重要で、デザインで存在感が無いのはハンディになる。そこをメディア側も見逃すはずがない。

 同社ははるか以前からニューヨークにデザインルームを置いているが、本部サイドが世界中でコンスタントに売れる企画を重視するため、提案面で特段の成果を発揮してきたとは言い難い。しかも、米国事業は赤字が続いている。柳井会長のことだから、その辺をメディアに突っ込まれないように満を持してのNY展示会だったのではないか。

 時系列でいけば、先にジル・サンダーやクリストフ・ルメールとコラボして話題性を振りまく。昨年からはルメールのデザインチームによる「Uniqlo U」をスタートし、アパレル関係者に「縫製が微に入り細にわたって丹念」と言わしめるほど、商品づくりに磨きをかけている。こうして幾重にも実績を積み重ねることで、ユニクロの価値はグローバルメディアに対しても十分に通じるという自信がついたのだと思う。

 展示会では「デニム」「Uniqlo U」「エアリズム」など、ユニクロ注目のカテゴリー別に展示がなされ、それをモデルに着せた2017-2018秋冬コレクションも行われている。どんな商品が企画されたのか。米国単独の企画があったのか。メディアの反応はどんなものだったのか。報道を見るだけでは、詳細はわからない。

 ここはプロとして商品を見た印象をストレートに書いてみる。プレス写真を見る限りでは、少しはニューヨークでの売れ線を意識したように見える。特に筆者が注目するのは、フェイクレザー(たぶん合成皮革)を使ったジャケットやコートである。

 従来のユニクロでは秋冬の定番はフリースやダウンだった。ただ、ニューヨークに限れば真冬の気温は氷点下になる厳しさ。インナーはヒートテックで賄えるとしても、アウターには防寒用のアイテムが必須になる。ただ、ダウンは他社も作っているので別に珍しくなく、それに代わる目新しいものを提供できれば、ヒットの可能性は高い。それを自社の素材開発力を生かせるフェイクレザーで試したいのではないか。

 「人工皮革に注目を向けさせよう」と考えても不思議ではない。ユニクロの得意技が発揮できるのでブランディング戦略にも好都合と言える。ヒートテック以降、ヒットアイテムが出ていないだけに、何とかしたい思いは強いはずだ。

 柳井会長は「ファストファッションをやるということでは決してない」「良い情報を集めて自分たちに適した商品はどういうものかを見極め、それに沿った商品を作っていくことに尽きる」と語った。それは単に「安い」「早い」を重視して、品質や完成度を犠牲にするファストファッションには与しないということだ。

 しかし、米国市場で苦戦が続くのは、ベーシックな服だけでは通用しないからだ。特にユニクロの存在感を示すにはニューヨークでの評価は重要で、ファッションにこだわりをもつニューヨーカーに対し、流行を起こすようなアイテム提案が不可欠になる。個人的にはフェイクレザーのライダースジャケット、 ムートン風のコート、一部使いのウールコートなどで、まずは都会的な「着こなし提案」をしたいのではないかと考える。

 モデルにコーディネートした写真を見ると、ライダースのインナーにロングのダウンベストやロングスカート、レギンスを合わせている。冬のニューヨークはフェイクレザー1枚ではあまりに寒い。かといって、カジュアルで重たいコートはありえない。これならヒップ回りのボトムが野暮ったく見えず、マンハッタンを颯爽と闊歩できる着こなしになる。さらに寒くなれば、ムートン風などカジュアルなコートに着替え、ロングパンツを穿けばいいのだ。

 ファッション性、機能性、MD上という3つの条件をクリアする意味では、レイヤードスタイルという企画に落ち着きやすいと思う。販売戦略でもまとめ買いを促せるので、客単価のアップにつながる。逆にカリフォルニアは冬でも温暖だから、Tシャツの上にライダースでも十分いけるだろう。

 ユニクロは6〜7年前にレディス企画で、フェイクレザーを手掛たと記憶している。1型か2型程度でそれほど露出することもなく、1シーズンで終了している。2012年にアンダーカバーとコラボした「UU」でも一部見られたが、春の企画では合皮が本革のように伸びないためか、隅の始末でステッチの入れ方がいびつな商品が堂々と並んでいた。これは現場から柳井会長の耳に入っていたはずである。それが理由かどうかはわからないが、それ以降、レギュラーのアイテムではフェイクレザーは見かけていない。

 ユニクロのプライスラインでは、「本革」の使用は無理だ。低所得者が多い米国市場を攻略する上でも、投入は考えにくい。前回はベーシックなデザインが企画され、レザー特有のカッコ良さはなかったから、売れなかったという反省もあるだろう。縫製上の課題もある程度はクリアされたのではないか。だから、今回はライダースやムートンなどを仕掛けて来たと思う。ただ、これを日本に逆上陸させるとなると、どうだろうか。

 おそらく日本でフェイクレザーは売れないのではないか。ライダースはここ数年のトレンドで、合皮にしてもファストファッションが先行する。ムートンは量販系がすでに売り出している。今の日本では本革のライダースですら2万円以下で買えるし、オークションやユーズドのサイトではブランド品が格安で出回っている。大手ファッション通販では、未成年でも5万円以下はツケ払いが可能だ。若者はそちらに目がいくと思う。

 逆に所得に余裕がある大人は本革を購入できるから、フェイクレザーは支持しない。そこからもれている低所得者層を狙うなら、むしろGU向きのアイテムかもしれない。言い換えれば、それほどユニクロの企画がグローバル市場では頭打ちだとも言える。フェイクレザーは本革仕様の商品開発に踏み切れないユニクロの限界を写し出す。でも、それはユニクロが一番わっているはずだ。

 ニューヨークで売れないものは日本でも売れないだろうが、ニューヨークで売れたからと日本で売れるとは限らない。解決策は大陸ごとにマーケティングし、独自で企画をすることだろうが、そうなるとヒットアイテムは出にくくなる。かと言って出退店計画や店ごとに品揃えを変える程度では、米国事業における黒字転換にはほど遠いと思う。

 柳井会長はトランプ政権が進めている税制改革に言及し、国境調整による輸入関税を課し、企業に米国内での生産を求めるような要請があれば、「ユニクロはアメリカから撤退する」と発言した。「米国の消費者のためにはならない」との理由もつけたが、それは真意なのだろうか。筆者は「米国事業はいつ黒字化するのか」「できなければどう責任をとるつもりか」と、株主総会で投資家から突っ込まれた時を想定し、あらかじめ撤退するニュアンスをほのめかすことで、予防線を張ったのではないかと思う。

 ユニクロが商品企画において「ベーシックで上質」を売りにする限り、米国市場で今以上に売上げを伸ばせる理由は見つからない。NYでの展示会ではそれを超える何かを提案しようとしたのだろうが、グローバルメディアは商品を見た第一印象で、特にインパクトは受けなかったと思う。

 つまり、ユニクロの商品企画は米国市場攻略では完全に行き詰まっていると見ることもできる。人一倍プライドが高く、鼻息が荒い柳井会長が弱みを見せるとは思えない。企業ブランドにダメージがないようにうまく理由を付けていくはずだ。その意味でトランプ政権をヒールにすれば、自社も自分も傷つかないということである。

 柳井会長が語った「自分たちに適した商品はどういうものかを見極め、それに沿った商品を作っていく」は、商品づくりで答えが出せないことの裏返しともとれる。

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