真実を求めて Go Go

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「スピンの泡」が時空に対応する、ループ量子重力

2014年02月04日 | 宇宙

スピンネットワークと時間空間の関係を、下の3枚の図によって表してみました。


左図:空間は糸を織り合わせたような存在である。
中図:スピンネットワークのノードに物質が存在する。
右図:無数の時計が断続的に時を刻むことによって、時間は進んでいく。


 この3枚の図から想像すると、ループ量子重力理論でいうところのノードに物質が存在し、私たちの認識している空間は、糸を織り合わせたような空間であり、そして、断続的な時間が空間と合わさって、時空として目の前に現出していると言うことなのだろうか?

 そもそも、体積や面積の量子状態とはどのように見えるのだろうか。空間は多数の小さな立方体や球からできているのだろうか。ループ量子重力理論は時空についてこのほかに何を語ってくれるだろうか。

 答えは、図が示しているような単純なことではないであろう。しかし、体積や面積の量子状態を抽象的に表すと、下図1のように表すことはできる。これは数学の高雅な一分野と関連していてとても美しいものである。


図1:空間の量子状態を立体的なグラフに表す
 ループ量子重力の研究では、極微の空間の量子状態を表現するのに「スピンネットワーク」という図を利用する。見やすいように、多角形の形をした体積を表す方法を紹介する。一例として立方体(a)を考える。これに対応するスピンネットワークは、立方体の体積を表す1つの点(ノード)と、立方体の6つの面を表す6本の線になる(b)。ノードのそばには立方体の体積を示す数字を書き入れ、線にはそれぞれに対応する面の面積値を記す。図の場合、体積は8立方プランク長、各面の面積は4平方プランク長である。ループ量子重力の法則によって、これら体積と面積の値は特定の量に制限される。ー定の組み合わせ則にマッチした数値だけがスピンネットワークに表れる。次に「ピラミッド形の四角錐が立方体の上にのったとする(c)。スピンネットワークでは立方体のノードとピラミッドに対応するノードが線で結ばれる(d)。ピラミッドの表に出ている4つの面に対応して、ピラミッドのノードからは4本の線が外に伸びる。立方体についても同様に、5本の線が外に伸びる(簡潔にするため数字は省略してある)。スピンネットワークでは一般に、1つの面積量子を1本の線で表す(e)。複数の面積量子からなる面は多数の線で表現される(f)。同様に1つの体積量子は1個のノードで表現し(g)、よリ大きな体積は多数のノードとなる(h)。球形の殻で定義された空間を考えると、殻の内側の体積はそこに含まれるノードの総和となり、殻の面積はこれを貫く線の総和となる。どんな多角形の配置でもスピンネットワークに表現できるし、多角形では描けないような体積・面積の配置も表すことができる。強い重力によって曲がった空間や、極微のプランク尺度で空間の幾何構造が量子ゆらぎを起こしている様子などは、スピンネットワークでしか表現できない。


 図の意味を理解するため、上のイラストにあるように、立方体の形をした1つの空間を考えてみよう。このサイコロのような空間を、図では点で表現する。そこから伸びている6本の線は立方体の6つの面をそれぞれ表す。点の横には立方体の体積に相当する数字を書き入れ、線の横にもそれぞれに対応する面の面積を記す。

 次に、立方体の上にピラミッド形の空間をくっつけるとしよう。2つの多面体は1 つの面を共有している。この場合、図では2つの点(体積)を1本の線(共有面)で結んで表現する。立方体には共有面のほかに5つの面があるので、別に5本の線が伸びる。同様にピラミッドからは4本の線が出る。

 このようにすると、立方体やピラミッド形だけでなく、いろいろな多面体が複雑に配置している場合でも、点と線からなる図によって表せる。体積を持つ多面体は点(ノードともいう)によって、多面体の各面は線で表現でき、隣り合う多面体が共有する面は点と点を結ぶ線となるわけである。このような線図のことを、数学の専門用語では「グラフ」という。

 ループ量子重力理論の研究では空間を多面体で描くようなことはせず、このグラフを使う。体積と面積の量子状態を記述する数式から、ノードと線が取りうる結びつき方や、グラフに書き込まれる数字についてのルールが導かれる。どんな量子状態もこうしたグラフによって表現でき、逆に、このルールに基づいて描かれたグラフは1つの量子状態に対応する。このグラフを利用すれば、空間が取りうるあらゆる量子状態を簡便に略記できる。

 量子状態を表現するには多面体よりもグラフのほうがよい。多面体の図ではうまく描けないような場合でも、特殊な結びつき方のグラフとして表現できるからである。例えば空間が曲がっている場合、多面体の組み合わせでは適切に描けないが、グラフなら簡単に表現できる。それどころか、グラフさえあれば、それに対応する空間がどれだけ曲がっているかを計算できる。空間の曲がり具合が重力を生むのだから、このグラフから量子重力理論が導かれることが理解できるだろう。

 話を単純にするためグラフは2次元で描かれる場合が多いが、それが表現している実際の3次元空間を想像しながら見るのがよい。ただし、ここで勘違いしやすいので注意が必要である。グラフのノードと線は、空間の中で特定の位置を占めて実在しているわけではない。グラフを定義しているのは、構成要素の結合の仕方と、各要素が明確な境界(境界Bのような)とどう関連しているかということだけである。あなたがグラフから想像するような連続した3次元空間など、独立した実在としては存在しない。存在するのはノードと線だけ。これらが空間そのものであり、点と線の結びつきが空間の幾何構造を決めているのである。

 これらのグラフは「スピンネットワーク」と呼ばれる。グラフ上の数値が量子力学で「スピン」と呼ぶ量に関連しているからである。オックスフォード大学のペンローズが1970年代初期に、スピンネットワークが量子重力理論で何らかの役割を演じるだろうと初めて提唱した。そして1994年、この予言を正確な計算によって裏付けることができた。

 ところで、「ファインマン・ダイアグラム」をご存知の読者は、それがスピンネットワークとは別物であることに注意してほしい。見かけはよく似ているが、ファインマン・ダイアグラムは粒子の間に働く量子力学的相互作用とそれによる粒子状態の変化を表す。これに対しこのグラフは、空間内の体積と面積についての固定された量子状態を表現している。

 さて、グラフの個々のノードに対応する空間領域は非常に小さい。典型的には、1個のノードがおよそ1立方プランク長の体積に、1本の線がおよそ1平方プランク長の面積になる。ただし、スピンネットワークの大きさや複雑さを制限するものは原理的には何もない。宇宙全体の量子状態を詳しく描いたらどうなるだろうか。空間は銀河やブラックホールその他の重力によって曲げられており、その幾何構造を詳細に反映したグラフを描けたとしたら、ざっと10^184個のノードが想像を絶する複雑さで結びついた巨大なスピンネットワークになるだろう。

 こうしたスピンネットワークは空間の幾何構造を表しているわけだが、その空間に含まれる物質やエネルギーはどう表現するのか。ある位置を占める粒子や、ある領域に広がる場を、どう表現するのか? 電子などの粒子はあるタイプのノードに対応し、ノードに別の目印を書き加えることで表現する。電磁場などの場については、グラフ中の線に目印を書き加えて表す。粒子や場が空間の中を動いていく場合、グラフ上ではこれに対応する目印が移動していく。


図2:空間の量子状態をグラフに表す
 空間の中で物質やエネルギーが移動したり、重力波がやってきたりすると、空間の形が変わる。こうした変化はスピンネットワークの突然の組み替えという「動き」によって表現される。図aは互いに結びついた3つの体積量子が合体して1つになる例である。逆の過程も起きうる。図bでは2つの体積量子が存在するが、隣接する体積量子との接続が異なっている。多角形の図で表すとすれば2つの多角形が1つの面を共有してくっついているのだが、結晶が以前とは異なる面に沿って割れるように、再配置が起きている。こうしたスピンネットワークの動きは、空間の幾何構造が大規模に変化するときだけでなく、プランク尺度での量子ゆらぎによって常に生じている。スピンネットワークに時間の次元を加えることによっても、こうした動きを表現できる。これが「スピンフォーム」で、図Cに一例を示す。スピンネットワークの線が平面となリ、ノードは線になる。ある時刻でスピンフォームを切った断面がスピンネットワークとなる。さまざまな時刻で切リ取った断面を並べると、スピンネットワークが時とともに進化する様子をコマ送リの映画のように見ることができる(図d)。この変化はー見すると滑らかで連続的に思えるが、実際には不連続である。図dのうちオレンジ色の線を含んでいる最初の3コマは、いずれもまったく同じ幾何構造の空間を表している。オレンジ色の線の長短は無関係である。幾何構造に関係するのは線のつながリ方と付記される数字であって、それによって体積と面積の量子の配置と大きさが決まっている。だから、図dの最初の3コマはどれも体積量子が3個と面積量子が6個で、幾何構造に変化はない。ところが最後のコマでは体積量子1個と3つの表面になり、幾何構造が不連続に変化している。このように、スピンフォームによって定義される時間は突然に生じる不連続な動きに基づいて進み、連続した流れではなくなる。コマ送り映画のたとえは視覚的にはわかりやすいが、幾何構造の時間発展をより正確に理解するには、時計が不連続に時を刻むと考えるのがよい。ある時刻にはオレンジ色の線に対応する面積量子が存在し、次の時刻には消える--オレンジの面積量子の消失そのものが、時の刻みを定義するのである。ある時刻と次の時刻との間隔はおよそ1プランク時間、10^-43秒である。この間には時間は存在しない。隣り合う水分子の間に水が存在しないように、刻まれた時の“はざま”に時間は存在しないのである。


 動き回るのは粒子と場だけではない。一般相対論によると、空間の幾何構造も時とともに変化する。物質やエネルギーが移動するにつれて空間の曲がり具合が変化し、これが湖面を伝わるさざ波のように広がっていく。ループ量子重力理論では、こうした過程をグラフの変化として表現する。グラフのつながり方が変化するという「動き」が生じ、グラフが時間とともに姿を変えていくのだ(図2参照)。

 ペリメター理論物理学研究所のティーマンが、スピンネットワークの動きについて量子力学的な確率を正確に導き出した。これによって、ループ量子重力理論の詳細が固まった。同理論に従う世界の中で起きるあらゆる物理過程について、その確率を計算する明確な手法が手に入ったのである。あとは、理論計算に基づいて何らかの現象を予言し、それを実験で確かめればよい。

 アインシュタインは特殊相対論と一般相対論を通じて、時間と空間を「時空」という1つの実在に融合した。ループ量子重力理論の場合、空間に対応するのはスピンネットワークだが、これを拡張した「スピンフォーム(スピンの泡)」と呼ぶものが時空に対応する。スピンネットワークに時間という次元を付け加えると、ネットワークを構成する線が2次元的な広がりを備えた面になり、ノードは線になる。スピンネットワークの遷移(前述したスピンネットワークの「動き」)は、スピンフォームの中で線と線がノードで合体することよって表現される。

 時空という見方に立つと、ある瞬間の状況は時空の断面に相当する。スピンフォームの1つの断面を切り出したものがスピンネットワークである。ただし、こうした断面が時間とともに滑らかに連続して動いていると考えるのは間違いだろう。むしろ、空間が個々のスピンネットワークに固有の幾何構造によって定義されるのと同様に、時間はネットワークの組み替えという個々の動きの積み重ねによって定義される(図2参照)。

 こうして、時間も離散的なものになる。時間は川の水のように連続して流れるのではなく、時計がチクタクと刻むようにして進む。そのひと刻みがプランク時間、10^-43秒である。より正確にいうなら、私たちの宇宙における時間は無数の時計が時を刻むことによって進んでいる。スピンフォームのどこかに量子的な「動き」が生じるたびに、その場の時計が時を刻むのである。


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