HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

身土不二を具現化したデザイナー。

2014-10-08 04:58:50 | Weblog
 さる9月23日、デザイナーのヨーガンレール氏が不慮の事故で亡くなった。DCブランド世代にとっては、とても印象に残る服づくりをする方だった。

 ポーランド生まれのドイツ人。60年代初頭よりパリに渡り、テキスタイルを学んでデザイナーとして活動。その後、ニューヨークを経て、70年代はじめに来日した。

 同氏はテキスタイルデザイン、製造を手掛ける(株)ヨーガンレール社を設立。ビギ、メルローズ、ピンクハウスといったブランド企業を傘下に持つビギグループの一員として、レディス、メンズ、靴、バッグ、そしてアクセサリー類を販売した。
 
 特長は服づくりにはコットンやリネン、シルク、ウール、また金や銀、ストーンなどの天然素材しか使わなかったことだ。当時、様々な素材が出回る中、同氏は作り手だけでなく、服の着手にとっても重要との意味を込めて、生地からデザインにあたったのである。

 服は身につける人が最も心地いいと感じる「素材」であること。そのインスピレーションのもとに作られる服は当然、アレルギーや静電気が起こらないことが必須。となると、必然的にコットンやリネン、シルク、ウールといった天然素材になるわけだ。

 それらは自然界に存在する植物などで染められた。人工的な染料や顔料は一切使われていなかった。天然の素材が母なる地球や自然界のサイクルに一番合っているという考えからである。

 しかも、糸から丹念に選び抜かれ、丁寧に染め上げられた。そして、日本らしい昔ながらの機織り機で1反1反織られ、また時に吊り編み機を用いて1枚1枚編み立てされた。

 同氏は服づくりのフローをすべてコーディネートさせる独自の仕組みで、そのインスピレーションをひとつの服へと昇華させていったと言える。まさにファッションとは、素材という要素が大部分を握っていると言わんばかりである。

 また、色出し、生地や糸選び、接ぎのすべてに同氏なりの主張を通していくのは、ブランドとして服を単にフォルムだけでとらえたくないからだ。余分な虚飾を排しながら、身体を締め付けずに、人間が纏うように身につけられる服。同氏のクリエーションの真骨頂でもある。

 それでいて、野暮ったさを感じさせない。ファッションであり、モダンである。それこそが着る人のライフスタイルに合うというメッセージなのだ。

 まさに40年以上、ファンに愛される続けるのは、普遍のアイテムであって、不変のもの作りだからか。それを成し遂げられたのは、布と糸の匠ゆえの偉業に他ならない。

 同氏を知ったのは、筆者がちょうどデザインの仕事をし始めた頃。ワイズ、コムデギャルソン以外で興味を引かれたのは、その独特な素材感や風合いにある。

 知り合いがビギグループのあるブランドのプレスをしていたことで、同氏のインタビューに触れる機会もあった。もう30年近く前のことなので、記憶は不確かだがコメントはとても印象に残った。

 憶えている一部を書き出してみると、こんな内容だった。

 「僕は病気になりたくないから、煙草は吸わないし、体に悪いものは絶対とらないようにしています。白い砂糖は使いません。肉や魚などの動物性タンパク質もとりません。そうやって食べ物を選んでいくと、植物、しかも自然に産する食品に限られます」

 「仕事や生活スタイルでも自然を大切にしていきたいと思います。自然のものが体に一番いいのだと思います。そして、その自然に触れたくて毎年インドに旅行しています。移動中に見た景色には毎回感動します。自然に身を置くことが僕のエネルギー源です」

 コメントを見ると、同氏がベジタリアン、いわゆる菜食主義者であることがわかる。しかし、それ以上にストイックで、自らを律する精神の持ち主でもあった。

 晩年は沖縄に移住した。ここでもほとんど自給自足に近いライフスタイルだった。木造家屋に住み、畑では野菜やお茶を栽培していた。

 スピンオフの「ババグーリ」は、自然にこだわるライフスタイルの延長線上で、さらに職人の技を取り入れたブランドだ。天然の綿を手で紡ぎ、その糸を手織りし、草木で染める。手ぬぐい一つがすべて手作りだから、決して量産はできない。
 
 沖縄生活で栽培されたお茶、真の無添加石鹸もババグーリには加わえられていた。まさに「身土不二」を具現化したデザイナーである。

 享年70歳。本来ならまだまだ活動できただだろうし、事故死はご自身がいちばん無念だったと思う。ただ、自然豊かな沖縄が終末の地になったことがせめてもの救いだ。

 天然素材を愛し、身土不二を貫く精神、これからも大事にしていきたい。合掌
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