読書の記録

評論・小説・ビジネス書・教養・コミックなどなんでも。書評、感想、分析、ただの思い出話など。ネタバレありもネタバレなしも。

生きるための選択 少女は13歳のとき、脱北することを決意して川を渡った

2015年12月27日 | ノンフィクション

生きるための選択 少女は13歳のとき、脱北することを決意して川を渡った

著:パク・ヨンミ 訳:満園真木
辰巳出版


 北朝鮮という国、脱北者という存在。さまざまな噂はこれまでも見聞きしていたが、本書の内容が語る具体的な描写は想像以上の恐ろしさであった。
本書は、タイトルのごとく13才の年齢で脱北を決行して中国に渡ったヨンミが、2年を経て韓国にたどりつき、8才程度と認定された学力から、猛勉強の努力をして大学生になることを果たし、さらに海外にてスピーチなどするようになってその存在を世界に知られる現在(21才)に至る話である。

 その内容は壮絶に過ぎるのだが、ここで注目すべきは2年間の中国での逃げ隠れるような生活だろう。
北朝鮮という国で、庶民がどのような生活をしているのかは、わりと噂がたっているのだが(それでも三代前までさかのぼってその人のランクが設定される「出身成分」という話とか、算数の授業でモノを数える問題がプロパガンダを兼ねて「アメリカ野郎を何人殺したか」とか、やっぱり想像をこえている)、見過ごされがちなのは脱北して中国に入ってからの中国での扱いである。

 中国における脱北者の存在は原則として非合法なので、けっきょくマフィアが支配する人身売買の手駒にしかならないということなのである。つまりレイプを売春や児童労働の世界である。僕は迂闊にも中国にまで渡ればあとはもう安泰なのかと思っていたがまったくそうではないのだ。ある意味北朝鮮より酷いとも言えるし、しかもこれがあの北京五輪をやっていた最中の裏での出来事だというから二重にびっくりする。

 著者であるヨンミはその中国での人身売買を生き抜いてさらにそこから脱出し、モンゴルへの国境を命からがら越えて、そこからようやく韓国への道をつかむ。

 韓国にたどりついても多くの脱北者はビジネスや教育のスキルを持たないため、なかなか不遇から抜け出すことはないらしい。それでも韓国にたどりついただけまだ幸運なのだろう。ほとんどの庶民は北朝鮮から出られないし、わずかに脱北した人でも、出た先の中国で辛い人生のまま終わる人がやはりまた大半で、本当に自由を勝ちえた人はほんのほんの一部ということになる。彼女が今の場所にたどりつけたのは、不断の努力と失わなかった希望(これはもう「夜と霧」に並ぶ)だが、運も味方したのだろうとは思う。途中で力尽きた名もなき人も大勢いるのだろう。


 欧米で北朝鮮の実態を実名と素顔でスピーチする彼女は、北朝鮮のほうでもマークをしているらしい。願わくば次のノーベル平和賞は彼女に与えてほしいところである。そうすることで国際的な注目が彼女を守ることになり、北朝鮮も下手な動きが出にくいと思うのである。


この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 戦略読書 | トップ | 秘島図鑑 »